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【再掲】ZOZO礼賛の後に手のひら返しした人に読んで欲しい、ZOZOの戦略の本質と評価

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2019年9月12日 6時50分

同社は19年3月期で前期比20.9%増となる3270億円の商品取扱高を見込んでいる。 写真はロイター

12日朝、ヤフーがファッションEC大手ZOZOを買収する準備をしていると、各社が一斉に報じた。過去にDCSオンラインが報じたZOZOの戦略に関する記事を再掲(2019年6月12日公開)する。

 

ZOZOSUITが世に出たとき、私の周りの「コンサルタント」達は狂乱していた。理由は、そこに「近未来」を感じたからだろう。その後、アナリスト達が便乗し、「ZOZOSUITで、ZOZOはユニクロに追いつくどころか打ち倒す」、「ZOZOは世界の覇者となる」とまで言い切る人まででてきた。だが、当時から私には、なぜそれほど評論家達が狂乱するのか理解できなかった。

「ZOZOCARD」を持った人は5%のポイント還元を打ち出したが、「ZOZOARIGATO」キャンペーンとの差異は打ち出せなかった

私がZOZOSUITが苦戦するだろうと感じた理由

 私がこのSUITは苦戦するだろうなと配布当時から感じていた理由は、325日掲載の日経xTECH上でなされた詳細な分析とほぼ同意見なので参考にしてほしいが、そもそも実際に事業をしているものであれば「一般消費者達が、あのような手間な計測ツールを利用しがたい」ことは容易に想像がつくだろう。

  致命的だったのは、ZOZOSUITが世に出たとき、そのSUITを使って購入するプライベートブランド(PB)の服の陰も形も分からなかった点だ。ZOZOは、先にSUITを出して、遅れてプライベートブランドを発表した。我々は、「服屋」であれば「服」を売る、「消費者」であれば「服」を買う。目的は「服を買うこと」だ。その服の姿形もわからないのに、なぜ「ZOZOSUITで世界制覇が可能だ」と言えるのかということだった。

 そもそも、サイズを計測することは、服を買う目的の一つの手段に過ぎない。ZOZOはリアル店舗を持たないため、ZOZOSUITというツールを用いてそのギャップを埋めようとしたのである。勝負は、PBが出てからのはずだった。

 よくよく調べてみると、騒いでいたのはアナリストやコンサルタントなど、おおよそ自分では服を買わなそうな「評論家」やハイテク好きな非消費者が多かったように思う。だから、私は「うまくいかないな」と直感したのだ。ヒット商品は、ダイレクトに消費者が反応するものだ。「外野」がいくら騒いでも、目的不在の状態では、テクノロジーの評価は下せてもビジネスとしての評価は下せない。

 そのデザインが近未来的だったこと、そして、そのような発想でリアル店舗を持たない「弱み」を克服しようとした試みは、新しいことにチャレンジしない日本のアパレルと比べて素晴らしいトライだと高く評価すべきだと思う。しかし、服屋としての「本来目的」に立ち帰れば、HOW (計測技術)もさることながら、WHAT (商品完成度)についてもっと煮詰めるべきだった。なぜなら、我々が買うのはSUITではなく、服だからだ。

 ZOZOは、ナイストライだったはずのSUITを、「外野」に翻弄され潰されたといえないか。その後、アパレル・ビジネスとは関係ない有名女優との交際や宇宙旅行などの話題で、ZOZOはメディアを賑わすが私はそのことに全く興味はない。なぜなら、それらはアパレルビジネスとは関係ないからだ。

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ZOZOARIGATOは、実はフェアな値引きの仕方だった!?

ZOZOの戦略を正しく評価する

 ZOZOは、その後、取得・保管したデータを各NBブランドに開放し、サイズデータのプラットフォーマーになるといった「三方良し」の戦略を発表したが、その戦略は私は正しいと思う。

 もともと「ものづくり」というのは、そんなに単純なものではない。そもそも小売業が、しかも、まだ世界のどこもやれていないようなスマートファクトリーを活用し、パーソナルオーダーを行うというのは、それほど簡単に実現できるものではない。ものづくりに精通したメーカーか商社などとしっかり取り組み、強固なビジネスモデル設計をする必要がある。これは製造ノウハウがある製造小売業にとってもハードルは高い。だから、ものづくりの手前のサイズデータを囲い込むというのは非常に意味があるわけだ。これを公式化すると、

高い商品開発力 × SUITのようなハイテクツール × 製販連携したビジネスモデル(マス/カスタマイゼーション)、となる。

 この3つは切っても切り離せない関係にあり、どれか1つだけで成功するということはない。ZOZOSUITは、さらに熟成をかさねてゆけば本物の世界制覇の道具になりえたかもしれないが、それを潰した「外野」の責任は大きいと思う。

  ZOZOARIGATOも、空前の失敗という烙印を押されたまま、5月30日をもって終了した。しかし私は、この戦略についても、批判ばかりが目立っているが一理あると思っている。

 前澤社長は、「リアル店舗はあの手この手でディスカウントを行っている。なぜECはできないのか」と疑問を呈しているが、私もその通りだと思う。例えば、ポイントは、勘定科目でいえば販管費になるが、消費者側から見れば値引きであることに変わりない。実際に販売価格を下げるためには、定価で売る期間などの法的制約を受けるが、販促費の名を借りれば実質的に変則的な「値引き」が可能なのだ。なぜ「ポイント」還元であればCRMプログラムで、売価変更だと値引きになるのか。前者は出品するメーカー側に許容されて後者は許されないのだが、結局は両方同じことだ。ZOZOは、クレジットカード事業に参入し、「ZOZOCARD」を持った人は5%のポイント還元を打ち出したが、なぜか周りはうんともスンともいわない。消費者にとってみれば、カードだろうがポイントだろうが、メンバーシップだろうが、とにかく安く買えればよいだけで、ZOZOARIGATOと何が違うのかということである。

 メーカーにポイント還元分を負担させる小売業も多いなか、ZOZOARIGATOのようにZOZO自身が自らディスカウント料を負担するというのは、「三方良し」のフェアなやり方だと私は感じた。

 ZOZOだけが儲かる構造になっていたということに加え、高級車を乗り回し、数十億円ともいわれる美術品を購入するといった個人的な行動をことさら周りが取り上げたことにより、「ZOZOだけが儲かり、豪遊するのはけしからん!」と言った風潮を世の中が作っていった結果だろうと私は思う。周りをみれば、こうした状況を理解し、自宅ではアストンマーチンを乗り回しているが会社にはカローラで出勤するという経営者がいるのもよくわかる。日本とは、そういう国なのである。これでは、世界の一流人材を日本に迎え入れることなどできないだろう。来たるべきAI時代は、人材勝負である。我々は、そろそろ成功者をうらやむ意識から応援し、また、自分もそうなりたいと頑張る意識にかわってゆく必要がある。

 このように、古くは、東京スタイルと村上ファンド、また、ホリエモンのテレビ局買収やスティールパートナーズのブルドックソースのように、我々は「目立つ杭」を打つ悪い癖がある。結果、外国の有能な人材はJapan passing (日本を素通り)し始めている。「沈黙は美徳」、「空気を読む」といった日本独特の価値観を押し付けがちな日本人。ZOZOのような企業がもっと日本にでてこないと、本当に日本のアパレル産業は危機的状況に陥るのではないか。

  私は本当にZOZOのような企業を応援したい。そして、また、ZOZOSUITのような、奇抜なアイデアを世に問うて欲しい。そして、我々は「評論家」でなく、「当事者」として、自分自身が感じ、自分で判断できる力を持ち、同社のようなチャレンジャー企業を見守り、応援してゆくべきだと思う。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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