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服を売らないリアル店舗「似合うラボ」を、ZOZOが経営戦略の軸に置く重大な理由

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年3月1日 20時55分

3台のスマートミラー

ファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZO(千葉県/澤田宏太郎社長)は、202212月に同社初となるリアル店舗「niaulab by ZOZO」(以下、似合うラボ)を東京・表参道にオープンした。商品の販売は行わずスタイリング提案を行う同店のねらいとZOZOの事業戦略について、同社の事業責任者に取材した。

 「服を売らないリアル店舗」はなぜ生まれた?

似合うラボ
niaulab by ZOZO

 ZOZOが出店する似合うラボは、服を売らずに、無料でパーソナルスタイリングサービスを提供する完全予約制の店舗だ。AIとプロのスタイリストによるスタイリング提案を行う。一般的には2~3万円かかるパーソナルスタイリングサービスを無料で提供するのは、前例のない思い切った試みだ。

 似合うラボの体験方法を簡単に説明しよう。体験予約は抽選制となる。LINEの専用アカウントから応募し、当選したらファッションの好みや悩みについてカウンセリングシートに回答する。体験当日は、カウンセリングシートの内容をもとにZOZO独自のAI3パターンのコーディネートを提案。それを活用してプロのスタイリストがお客と対話しながら自分に最も似合うスタイリングを決めていくという流れだ。

3台のスマートミラー
スマートミラーに映し出される、ZOZO独自のAIが提案する3パターンのコーディネート

 似合うラボにはプロのヘアメイクアーティストも常在していて、お客は自分に似合うヘアメイクを受けることもできる。店舗内はZOZOTOWN取り扱う700以上のアイテムが並べられ、貸切状態で2時間以上体験が可能だ。退店時にはスタイリングのポイントが書かれたカードがもらえるほか、後からLINE撮影した写真と試着したすべてのアイテムの商品情報がZOZOTOWNの商品ページのURLとともに送付される。

700点以上のアイテム(一部)
700点以上のアイテム(一部)

 ZOZOは似合うラボを「超パーソナルスタイリングサービス」を提供する体験型の店舗と位置付けており、コンセプトは「『似合う』で、人は笑顔になる」としている。ZOZO事業やサービスを中心にクリエイティブディレクターを務め、似合うラボの事業責任者である大久保真登氏は、その真意について「似合うラボの目的は、『似合う』を解明すること」だと説明する。

 続けて「商品を売ることよりも、お客さまの『似合う』を見つけてファッションを楽しんでもらうことを優先した」と説明。商品を売るのはお客が「似合う」を見つけたあとでいいという。

 「たとえばトップスの下に何を着たらいいかわからない方に対して、ZOZOはブランドを横断して商品を提案できる強みがある。ZOZO独自のAIとプロのスタイリストの知見を掛け合わせたスタイリングにくわえ、ヘアメイクも含めた総合的な提案なので、『超パーソナルスタイリングサービス』という呼び方をしている」(大久保氏)

プロのヘアメイクアーティストがヘアアレンジやメイクをほどこすヘアメイクルーム
プロのヘアメイクアーティストがお客にヘアアレンジやメイクをほどこすヘアメイクルーム

 似合うラボで自分の『似合う』を見つけたお客は、新しい自分の姿に驚いたり、自信を持てたりする方が多いという。大久保氏は「あっという間の2時間だったと笑顔を浮かべるお客さまがほとんど。利用後のアンケートでは、購入意欲が湧いたという回答結果が目立った」と述べる。

 

売るより「似合う」の提供を優先する理由

 似合うラボのサービスを受けられるのは当選者のみで、1日4~5人、年間で約1000人程度となる。2月の応募枠100人に対して27503人の応募があった。大久保氏は「お客さまがスタイリストとじっくり話せるように、サービスの体験時間を2時間以上に設定した」と話す。

 応募者の約9割が女性で、世代別にみると1020代が約7割を占めた。ZOZOがとったユーザー調査によると、パーソナルスタイリングサービスを受けてみたいという意向は若い世代、とくにZ世代に強かったという。

 お客のスタイリング体験をよりよいものにするために、店舗内の空間開発にも改良を重ね、こだわりの空間を演出した。約76坪の店舗内全体を試着室に見立て、「試着室に飛びこむ」というコンセプトをもとに、スタイリストとお客がカウンセリングしやすい空間を設計。

 空間を仕切るカーテンは角度によって見え方が異なる透過性のある素材を使用し、重なりあうことで生まれる色味が多様で無限な「似合う」の多様性を表現する。外から中が見えないように設計された外観には、プライベートな空間で自分の「似合う」を見つけてほしいという想いが込められているそうだ。

店舗設計
透過性のある素材を使用したカーテン

 「カウンセリングでは、自身がどうなりたいか、あるいは自身をどう変えたいか、ファッションに関する好みや悩みチャレンジしたいことを話してもらいたい。自分の『似合う』をすでにわっている人も、新たな『似合う』を拓いてもらえたら」と大久保氏は想いを込める。

 似合うラボを運営するうえで重視することとして、大久保氏は「まずは似合うラボをどのようにしてZOZOビジネスの成長に結びつけていくかを見極めたい。似合うラボで得たデータの使い道はレコメンド機能の拡張などさまざまなかたちを想定している。お客さまの声を聞きながらよりよいサービスを検討していくつもりだ」と説明する。

ZOZOの経営戦略の肝となる「似合うラボ」

店舗入り口
店舗入り口

 似合うラボは、ZOZOが掲げる経営戦略「MORE FASHION × FASHION TECH 〜 ワクワクできる『似合う』を届ける ~」を実行するための取り組みとなる。ZOZOは似合うラボを出店することで、「買う」というプロセスよりもさらに上流の部分にアプローチしたいという。最終的には「ファッションを『買う』ならZOZO」から「ファッションの『こと』ならZOZO」への進化をねらう。

 2023131日に行われた20233月期第3四半期の決算発表では、ZOZO代表の澤田宏太郎氏は以下のように述べていた。

 「今後はたとえば『季節の変わり目』といったタッチポイント(顧客と企業との接点)にZOZOが深く関わっていきたい。そのために必要なのは、お客さまに似合う服を提案できようになること。お客さまの好みや悩み、カウンセリングや提案内容といったデータの積み重ねがEC上の提案にき、消費者の購入機会の増加や新しい購買体験につながる」(澤田氏)

 決算発表では、「『似合う』というテーマをここまで愚直に研究している企業はない」と自評しながらも、ZOZOにとって「似合う」はまだ研究段階にあると説明した。今後は、似合うラボで得たデータや経験をZOZOTOWN」やファッションコーディネートアプリ「WEARといった既存サービスかしたい考えもあるそうだ。

 最後に「『似合う』が伸びしろのある領域であることは確信している」と前向きに語った。

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