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DX失敗A級戦犯の隠蔽手法とスマートファクトリーで激変するアパレルビジネスの姿とは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年2月27日 20時55分

SweetBunFactory/istock

「河合さん、このページは削除してくれませんか?」
そのページには、これまでのIT投資、およびマイナスROIの総額が1億円を超えている事実が克明に記載していた。調査をしたのは私であり、そのページを隠蔽しようとしたのは副社長だ。
驚くべきことに、取締役全員がこの数字を全く見ていないばかりか、その副社長とデジタルベンダーは通じており、役員会を通さずとも大きな金が平然と動いていたのだ。
この会社には、私がコンサルティングに入る前に「人権派コンサルタント」と称する人間が出入りし、こうしたガバナンスの効かない金の動きを許し、ROIが10年以上続けてマイナスにも関わらず、現金をたれ流している事実さえ分析できない、そんなレベルの支援をやっていた。
今回は、こんな人災に起因するアパレル産業の崩壊の1つの大きな象徴である「PLMの大失敗」とそこにみる、本質的な企業変革の手法について解説したいと思う。

putilich/istock
putilich/istock

「サプライチェーン内に複数のPLMが入ることは当たり前」
ではない

  人災によりアパレル産業が破壊されつつある。その最たる象徴が「PLM製品の開発・設計・製造といったライフサイクル全体の情報をITで一元管理し、収益を最大化していく手法)の導入失敗である。PLM導入で失敗を繰り返しているのは、サプライチェーンマネジメント、すなわちCPFR (シーファー)をしっかり理解していないからだ。今、日本のアパレルでPLM導入に成功した企業は数件しかない理由もそこにある。

  あるベンダーは私にこういった。「私は他産業で、25年にわたるPLMの導入経験がある。PLMがサプライチェーン内に複数入ることは当たり前で、自分の経験からいっても正しい」。

 他産業の垂直統合されたサプライチェーンにPLMが複数入ることは確かにある。しかし、それは「モジュール化開発」といって、例えば、自動車産業であればエンジンをつくるためのサプライチェーン、プラットフォームを組み立てるためのサプライチェーンなど、いくつかの生産が分業体制になるモジュール化されているためだ。したがって、それぞれの組み立てにPLMが複数はいるのである。

 しかし、アパレル産業にモジュール開発はない。一つのラインで、裁断、縫製、洗い、検品と一気通貫で服を作る。そして、日本独特の商習慣として、特に原料生産では染色をするためだけに加工を外注する、できあがった糸でガーメントを作るために外注に出すなど、サプライチェーンの多段階において異なる企業群による「組み立て連鎖」が流れているのだ。

 つまり、エンジンやタイヤを別々のエンティティが生産を受け持つ自動車産業とはサプライチェーンが全く違うのである。そして、アパレルのサプライチェーン各領域において「5枚複写の専用伝票」がはびこっているのは、それぞれの会社が、それぞれの利益誘導をして個別最適に陥っているからだ。自社の売上至上主義をクライアントに押しつけ利益をむさぼっているベンダーの責任なのである。



PLMの複数導入はクスリの乱用と同じ
アパレル業界はPLM導入を今すぐ辞めよ

monticelllo/isotck
複数のPLM導入はクスリの乱用と変わらないという(monticelllo/isotck)

 そもそも、アパレルのサプライチェーンに複数のPLMを導入したらどうなるだろうか(実際、あるアパレルがPLMを導入しようとしたところ、それを受け持つ流通に別のPLMがすでに2つも入っていた)。

 ご存じの通り、アパレル企業は自社で工場をもっていないし、商社もしかりだ。それにもかかわらず、海外生産比率99%の商社、アパレルがそれぞれPLMを導入したら、マスターが乱立し、恐ろしく複雑なサプライチェーンができあがる。

  さらに驚愕なのは、経済産業省のお墨付きでシステムベンダーが、バラバラになったPLMのデータ統合をするシステムを開発、商社やアパレルがそれを導入しはじめているという事実だ。

 昔、天才バカボンという漫画に、「クスリを飲み過ぎるから、クスリを飲まないで済むクスリを飲もう」というギャグがあったが、今の日本の調達はファーストリテイリングと一部のアパレルを除き、この漫画で指摘しているようなクスリ漬けの状態になっている。

 「なんのためにPLMを入れるのか」ということがわからなくなり、膨大な流通コストをサブスクリプションフィーで抜き取られ、製造コストは上昇し続けている。その上昇コストはサプライチェーンに存在する個別最適の利益誘導と、一つの服をつくるのに3つもPLMが入っていることによる、という現実が分からないまま、「ああ、円安だから調達コストが高いなあ」と漫然と感じているだけなのである。

「 3D CADPLMは繋がらない」
という驚くべき事実

 「PLMAPI (他のシステムとつなぐ仕組み)は標準形に則っている」とベンダーたちは説明しているが、残念ながらこれは多いに誤解を招く言い回しである。

 実はPLMは「3D CAD」とは“そのままでは”繋がらないのである。一度、3D CAD(ソフト名はCLO)から絵を吐き出して、手でドラッグしてPLMにいれるのだ。

 今、文化部服装学院をはじめ、ファッション専門学校では生徒に対してパターンメイキングについて3D CADを使って教えている。したがって、年間2万アイテムもある絵を吐き出して、手でドラッグするなどということをやっていたら、生産性は低いままだ。

 それを避け、自動でPLMに流すためには、1000万円というミドルウエアを別途購入しなければならない。こんなことも、プロジェクトが始まってから分かるから「こんな話は聞いていない」という問題が起きる。

 「河合、お前は批判ばかりしてないで代替案をだせ」という声が聞こえてきそうだ。ならば、私の解決案を言おう。

 企業の生産部もベンダーも「サプライチェーンとは何か」「PLMの目的とは何か」を理解していないし、「アパレルのサプライチェーン全体を最適化」する大変さも分かっていない。

 単に、企業の調達領域の紙とファックスを無くしたいなら、「RPA (ロボティクス)の導入なら数百万円の投資で解決する」という私の助言を忠実に守り、PLM導入を辞めた企業は、極めてうまく生産部の仕事の生産性を上げている。また、企業間取引はEDIOKだ。PLMなど使う必要は無いし、あえて言わせてもらえば、一部のアパレルを除きPLMを活用できる能力も無い。

 例えば、オンワード樫山の動きは素晴らしい。彼らはECという自前の店舗をもち、また、大連に自社工場も4つ持っており、店舗と工場の境目なく売場と作り場(つくりば)の両方をコントロールできている。さらに、サンマリノ(専門商社)との密接な業務連携によって商社機能もインハウス化している。こういう企業だけがPLM導入で成功するのだが、あとは、自社の古くなったブランドを次世代のマーケットが許容するかだけだろう。

 ただ、もはや間に合わない企業が多い。PLMはあちこちに導入され悲惨な状況に陥っているし、私が警告しても勝手に進められ失敗している。こうなると、助けようがない。「サプライチェーンの中にはマスターは一つで良い」のだ。ベンダーの売上至上主義にだまされてはならない。

 PLMは諦め、まずは生産調達領域の自動化(ロボティクス)で個別最適化による解決を行えば良い。PLMはどうせ止まるか、ROIを計算すればマイナスになることは明らかなので、思い当たる節があれば可能な限り早く償却することをお勧めする。

 なお、PLMのROI分析は専門家にやらせるべきだ。アパレル企業の生産部は、いざとなると商社に在庫を持たせたり、商社に簿外在庫を協力させたりするなど、本来コストの見える化をすべきPLMにも関わらず、FOBに合算してコストの「見えない化」をして、トータルコストを隠しているからだ。私自身、商社時代にこうして押し付けられた在庫を経営幹部に説明するのに苦労したものだ。こんなことをやっているから、世界で勝てないのである。

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スマートファクトリーでアパレルビジネスはこう変わる!

SweetBunFactory/istock
SweetBunFactory/istock

 さて、これからのアパレルビジネスはどう変わるのだろうか?

 世の中の組み立て産業は、中国Shein(シーイン)のようなD2Cに近づいてゆき、工場から直接出荷される時代が来る。この時代、個人に対して単品を送り、また、流通もサプライチェーンも存在しない。クーリエサービスを使うわけだ。あのZARAFedExを利用しており、いまだに複雑なコンテナーを港で組んでいるのは日本だけで、これは中国に地理的に海を隔てて近い距離にあるという立地だけの問題で、このようなオペレーションが常識になっていれば、世界に対して競争力のある商品を販売できないのは当たり前なのだ。

 その結果、サプライチェーンという概念はなくなり、いままでマーケティングをやっていた人はデータサイエンティストに職を奪われる。

 このようにアパレルビジネスの激変は必至であるにも関わらず、冒頭のように企業改革に対してビジネスパーソンが猛烈に反対する理由は大きく二つある。一つは、自分の仕事がなくなること。もうひとつは、自分のやり方が変えられるからである。

  MD(商品政策)も変わる。余剰在庫に対する風当たりは世界でどんどん厳しくなり、SDGsの観点から、やがて「在庫税」が課せられる時代が来るだろう。モルガンスタンレーの試算では、余剰在庫は世界で30%、日本では100%が毎年投下される。

 そうなると、今のように「まずは、POC*だ」と、あるブランドだけで、生産管理のセンサリングに関するソリューションも確立していないのに、箱だけつくって「スマートファクトリー」だ、とうそぶくような仕事は誰もやらなくなる。生産に対する知識がなさ過ぎるのだ。
*Proof of Concept:概念実証

 真のスマートファクトリーとは、テクノロジーを活用し段取り替えを自由にでき、生産を途中で止めたり、追加したり、自由に動かすことができるものだ。

 この場合、工場で行われている、いわゆるTQCや稼働率管理などは無駄になる。これにより工場は「コストセンター」となる。だが、年間20億円以上の在庫を残すより、よほどマシだということを分かっていない。管理会計が、旧神戸アパレルのものを利用しているから、工場での損失が店頭での余剰在庫と相関関係があるようなKPIなど想像もついていない。だから、アパレルは素材を持つことをしないのだ。つまり、生産工場はアパレルに垂直統合され、柔軟性が激しく上がってゆく。

  したがって、今のように商社が集めたサンプル毎に仕様書を描いていたら、商品の数だけ工場が増えて、調べるとたかだか売上20億円程度のブランドで、アカウントが1000を超えるなどということが起きるのだ。

  売上1兆円のユニクロの工場数は50100だから、日本のアパレルがどれだけ無駄なことをやっているか想像に難くない。

 その結果、今は中国で3ヶ月、バングラデシュで半年という途方もなく長い納期となっている。ところが、デジタルベンダーはこうしたフィジカル・クライシスを理解しようともせず、相変わらず机上の予測に終始している。どんなに精度の高い予想を行っても、半年前、あるいは一年前に消化率80%を超える需要予測を行うことは不可能だ

したがって、この場合工場のシェアを上げ、工場を自社化し、工場に投資を行って前述のスマートファクトリー化を行ってフィジカル・リプレニッシュメント(物理的な補充)を改善するわけだ。物理的な商品が入らねば、いくら机上の予測があたっても意味が無いことが理解できないレベルでは、改革が成功するわけがない。

 

「河合が嫌い」という人が増えてきた理由

 最近、私に対して「あなたを嫌っている人が増えていますよ」ということをいう人と話をするようになってきた。私は、私の言っていることが正しくないと思う人には、「その箇所と根拠を教えてもらい、データと論理で討議をしよう」と呼びかけているのだが、私に向かって反論を展開する人は一向に現れない。

 裏でひそひそ話をしている程度だから、私の敵は「ミスターX」となっている。しかし、調べてみると、発信源は絞られ、①自分の仕事がなくなる、②自分の仕事が変えられる、提言に恐れと怒りを感じ、それを、直接私に言うのではなく陰口を叩いたり、Amazonの書評で匿名の誹謗中傷を行い営業妨害をしたりしている。

 DXというのは、D (Digital )X (Transformation)つまり、現行のビジネスモデルを大きく変化させるものだ。

 アパレルビジネスで言えば、生産部を廃止する、あるいは、流通をクーリエに変えて一気にシンプルにするというドラスティックな変革を実行するということになる。商品の需要予測は過去の動向ではなく、顧客の購買履歴とクラスタリングされた塊の動きから人工知能を使ってデータ分析することになり、全く異なる能力をもった人間が必要となるのだ。

 そして、今、世の中は私が「知らなきゃいけないアパレルの話」で提言した「4つの力」により、1年が過去の3倍の速さで動いている。

 「そんな未来のこと」というなら、Z世代に聞けば良い。皆、口を揃えて「シーインかユニクロで買っています」というはずだ。あなたのブランドは残念ながら引退間際の老人しか買っていない。遠い将来どころか、すでに負け戦に突入し、今すぐ正しい投資をしなければ5年後の未来はないのである。

  ネットの世界では、1割の人間の誹謗・中傷が6割の声に聞こえるというデータがある。私のことを嫌うのは構わないし、ならば、自分の信じるやり方でやればよい。そして、大きく勝てば良いではないか。

 今日は、PLMを深掘りしたが、それに加えてアパレル業界は販売物流の人件費高騰の問題、先進的な企業ではSDGs Higg indexの極めて細かなトレーサビリティの管理義務が大問題となっている。PLM導入に成功したアパレル企業は、すでにHigg Index対応をいかにデジタル化するかを考えている。

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大手GMSや百貨店は、PLMを入れても投資回収できる理由

 まとめよう。

 今、アパレル産業の大きな課題はサプライチェーンである。一つはPLM。これはもはや修復不可能になっており、多くの企業は償却すべきだ。改めて問うが、「業界横断のサプライチェーンを作りたいのか」「個別企業の生産性を上げたいのか」を明らかにし、もし、後者ならRPAで実現可能だ。そもそも私が言っていることの意味が分からない人は、今すぐ辞めるべきだ。

 一方、アパレル以外の百貨店やGMSPLMを導入し、BOM機能を使わずに、単に製品マスターとしてグループ間で使っているケースもある。この場合、PLMが最適なソリューションだとは思わないものの、ROIは成立するだろう。なぜなら、屋台骨が1兆円、2兆円という大手企業だからだ。

  次に、人の問題。DX成功の鍵はトップのコミットとはよく言われる話だが、正確に言えば「反対勢力の押さえつけ」である。私は、冒頭に上げた事件ではトップからハシゴを外された。また、ある紡績企業では、何度も忠告したにも関わらず、また、早く対応しなければ損失は膨大になるため、半ば強引にクライアントを引っ張った結果、これもハシゴを外された。しかし、今では予想通り、業績悪化が止まらなくなっている。これらはすべて人災であり多少の荒療治が必用なフェーズに斧が振れず、改革半ばでプロジェクトが崩壊するケースだ。

  私は、日本で最初のターンアラウンドスペシャリストである三枝匡氏と話したことがある。彼は「そんな座組なら最初から手を出すな」と私に言った。どんな名医でも自分の腹を切ることはできないように、手術は必ず第三者が必要なのである

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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