カインズのプロショップ「C’z PRO」、会員制による顧客接点とデジタル融合で差別化を図る
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年3月17日 7時30分
株式会社カインズ(埼玉県/高家正行社長)は、2020年8月に「C’z PRO 東名横浜店」を出店して、プロショップ事業に参入した。現在、首都圏に同業態店を3店舗展開している。競合他社からは遅れての事業参入だが、ホームセンター(HC)事業で培った、顧客接点とデジタル融合で差別化を図り、需要獲得をねらう。
2020年8月にプロ市場に参入
カインズが、プロユース需要を獲得するためにプロショップ事業を立ち上げ、1号店「C’z PRO 東名横浜店」(神奈川県横浜市瀬⾕区)を出店したのは、20年8月だ。
ちなみにブランド名の「C’z PRO」は、カインズ(CAINZ)を意味する「C’z 」と「Seeds(種)」を掛け合わせ、カインズが、プロのよりよいワークライフを実現するための「種」をまく意を込めている。また、CにはCAINZのほか、Creative(創造)、Community(コミュニティ)、Connected(つながる)という意味も込めている。いわゆるカインズプロといった、カインズのHC業態の派生型店舗ではなく、まったく新しい業態としてスタートしていること、また同社が強みとする北関東ではなく、首都圏に出店していることからも、同社の並々ならぬ意気込みが伝わってくる。
C’z PROが、他社のプロショップと一線を画すのは、会員制卸売業の形態をとっていることだ。この会員制卸売業による展開のメリットは、顧客をプロ職人に限定できること、駐車場のスペースの有効活用ができるほか、大店法に縛られずに新規出店することができることなどが挙げられる。
21年11月に2号店の「品川シーサイド店」(東京都品川区)をオープン。22年3月には3号店「杉並井草店」(東京都杉並区)と東京都内に出店した。23年1月現在、C’z PROは首都圏に3店舗を展開している。
お客さまに教えていただく
東名横浜店の出店から約2年半の間で、品揃え、接客技術のノウハウも、地道に培ってきた。
実際、新しい店舗ブランドでスタートし、HC業態とは異なる商品政策(MD)が求められていることを理解していても、文字どおり、考えるのとやるのとは大きく異なっていたようだ。
東名横浜店では、1年以上をかけて品揃えを研究し、大幅にリニューアルを行った。「お客さまの声を最後までよく聞く」ことを徹底した。品揃えの研究で、「講師」として「C’z PRO」を指導してきたのは会員だった。
「お客さまに教えていただきました」と新規事業部・プロ特化事業PJの久保秀予リーダーは語ってくれた。そして、次のようなエピソードも紹介した。
「お客さまから『ヘルメ』はどこにありますかと聞かれました。そこで、ヘルメット売場に案内したのですが、ヘルメとは、給水・給湯配管用の防食シール剤の『ヘルメシール』のことでした。HCでは聞いたことのない商品です。しかし、職人さんにとっては、建築現場で普通に使用する資材なのです」。
もちろん、ヘルメシール剤は販売していた。しかし、売場にない商品も出てきた。そうした商品は、徹底的に店頭化していった。新たに導入した商品の売場には「職人様の声にて導入しました」のPOPを設置してアピールする。
「要望に応えれば応えるほど、手応えを感じていきました」と久保氏は言う。
同時に、東名横浜店のオープン当時は、商品カテゴリーごとに棚割りを組んでいたが、業種ごとに売場を設けるようにした。そして、電材、管材、内装・リフォーム材を最重点カテゴリーとして位置づけ、品揃えと価格では競合店に負けない施策を進めた。
こうしたMDを進めてきたことで、取扱品目数は約5万SKUになった。リニューアルの結果、会員数も着実に伸び、それを受けて出店したのが、前述した品川シーサイド店と杉並井草店だ。
顧客との接点の密度の濃さ
MDの精度を高めるだけではない。従業員のレベルアップにも力を入れている。商品名を聞かれて、わからないこともあったという。「電話での問い合わせの場合は、売場で実物を見ながら検証できません。そうした対応にもきちんとお客さまに応えなければなりません」(久保氏)
商品マニュアルに準じるテキストをオリジナルで作成し、それをOJTで使用しながら、テキストの精度も高めていった。従業員の知識やノウハウの蓄積がMDにも生かされ、C’z PRO事業の売上向上につながる。それを可能にするもう1つの要因が、会員との接点の密度の濃さだ。会員制であるということは、リピート来店率が高く、プロのお客と従業員が顔なじみになることもあり、教えをいただき、それを品揃えにつなげ、一緒に売場をつくり上げると言ってもよいだろうか。
会員との距離の近さを物語るシーンを、久保氏は今年の正月に出合えたという。「1月2日のことでした。この日はさすがに現場も動いていないし、お客さまも多くないだろうと思っていたのですが、わざわざこの日に粗品を持ってあいさつに来られたお客さまがいたのです。こんな光景はHCでは絶対に見ることはできません」。
また、店内または敷地内に会員専用スペース「クリエイティブ・スペース」を用意した。クリエイティブ・スペースには、「カタログスペース」や、商談に使える「商談スペース」のほか、「休憩スペース」などを用意している。会員同士の交流の場としても活用して、C’z PROを、自分の事務所、拠点のように自由に使ってもらいたいという意図が込められている。
会員専用アプリで顧客接点を増やす
会員との距離が近いのは、店頭での接点だけではない。それは、カインズが得意とするデジタル戦略との融合で、顧客接点を増やしていることだ。C’z PROでは、会員専用アプリを開発し、それにより新たな顧客体験を実現しようとしている。
アプリを使ってできることは大きく2つある。1つは、商品の注文だ。アプリで事前に商品を発注すると、当日もしくは翌日に店頭でその商品を受け取ることができる。店外に設置しているピックアップロッカーで受け取ることも可能で、これは24時間対応している。閉店後に、仕事終わりの遅い時間に受け取ることもできる。さらに、現場への当日配達にも対応している。
もう1つは、クラフトバンク社が提供する「お仕事・人材紹介」のコミュニティサービスを搭載していることだ。同サービスには2万3000社超が登録しており、たとえば、「明日、○○の現場で2人足りていないので、来られませんか」といった仕事の相談が可能だ。
アプリからは、C’z PROのキャンペーン情報や店舗情報も見ることができる。現在、ツーウエーのコミュニケーションが可能なSNSは、各店舗がオリジナルで設けているLINEサービスがある。今後は、会員専用アプリにもSNSもアップしていくことを考えているという。
リアル店舗とデジタルを融合したサービスはプロショップ業界では実質初だ。C’z PROはリアル店舗のみのサービスでは実現できなかった、職人の商品調達の幅を革命的に広げたことになる。
首都圏で30店舗目標
「22年3月に3店舗体制になって、売上の立ち上がりと会員数の増加スピードが格段に上がりました」と久保氏は言う。カインズがプロショップを立ち上げたという認知度のアップと、3店舗による相乗効果もあるのではないかと分析する。
カインズとして会員数を公表していないが、3店舗の合計で「数万単位になっている」という。客単価は店舗によってやや異なるが、平均すると6000円前後になるという。
来店時間帯も、東名横浜店のオープン当初は夕方に集中したが、3店舗体制になってからは、朝、昼、夕方の3つの山ができるようになった。
当面の出店目標は、首都圏で30店舗だ。C’z PROはプロショップにデジタルを融合した新たな風をもたらした。CPROの提供する新たな購買体験が、プロ市場の潮流になるだろう。
C’z PRO 品川シーサイド店 店舗概要
所在地 | 東京都品川区東品川3-32-16 |
電話番号 | 03-6260-1888 |
営業時間 | 平日6:30~21:00 土祝6:30~18:00 日9:00~18:00 |
売場面積 | 1163㎡ ※外売場を含む |
敷地面積 | 2413㎡ |
駐車台数 | 24台 |
従業員数 | 28名(正社員4名、専任社員4名、パート・アルバイト社員20名) |
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