挑戦から生まれるロングセラーブランドの魅力
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年4月7日 0時30分
人流の回復などアフターコロナに向けて消費動向が変わってきているなか、小売業界の市場動向を分析してみると、この数年ロングセラー商品の売上構成比が高まり続けていることがわかった。ロングセラー商品がどのように顧客の支持を集め成長を続けているのか、どのような戦略を持っているのか、ブランドの歴史と魅力に注目してみた。
人流回復による市場への影響
コロナ禍によりさまざまな行動が制限されライフスタイルも大きく変化したが、ようやくアフターコロナに向けて世の中が変わり始めてきた。2022年の1月-3月の人流はコロナ禍前の2019年の同期間と比較すると10%以上少なかったが、2023年は5%前後とコロナ禍前の人流まで回復しつつある。
この流れがスーパーの売上にどのような影響を与えているのか、カテゴリー別の動きを【図1】にまとめた。面のグラフは食品全体の12カ月移動平均の指数推移で、2023年2月時点では2019年比101.9%となっている。野菜、肉、魚といった手づくり素材が21年2月をピークに減少傾向にあるのに対し、冷凍食品やレトルト食品、惣菜といった即食品は売上を伸ばしてきている。アフターコロナに向けて消費動向が変化してきているなか、ロングセラー商品の動向、魅力について見ていきたい。
ロングセラー商品は好調に推移
ロングセラーの定義にはいろいろあると思うが、10年以上の販売実績がある商品をロングセラーとした時、果たしてどれぐらいの商品がロングセラーとして生き残ることができるのだろうか?KSPPOS(食品スーパー)によると2012年に登録があった食品の新商品は68,918品で、この中で2022年も販売実績がある商品は10,241品と14.9%の商品しか残っておらず、発売初年度の倍以上の売上になっているのは4,916品とわずか7.1%まで減ってしまっている【図2】。
しかし、生活者の厳しい目に耐えて残った商品だけあって2010年以前に発売された商品の販売店での数量PI値は全体平均の約1.4倍も売れている。10年以上売場にあり続けることにより、そのブランドに対する認知度や安心感が高まり、結果として手に取ってもらいやすく、定期的に購入され続けることがロングセラー商品の強みと言える。
とはいえ、さまざまな新商品や食トレンドの新しい波が押し寄せるなか、ロングセラー商品は食品全体の売上に対しどれぐらいの構成比を占めているのか?そしてその推移はどうなっているのだろうか?【図3】でロングセラー商品の構成比を見てみると、2017年は29.6%ほどだったのが年々増加し37.4%まで上がってきている。なぜこのようにロングセラー商品の売上構成比が高まってきているのだろうか?
KSP-POS(食品スーパー)によると、コロナ禍前の2017年から2019年は年間平均で55,294品の新商品の登録があったが、2020年から2022年は47,697品とコロナ禍前と比べると新商品の発売が9割程度に減っており、このような点も一因として考えられるが、売上や利用状況を分析してみると支持されているロングセラーブランドこそ挑戦的であり常に生活者のニーズや嗜好の変化をとらえ、リニューアルやシリーズ商品を発売しながら成長を続けている姿が見られた。
ファーストエントリー
ロングセラーブランドは挑戦の証し
お湯を注ぐだけでラーメンが食べられるカップヌードル、温めるだけでカレーが食べられるボンカレー、キャンディーなのにソフトな食感のミルキー、食べるラー油、サラダチキン…今では当たり前となったロングセラーブランド商品の多くは発売当初は独特な存在であった。
既存の商品に付加価値をつけて新商品として発売するよりも、市場があるかないかわからない状態での発売は当然のことながらリスクが高い。しかし、豊かな食、健康的な食、便利な食を提供したいという想い、挑戦の精神こそがロングセラーブランドの原点となっている。市場がない状態なので、発売当初から挑戦を続け新市場を創造してきたからこそ生活者の記憶にも残り、このカテゴリーならこの商品とブランドが確立しロングセラーになり得たのではないだろうか。ロングセラーというとブランド力があり、固定客がいて安定した売上を享受できるイメージもあるが、挑戦し続けた歴史があればこそだと言える。
ロングセラーブランド
成長戦略の考察
ロングセラー商品はリニューアルを繰り返し、シリーズ商品を発売しながら強固なブランドを形成していく。ロングセラーブランドは生活者のニーズや嗜好の変化などにどのように対応し、売上を伸ばしてきているのか?その取り組みについて考察してみたい。
日清食品「カップヌードル」
発売後、時間の経過とともにそのブランドの購入者も年齢を重ねていき、新しい顧客を取り込めないままにブランドの寿命が尽きてしまうケースもあるが、カップヌードルは【図4】にあるようにフレーバー別に見事に購入年代が分かれている。シリーズ商品を出しても既存商品とカニバリするだけで終わってしまうケースも多々あるが、チリトマトやトムヤムクンなど若年向けのフレーバーを出すだけではなく、ターゲティングされたプロモーションをセットで行うことで若年層を取り込みブランドの活性化につなげている。
アサヒ飲料「カルピス」
健康意識の高まりから適正な糖質をとりたいというニーズが増加してきており、カルピスは2020年に糖質オフの商品をラインアップに加え、新しい顧客の獲得につなげている。購入する年代層はあまり変わらないが、【図5】にあるように糖質オフのカルピスはカルピス全体とくらべて月曜、火曜に売れている。週末の食べすぎを解消したい、週頭からダイエットをしたいというニーズを持つ顧客をとらえることができている。
このようにファーストエントリーから新市場を創造し、ロングセラーブランドとなった後も手を緩めることなく、顧客満足度を高めるための挑戦を続けてきている。この挑戦の歴史こそが人々を惹きつけるロングセラーブランドの魅力と言えるのではないだろうか。
文=日本食研ホールディングス株式会社 食未来研究室 室長 児玉一穂
食未来研究室ホームページ : https://nsk-shokumirai.com/
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