セブン&アイ22年度決算&戦略分析! 売上高11兆円超も株主対応に懸念、突破口は?
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年4月9日 20時55分
セブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長:セブン&アイ)が4月6日に公表した2023年2月期連結決算は、営業収益が対前期比 35.0%増(前期から3兆615億円増)の11兆8113億円、営業利益が同30.7%増(同1188億円増)の5065億円、経常利益が同32.7%増(同882億円増)の4758億円だった。
営業収益は11兆円の大台に!
営業収益は国内小売としては初となる11兆円台、営業利益も5000億円にのせるなど大幅な増収増益を達成、いずれも過去最高を更新した。国内小売の双璧をなすイオン(千葉県)の通期決算は来週の発表だが、業績予想どおりの数字であるならば、売上高は2兆円以上の差がつくことになる。
一見、順風満帆に見えるセブン&アイの業績だが、収益性や資本効率面では課題も残す。投資家が重視するROE(株主資本利益率)は8.7%と、グローバル水準では当たり前とされる10%に届いていない(セブン&アイは目標を上方修正し、25年度にROE11.5%<当初10%>以上を目標に掲げている)。
セブン&アイの課題は何か。セグメント別に業績を精査すると、同グループの現状と課題が見えてくる。セブン&アイグループの事業セグメントは、「国内コンビニストア」「海外コンビニエンスストア」「スーパーストア」「百貨店・専門店」「金融関連」「その他」にわかれる。ここでは主要セグメントの営業利益の増減率、全体の業績への寄与度、営業利益率を検証してみたい。
まず、国内コンビニ事業から。同セグメントの営業収益は8902憶円、営業利益は2320億円で、営業収益営業利益率は26.0%と群を抜いて高い。ただ、営業利益の伸び率は3.9%と伸びは鈍化しており、安定成長に移行している。営業収益の全体への寄与度は7.5%に過ぎないが、営業利益の寄与度は45.8%に達する。言うまでもなくフランチャイズチェーンビジネスであるため、見た目の売上高が小さい一方で利益額が大きいため利益率が高い(参考:チェーン全店売上高ベースの営業利益率は4.5%)。
続いて海外コンビニ事業の営業収益は8兆8461憶円、営業利益は2897億円だった。営業収益の伸び率は対前期比70.3%増、営業利益も同81.2%増といずれも高い伸びを示している。営業収益営業利益率は3.2%と、国内コンビニと比べると見劣りする。全体業績への寄与度は営業収益が74.8%に達しており、営業利益は営業収益よりも若干落ちるがそれでも57.1%を占める(注:営業利益は連結消去分も構成比に入れておりその構成が-13.3%あるため、国内外コンビニ事業を合算するだけで100%を超える)。
なお海外コンビニ事業の営業収益、営業利益の伸び率の高さは円安に大きくふれた為替要因も影響しているのだが、ドルベースで見てもセブン-イレブン・インクのチェーン全店売上高の増収率は対前期比34.9%増、営業利益は47.3%増と非常に高いことを付加しておきたい(セブン-イレブン・インクの決算は22年12月期)。
次にスーパーストア事業の営業収益は1兆4491憶円、営業利益は121億円で、営業利益率は0.8%と主要3事業の中で最も低い。営業収益も前期から20.0%減少と大きく落ち込んでいる。全体への寄与度は営業収益が12.3%、営業利益が2.4%といずれも存在感が薄い。
まとめると、セブン&アイグループの収益基盤は、国内コンビニ事業に収益を依存していたかたちから、海外コンビニ事業のスケールアップにより売上・利益を大きく増やし、柱を国内外コンビニ事業へと2本化にすることに成功。そしてこの国内外コンビニ事業がほとんど全ての利益を稼ぎ出している構造だ。加えて国内コンビニ事業は成長に頭打ち傾向が見られる一方で、海外コンビニ事業についてはさらなる成長が期待できるし、短期的にもオリジナル商品の強化による粗利益率改善を進めることを明らかにしている。
一方その他の国内事業に目を向けると、国内コンビニ事業と不可分の関係にあり収益性も高い金融関連事業はさておき、それ以外の事業の存在感は薄れている。これまでは売上高の寄与度は高かったスーパーストア事業だが、海外コンビニ事業の急拡大でその比率が1割強にまで小さくなったからである。
つまり、それ以外の事業の存在感は薄れ、傍目からはその他事業の必要性が問われてもおかしくない状況にあると言えそうだ。
今後の事業戦略は……
当然、セブン&アイの経営陣もそのことは認識している。同日に発表した経営・事業戦略においては、全体戦略で2030年に目指すグループ像として、新たに「食を中心とした」と言う文言を付け加え、「『食』を中心とした世界トップクラスのリテールグループ」として、個別事業における粗利益の改善、低収益事業の構造改革に力点を置いている。
特に首都圏に集中するスーパーストア事業の持つ調達力やサプライヤーネットワーク、そして現在整備を進めているインフラを活用することで、スーパーストア事業だけでなく国内外コンビニ事業の成長につながることを明言。スーパーストア事業がセブン&アイの成長戦略、競争優位性確保に必要不可欠であることを改めて強調し、投資を進めている。
こうしたことを軸に、国内コンビニ事業では新規ビジネスの急拡大により25年度までに営業利益を3000億円規模に拡大する一方、スーパーストア事業においては売上規模こそシュリンクするものの、25年度までに850億円以上の利益(EBITDA)を確保し、5%を超えるEBITDAマージンへと引き上げる戦略を発表している。
ただしこの戦略は、まだこの高収益を実現できるであろう具体的な成功パターンが見えているわけではない。はっきりしているのは祖業である衣料品部門から完全撤退するとともに、中核であるイトーヨーカ堂で全店の4分の1に相当する33店の閉鎖を決めたぐらいだ。
業を煮やす「物言う株主」
業績に並んで決算説明会で注目を集めたのが、アクティビストとして知られるバリューアクト・キャピタル(以下、バリューアクト)が突きつけた質問状への回答だった。バリューアクトは、2010年5月からセブン&アイ株式を取得。2022年8月末時点でセブン&アイ株式の1.9%を保有する大株主となっている。
決算発表に先立つ4月3日、バリューアクトはセブン&アイに対し質問状を送っている。質問状の中で、バリューアクトは不採算事業の分離をはじめとした9つの質問を提示し、6日の決算発表において回答するように要求していた。
さらにバリューアクトは、セブン&アイが3月9日に発表した事業構造改革プランに対しても、「現状踏襲に過ぎず、株主・投資家は失望し混乱した」と手厳しい評価を下している。つまり、セブン&アイの経営計画は、バリューアクトが求めてきた「コンビニ事業への選択と集中」に対する答えになっていないというわけだ。
もともとバリューアクトは、「物言う株主」の中では比較的穏健派とされてきた。ビルゲイツが去った後に株価が低迷していたマイクロソフト(Microsoft)の経営改革にかかわり、株価回復と業績向上に寄与した実績を持つ。自ら取締役を派遣し、経営陣と一緒になって汗をかくスタンスは、会社側・投資家の双方から一定の評価を得ている。
そのバリューアクトが、セブン&アイの態度に業を煮やしている。われわれ日本人から見れば評価できそうな経営戦略も、海外投資家には“ぬるい”と感じるのかもしれない。経営陣の交代をも要求するなど、対決姿勢を隠さなくなってきた。
決算説明会においてセブン&アイ側は、バリューアクトに要求に対し「4月中旬までには何らかの対応を示す」として回答を留保している。ただ、バリューアクトが要求するようにコンビニ事業に集中したとして、バラ色の未来が待っているのだろうか。仮にスーパーストア事業を分離したとしても、営業収益営業利益率は0.56ポイント(4.59→5.15%)アップするに過ぎないし、イトーヨーカ堂とのパートナーシップによってセブン&アイ側が描く国内コンビニ事業の大幅な営業利益積み増しも見込めないことになる。
セブン&アイのブレイクスルーはまさに、3月に同グループが発表した新業態「SIPストア」のような新しい取り組みがカギを握っていると言えるだろう。また、スーパーストア事業の収益改革が本当に実現できることを1日も早く示すしかない。これまでもそうだったが、何よりもスピードが要求されそうだ。
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