「Green Beans」を興すイオンのデジタル戦略に見る、ビッグリテールのDX未来予想図
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年4月12日 20時58分
先日、イオン(千葉県)グループのイオンネクストが2023年夏に次世代ネットスーパー事業の「Green Beans(グリーンビーンズ)」を立ち上げると発表しました。イオンの2022年2月期のデジタル売上高は1300億円を記録し、同社の中期経営計画ではこれを2025年までに約7.7倍の1兆円まで拡大する計画だそうです。イオンにとって2023年は、2026年2月期をみすえた中期経営計画のちょうど折り返し地点となり、勝負の年になるでしょう。今回は、イオンがデジタルによる売上を拡大させるためにこれまで採ってきた戦略を振り返り、ビッグリテールのデジタル・トランスフォーメーション(DX)に必要な企業間コラボレーションや新たなアセットの開拓について紐解いてみましょう。
2026年2月期までにデジタル売上1兆円へ
イオンは2026年2月期までの中期経営計画で、ECやネットスーパーなどデジタルによる売上高を1兆円まで伸ばすと掲げました。実際のデジタル売上高は、2022年2月期で1300億円(連結業績)。2020年2月期から比べると、2年で約2倍に急成長し、4月に控えた2023年2月期の決算発表ではこの1年でどれだけの伸びを記録したのか注目が集まっています。
5年でデジタルによる売上を5倍以上に拡大するには、あらゆる打ち手を講じなければなりません。そこでイオンはECやネットスーパー、オムニチャネル、顧客データ解析など、全方位的なデジタル施策を展開することを宣言しています。
たとえば、「店舗のデジタル化」。スマートフォンを活用したセルフレジ「レジゴー」の平均利用率を20%まで拡大することをめざし、労働生産性を高めるとしています。ほかにも、アプリを通じたパーソナライズド販促や、顧客データを活用した広告収入の拡大など、データやAIを活用して既存オペレーションの収益化をねらうそうです。
既存のアセットを最大限活用しながら、未開の領域に果敢にチャレンジしてケイパビリティを拡大する姿勢は、ビッグリテールDXにおけるお手本といえるのではないでしょうか。
小売のプロとテクノロジーのプロがタッグ
イオンのDX戦略で象徴的な取り組みの1つが、2019年に行った英ネットスーパー企業Ocado group plc(オカド:以下、Ocado)との戦略的パートナーシップ提携です。この提携は、ネットスーパーの根源的な課題に取り組むための大きな足がかりでした。世界的にもデジタル化が進んでいる企業を買収することで、ネットスーパーの根本的な課題に早期に取り組むことができ、解決方針を見出すことができたのです。
ネットスーパーを運営する際の課題は、フルフィルメント(受注~アフターフォローまでの一連のプロセス)にあります。これまでは店内でのピッキングに頼っていてスケールが難しいことがボトルネックになっていました。
そこでイオンが打ち出したのが、Green Beansの拠点である「イオンネクストCFC(顧客フルフィルメントセンター)」でした。2020年には、「イオンネクスト誉田CFC」(千葉市)構想を発表し、Ocado SolutionsのAIやピッキングロボットなどのソリューションを活用した配送センターとして、2021年に起工にこぎつけています。
このCFCはイオンのデジタル戦略の要です。Ocadoのピッキングロボットやコンテナなどを活用し、ネットスーパーの大型自動倉庫および配送センターとして24時間稼働します。CFCをハブ(中心拠点)として、ネットスーバー事業で2030年までに6000億円の売上をめざすとしています。
CFCはリテールの業務知識とDXの専門性、両方を持つチーム・人材を社内に有することで実現できたといえます。イオンのデジタル戦略で特徴的なのは、データエンジニアやデータアナリストをはじめとするデジタル人材をグループ内で直接雇用していることです。それらの人材を外部に頼っていたのでは、時流に乗り遅れてしまいます。
こうした「エンジニアリングの内製化」は、昨今の小売業界全体でよく見られる動向です。たとえばベイシア(群馬県)グループや、トライアルホールディングス(福岡県)でも社内にエンジニアを擁し、「攻め」の姿勢でデジタル戦略の差別化を加速させています。
中でもイオンは、2016年頃からいち早くDX関連のプロジェクトを立ち上げていたと言います。2019年にはイオンネクストという「次世代ネットスーパー事業」を具現化するデジタル戦略の準備組織を設立しています。このイオンネクストで注目したいのは小売のプロとテクノロジーのプロがタッグを組んでいる点です。CEOにはグローバルの小売で活躍してきたバラット・ルパーニ氏が、CTOにはGoogleや楽天を経てグルメクチコミアプリ「Retty」で同職を務めた樽石将人氏が就任しています。
優秀なエンジニアの採用は難しいといわれる昨今、「事業会社の大規模なトランスフォーメーションに直接関われる」ことをアピールし、デジタル人材の採用に力を入れるのも一つの手です。リテールテックで業態転換を実現しようと思うなら、組織構造にも目を向け、これからの事業拡大に共感するデジタル人材を引き入れる必要があるといえるのです。
改めて考える、DX戦略の中長期ロードマップ
2023年のイオンの動向についてはGreen Beansが一番の注目ポイントです。そして、ビッグリテールのDXにおいて重要なのは、大規模な設備投資、人的投資も含めた、根本的なトランスフォーメーションを行う経営陣の覚悟です。「『できる範囲の改善』では新たな収益や売上を大規模には見込めない」というイオンの覚悟が、このDX戦略からは読み取れます。
そして、目標数値の達成に近づける多角的な手段の準備も重要です。開発体制の強化や大規模なCFCの立ち上げ、データ分析の活用など、DXを実現するための柱は複数必要なのかもしれません。中長期的な目線では、本気でDXに投資してきた企業が勝ち組になることが予想されます。
リテール企業は、改めてDX戦略の中長期ロードマップを描く必要がありそうです。そのためには、DXで何を実現したいのかをまず明確化することが重要です。新たな売上を創出するのか、利益率向上をめざすのか、それとも顧客接点を増やしCX改善をめざすのか。具体的な目標を決めるところからスタートしてはいかがでしょうか。
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