EC売上が好調のアダストリアが、リアル店舗への来店誘導にこだわる理由
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年4月18日 20時52分
デジタルでの顧客接点の拡大が進むアパレル業界。その中で近年OMO(オンラインとオフラインの融合)を推進していることで知られるのが、アダストリア(東京都/木村治社長)だ。同社は2021年5月に、自社ECサイト「.st(ドットエスティ)」と連携するOMO型店舗「ドットエスティストア」を出店。周辺店舗の売上高が大幅に増加するなど相乗効果がみられているアダストリアがOMO戦略を推進する背景にはどのような意図があるのか。同社のEC戦略の責任者である執行役員・マーケティング本部長の田中順一氏に話を聞いた。
アダストリアはなぜ、OMO戦略に力を入れるのか
アダストリアは「GLOBAL WORK(グローバルワーク)」や「LOWRYS FARM(ローリーズファーム)」をはじめとする30以上のブランドを抱え、国内外で1400超の店舗を運営するカジュアルファッション専門チェーンだ。22年5月には子会社のゲートウィン(東京都/杉田篤社長)を立ち上げ、アメリカ発のカジュアルブランド「フォーエバー21」とサブライセンス契約を結び話題になった。
アダストリアのEC化率は28.7%(2023年2月期実績)を誇り、ドットエスティの会員数は約1550万人を誇る(同実績)。この数字が表すとおり、これまでEC化を積極推進してきたアダストリアは現在、ドットエスティとリアル店舗の連携を深めて相互補完が可能な体制をめざしている。ドットエスティだけで買物体験を完結させるのではなく、ドットエスティからリアル店舗へいかに誘導するかを重要視するというものだ。その理由について田中氏は以下のように語る。
「ECによる販売促進には限界がある。人間の五感のうちECでアプローチできる感覚は視覚のみ。その点、リアル店舗は五感すべてに訴えかけられる。また、LTV(顧客生涯価値)が高いのはEC会員よりも店舗会員だというデータもある。EC化率は指標のひとつに過ぎず、単にEC化率を上げただけではビジネスとして拡大したことにはならない。ECとリアル店舗、双方の売上高を伸ばしていくことが重要だ」(田中氏)
こうした考えのもと、アダストリアではドットエスティ内でリアル店舗へと誘導するイベント告知などを行い、リアル店舗とECの共存共栄を図ろうとしている。21年に出店したOMO型店舗の「ドットエスティストア」もそのための取り組みの一つだ。田中氏は「各ブランドの商品が集結するドットエスティの強みをリアル店舗に落とし込んだのがドットエスティストア」と語る。
また、ドットエスティが「リアル店舗への集客装置」として働くようになったことで、消費者の購買行動がかつては「店舗からECへ」だったのが「ECから店舗へ」と変化していると田中氏は説明する。
その変化は実績としても表れており、2023年2月期は国内のEC売上高が対前期比108.9%、リアル店舗売上高が同116.8%と、ともに伸長し、国内のアパレル・雑貨関連売上高は同114.5%に推移している。
実店舗の接客経験はパーソナライゼーションに活用
アダストリアはドットエスティのシステム改善にも力を入れている。
アパレル業界において顧客満足度を上げるために――ひいては顧客単価を上げるためには、顧客一人ひとりのニーズに合わせた商品やサービスを提案する「パーソナライゼーション」が重要な要素とされている。
ドットエスティでは23年3月からパーソナライズ化の新たな試みとして、アプリ画面上で顧客の年代や性別、趣味嗜好に合ったコンテンツの配信を開始した。
「効果はまだ判別しかねる段階だが、商品の多様化と顧客の年齢層の拡大は進んでおりユーザーにマッチしたコンテンツをどう出していくかを模索中だ」(田中氏)
ドットエスティにおけるパーソナライズ化に必要なデータの分析は、店舗業務経験のある20代スタッフ4人が担当しているという。「アルゴリズムを含めたデータ解析などの専門的な領域は外部のアドバイザーに外注するが、定性的な分析は店舗での経験が重要なポイントになる。データだけを見て表面的に出した判断と、具体的なペルソナを想定した判断では大きな違いがある」(田中氏)
続けて田中氏は「蓄積された店舗での接客経験は、『ドットエスティ内の接客』としてもリアリティのあるシナリオを描くことができ、商品レコメンドに生きる。接客経験が豊富なスタッフは優れた知見とアイデアを持っているので信頼している」と述べ、多くの店舗数を誇るアパレル企業ならではの強みだと強調する。
そうした店舗スタッフ経験者による知見に加えて、オペレーションの改善(LINEで簡単に会員登録が可能になるなど)により、ドットエスティの会員数は増加傾向を継続している。リアル店舗とECの相互の価値向上をめざすアダストリアの取り組みに今後も要注目だ。
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