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「ビーガン」よりも「プラントベース」? 行動・意識調査に見るサステナブル消費のリアル

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年4月19日 20時55分

Iryna Mylinska/istock

Iryna Mylinska/istock
Iryna Mylinska/istock

 ダイヤモンド・リテイルメディアが2022年11月に実施した「第1回サステナブル・リテイリング表彰」()の審査に立ち会い、日本の食品小売業界でも着実にサステナビリティに対する取り組みが進化していることを知り頼もしく感じられた。

 サステナブルな企業行動は、中長期的には避けては通れない問題であるが、短期的には必ずしも経済合理的ではない。投資家や消費者などのステークホルダーがそうした企業行動を支持する必要がある。すでに、ESG銘柄を投資対象とするなど株式市場では、市場が社会的な取り組みを積極的に行う企業をバックアップする動きが進んでいる。

 本稿では、食品小売企業にとって、もう1つの重要なステークホルダーである消費者の食品消費・食品購買行動について考えてみる。

 遡ってみれば1990年代以降、消費者の価値観の多様化を受け、各企業は「こだわり消費」に応えて、ある程度ムダを受容した品揃えを行ってきた。

 これからは2010年代半ば以降のサステナビリティに対する社会からの要請に応えなくてはいけない。しかし、消費者意識も同じように変化していればよいが、その速度が一致していなければ「社会の要請に沿ったものを並べても消費者は買ってくれない」ということになりかねない。

 そこで今回、現在の消費者の意識を把握するべく、食品に対する倫理的消費(エシカル消費)の意識や行動の変化に着目しWebアンケート を行った。その結果から今後、食品小売企業がめざすべき、サステナブルな施策の方向性考えてみたい。

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※1 「第1回サステナブル・リテイリング表彰」https://diamond-rm.net/management/sdgsesg/270279/
※2「食品購入・消費の際に倫理的な意識を消費者は持っているのか(2021年12月)」について,㈱インテージを通じたインターネット調査を行い,3777人に調査依頼し516人の有効回答(有効回答率13.7%)が得られた。詳細は「日本人の食品消費行動の変化と企業行動について ―消費者アンケートに基づく一考察―」日本大学大学院総合社会情報研究科紀要 Vol. 23 No. 3, 131-140 (2022) を参照頂きたい。https://gssc.dld.nihon-u.ac.jp/wp-content/uploads/journal/pdf23/23-131-140-Kato.pdf

「プラントベース」を
意識する人は約3割に

 まず、消費者は、食品を選択する際に「健康」「簡便性」「倫理」に対してどの程度意識しているか、コロナ禍による影響と合わせて質問した(表1)。

表1
表1

 結果を見ると、「倫理」に対する意識は、「健康」「簡便性」に対してかなり低い水準に留まっていた。ただし、コロナ禍を経て、意識が着実に高まっていることは調査結果からも明らかだ。もちろん、この変化はコロナ禍の影響だけでなく、SDGsへの取り組みが社会的に行われるようになった効果もあるが、倫理的な消費行動へと変化しつつあることは認められよう。

 次に、具体的な商品分野を挙げて「エシカル」を意識して購買しているか聞いた(表2)。すると、「低残留農薬・減農薬商品」は半数近くが意識し、「プラントベース食品(動物性たんぱく質を植物性に転換したもの)」「CO₂排出の少ない商品」「人権や森林資源に配慮した商品」などは3割程度まで意識が高まっている。

 一方、「昆虫食」「ビーガン商品」などのスコアは低く、むしろ、商品の存在を知らないという回答が多かった。

表2
表2

30代~40代の
意識が高まらない理由

 最後に、商品だけでなくパッケージなども含めて「社会持続性に対する意識」に基づく購買行動が行われているかについても調査した(表3)。

表3
表3

 結果、「国産食品」「添加物(の少ない食品)」「ごみを削減するパッケージ」「低残留農薬/減農薬商品」を利用するという回答は多かった。他方で「エシカル」「菜食主義」「CO₂排出の少ないパッケージ」「賞味期限を延ばすパッケージ」などは回答率が低い状況であった。

 表では示していないが、世代別のエシカルに対する意識を回答の傾向から見ると、若年層(15-29歳)および中高年層以上(50代以上)の意識は比較的高いが、中堅層(30代-40代)の意識が低い。

 アンケート実施後に、30代から40代の消費者にこの内容を踏まえてインタビューしたところ、「(自分たちの世代は)共働き世帯も多いこともあり、社会持続性を意識する必要があることはわかっていても、コストパフォーマンスとタイムパフォーマンスを重視してしまう」という声が聞かれた。確かに、中堅層は「簡便性」に対する意識が他の世代よりも高い傾向はアンケート項目の中からも認められた。

商品知識の広がりが
消費拡大につながる

 これらの調査結果から①現時点では消費者のエシカルな食品消費行動が浸透しているとはいえない、②エシカルの意識は若年層と高齢者で関心が高く、中堅層で低いという状況にあると考えられる。

 この傾向を受けて、これから日本社会でエシカル意識を高める際のターゲットは、30代~40代と考えられる。さらに言えば、この世代は③具体的なエシカルな消費行動につながる商品知識が低いことも確認された。最近でこそ、プラントベース食品などの認知度が上がってきたが、昆虫食を試した人はわずかである。社会的にSDGs(持続可能な開発目標)への意識は広がっているが、具体的に何を買い、何を食べたらよいかという知識は乏しいと考えられる。

 では、今後いかにエシカルな商品知識を高め、消費者の行動を変えていくべきか。

 筆者の見解では、企業の生活提案が消費者の消費行動に与える影響は大きい。たとえば、前述したサステナブル・リテイリング表彰でも受賞した「てまえどり」や「レジ袋不要」などは、企業側からサステナビリティにつながる商品提供・販売方法を提示したことで、広く世間に倫理的な行動が広がっていったと言える。

 こうしたなか、企業が率先してサステナブルな消費行動を提案していくことが重要だと考える。そうすることで30代~40代はもちろん、日本社会全体にエシカルな購買行動が広がることを期待したい。

【執筆者】

日本大学大学院総合社会情報研究科教授  加藤 孝治

1988年に日本興業銀行入行、2007年みずほコーポレート銀行産業調査部次長。15年、目白大学経営学部経営学科教授に転身。19年から現職。近著『食品企業 2030年,その先へ』

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