コロナ収束で明暗、伸びる業態と縮む業態、寡占化する業態は?小売業、市場占有率2023
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年4月24日 20時47分
複数の外部要因が再編の呼び水に!?
日本政府により、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に引き下げられる。緊急事態宣言や、マスク着用の推奨、飲食店への営業時間短縮要請などはなくなり、いよいよ人々がかつてのような日常生活を取り戻せる日がきた。
しかし、コロナ感染拡大を経て大きく変容した生活者の消費行動は、感染症の脅威が薄れてもコロナ前には戻らなそうだ。リモートワークの定着や、外食機会の減少、ECやデリバリーの利用などは、コロナ禍での3年あまりの月日で人々の生活にすっかり根付きつつある。
もう1つ消費者を取り巻く環境で大きく変化しているのが節約志向の高まりだ。ウクライナ情勢に端を発して、原材料費や燃料費などの各種コストが増加した。これにより家庭の光熱費が高騰しているとともに、メーカー各社が一斉に値上げを行ったことから、消費者の生活防衛意識が高まっている。
こうしたなか、今年の主要業態の市場占有率は、これらの外部環境下での生活者の消費行動やニーズを色濃く反映するものとなっている。本特集では、「食品スーパー(SM)」「総合スーパー(GMS)」「コンビニエンスストア(CVS)」「ドラッグストア(DgS)」「百貨店」「ホームセンター(HC)」「通信販売」「家電量販店」「外食」「総菜専門店」「100円ショップ」「食品卸」の主要12業態において、市場規模、上位企業の寡占化率の変化を解説していく。
まずSM業態については、本誌調査によると2021年の市場規模は18兆7917億円と推計され、前年から0.7%の微増だった。前年のコロナ特需の反動を受けて減収となった企業も少なくなく、成長の鈍化がみられるようになっている。そして直近で発表されつつある最新の22年度決算では、新しい消費ニーズに対応できた好調企業とそうでない企業に分かれつつある。
こうした環境下でフロンティア・マネジメント代表取締役の松岡真宏氏は「業界再編に向けたマグマが地中に溜まり、いつ噴出してきてもおかしくない状況」と業界再編の機運が高まっていることを指摘する。昨今の各種コスト増が企業の業績を圧迫していること、また戦後日本のSMを築き上げてきた創業者が鬼籍に入るニュースが相次ぎ、世代交代が生じ、抜本的な改革が予想されることなどが背景にある。
そうだとすれば、SMの上位企業による寡占化率はいまだ4割強程度にとどまっているが、寡占化が進行していく可能性がある。
変化に強いCVS、市場規模がV字回復
前年度と比べて大きく市場規模が伸長した代表的な業態が、通信販売、DgS、CVSだ。
通信販売は、21年度の市場規模が対前年度比7.8%増の11兆4600億円。コロナ感染拡大直後の20年度の伸び率(同20.1%増)と比較して落ち着いたものの、高い成長率で推移している。ただ、コロナ禍でEC化はいっそう進んではいるものの、上位10社による寡占化率は同0.2ポイント増の38.1%と微増にとどまる。今後も中小含めてさまざまなプレーヤーがECに参入し、成長を後押ししていきそうだ。
DgSも21年度の市場規模が同6.3%増の8兆5408億円となり、直近5年で最も高い伸び率を示した。最大手ウエルシアホールディングス(東京都)は売上高が1兆円を超えるなど、上位企業を中心に積極出店により勢力を急速に拡大している。詳しくは後述するが、近年集客を目的にDgS各社が扱いを強化している生鮮を含む食品の販売額も多く伸びており、食品小売業界における存在感を高めている。
コロナ禍での低迷から見事なV字回復を見せたのがCVSだ。22年度の市場規模は11兆1775 億円で同3.7%増加。コロナ感染拡大直後には、オフィス街や観光地立地の店舗の利用が大きく落ち込んだが、コロナ前の19年度(11 兆 1608 億円)を超えるまでに回復を果たしている。
既存店の稼ぐ力とも言われる平均日販も回復し、「セブン-イレブン」「ファミリーマート」は19年度の数値を超えている。人流が回復したことも要因だが、有名専門店とのコラボレーションによる商品開発や冷凍食品の販売強化など、消費動向の変化や消費者ニーズを巧みにとらえて、需要を取り込んでいる。
同じく復調を見せたのが百貨店だ。22年度の市場規模は同12.7%増の4兆9812億円だった。19年度比では86.5%と完全復活には遠いが、消費者の外出機会の増加やインバウンド売上などにより回復の兆しがみえている。一方で中小百貨店は苦境に立たされ、上位5社のシェアは同7.4pt増の72.3%と7割を超えるまでになっている。
戻らない外食、需要広がるデリバリー
一方、コロナ禍が収束しても回復できない業態や、反動減に苦しむ業態もある。GMSは今回、各社とも今年度から「収益認識に関する会計基準」を適用していることに加え、業態区分を変更した企業があったこともあり市場規模が大きく縮小。4兆9487億円と5兆円を切った。なかでもイトーヨーカ堂(東京都)は事業構造改革で、期待以上の効果が出ていないことからアパレル事業からの撤退や、さらなる店舗閉鎖を発表している。
コロナ禍で深刻な影響を受けた外食は、21年度市場規模が同6.5%減の11兆6268億円と、2年連続減少した。外食・中食市場情報サービスを提供するエヌピーディー・ジャパン(東京都)による、直近の22年の外食・中食市場も、19年比で10.4%減。なかでも外食(イートイン)が同26.0%減と、コロナ禍が落ち着きを見せても、利用が戻っていないことがわかる。
これに対して利用の定着が見られるのがデリバリー市場だ。20年に同50%増、21年に同26%増とコロナ禍を機に一気に市場を拡大。22年は同1.6%減の7754億円となったが、19年比では同85%増となっている。こうしたなか外食企業もデリバリーに力を入れるほか、SMやCVSがデリバリープラットフォームと提携して、店舗商品の即時配送サービスを提供し、店舗の売上増や新規顧客の獲得につなげるなど、新しい動きが生まれている。
HCは、21年の市場規模が同3.1%減の4兆1360億円だった。コロナ禍での反動減で縮小しているものの、前年のコロナ特需で突破した4兆円台を維持した。しかし人口が減少するなか将来的なマーケット縮小を見据え、異業種との協業・提携や、M&A(合併・買収)を進めている。
DgSの食品売上高がイオン、セブンに次ぐ規模に
このようにコロナ収束下での消費行動の変化や、各種コスト増などの外部環境の変化を受けて、好調な業態、不調な業態と明暗が分かれている。しかし、押さえておきたいのは、すでに状況は業態を超えた戦いに突入していることだ。
象徴的な事例として挙げたいのが、生鮮を含む食品の扱いを強化しているDgSの存在だ。各社集客を目的に圧倒的な低価格で食品を販売し、とくにSMにとっては手ごわい存在となっている。
本特集では、国内の食品小売マーケットに占める、SMやCVSなど大手食品小売企業・グループと、大手DgS10社の食品売上高のシェアを調査した。すると、21年度のDgS10社の合算値は1兆7111億円と、前年度比で1000億円近く伸長。食品売上高第3位の「ファミリーマート」を超え、イオン(千葉県)、セブン&アイ・ホールディングス(東京都)グループの主要企業合計値に続く規模にまで拡大していることがわかった。
こうした業態の垣根を越えた競争が激化するなか、各社はいかに戦っていくべきか。
アクシアル リテイリング(新潟県)の原和彦社長は、今後、食品小売業界で勝ち抜いていくために重要なことについて、「店舗の競争力を高めるべく、物流・製造拠点・ITなどの各機能を充実させることが必要不可欠」と述べている。たとえば同社は07年にはIT企業のアイテック(新潟県)を設立し、店舗運営の効率化を図るソリューションを自前で開発するなど、各機能に積極投資し、それが現在の収益性の維持・向上に生かされている。
昨今では自力での成長や、資本による提携だけではなく、他社との連携や協業などにより競争力向上を図る動きも増えている。前出の松岡氏は「企業間連携は、かつて同じ業態同士というのが主な流れだったが、これからは業態の垣根を越えたアプローチも考えるべきだろう」と話し、単に競争するのではなく、商品や物流、ITなどにおいて、積極的に広く他社と手を組むことも重要になってくるとしている。
今回の特集を通じて見えてきたのは、コロナ禍を経て、食品小売業界では競争環境の激変が起きていることだ。今後は、消費の二極化もいっそう進んでいくと予想されている。今こそ、各業態の変化や時流をつかみ、自社がどのような道を歩むべきか十分に見極めたい。
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