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「サステナブル提案」はコストじゃなく利益!土屋鞄製造所が若年層を取り込んだ手法とは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年5月24日 20時54分

土屋鞄のランドセル

ランドセルや革小物メーカーとして知られる土屋鞄製造所(東京都/土屋成範社長)が近年注力しているのが“サステナブルな”モノづくりだ。環境配慮型のユニークなプロダクトやサービスを次々と立ち上げている。土屋鞄製造所のサステナブルな取り組みのねらいについて迫る。

土屋鞄商品

土屋鞄製造所に根付くサステナブルなモノづくりのDNAとは

 土屋鞄製造所の創業は1965年。東京足立区西新井にランドセルの工房として創業した。2代目で現代表の土屋成範氏が入社した90年代後半から、同社はECやメルマガを使ったコンテンツマーケティングとダイレクトマーケティングの手法をいち早く導入。ユーザーに直接ランドセルづくりに根付いたモノづくりの妙味を丁寧に伝えたことで人気を博し、実店舗と自社ECの製造直販スタイルであるにも関わらず、1965年の創業以来、累計90万個を製造販売した。

西新井にある土屋鞄製造所本店併設の工房
西新井にある土屋鞄製造所本店併設の工房

 ランドセルに並んで売上が伸長しているのが、00年代にスタートした大人向けの鞄ブランド「土屋鞄製造所」だ。ランドセルで培ったものづくりの手法をレーザートートやブリーフケースなどの革製品の製造に生かした。こうした大人向けラインの専門店も増やし続け、今や国内12店舗、海外にも3店舗を持つまでになった。

 こうして、同社のこだわりぬいたものづくりのファンになったユーザーは多く、同社の巧みなダイレクトマーケティングの手法と相まって、LTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)も高い。たとえば、土屋鞄のランドセルユーザーが成長して大人用の土屋鞄ブランドを愛用する。あるいは、ユーザーの両親が自分の子供に購入したランドセルの良さに触れたことをきっかけに、大人向けの土屋鞄ブランドの愛用者になるといった具合だ。

 ただその一方で、若い世代のファンを増やし続けているとはいえない状況があった。そのために、若年層を含めた新しいユーザー層にリーチすることが経営課題だった。 

ヒントになったのは自社の新卒採用

 「そんなときヒントになったのが、土屋鞄の新卒採用面談だ」と土屋鞄製造所KABAN事業推進本部本部長の中橋竜矢氏は振り返る。2021年に行った新卒向けの面談では、多くの就活生から「環境に対する配慮をどう考えているか」という質問があり、普段、洋服やバッグを買うときは『大量生産・大量消費ではなく長く使えるものを選ぶ』という意見が多かったという。こうした経験が、土屋鞄製造所のサステナブルな施策を後押しした。

土屋鞄製造所KABAN事業推進本部本部長の中橋竜矢氏
土屋鞄製造所KABAN事業推進本部本部長の中橋竜矢氏

 「若い世代にリーチしたうえで当社の商品を選んでもらうには、環境にしっかりと配慮したスタンスを明確に伝え、実践していくことが不可欠だと考えた」(中橋氏)。

土屋鞄製造所は既述の通りグローバル展開も進めている。台湾や中国などのアジア圏に進出するほか、ECサイトは早期から英語に対応している。いうまでもなく、欧米市場は環境への意識が高い消費者が多い。安くていいものや、ただ質の高いものを求めるのではなく、エシカルなものづくり、エシカルな消費に高い価値が置かれている。環境配慮型のモノづくりを進めることは、こうしたグローバル市場においても同社のプレゼンスを高めていくために欠かせない要素ともいえる。

 また、中橋氏は、土屋鞄製造所は元々サステナブルなものづくりとプロダクトを提供してきた自負があると話す。「なぜならランドセルは子供たちが6年間使うものであり、長く使っていただく丈夫さがプロダクトの欠かせない要素だからだ」。

 そのため創業時から「手入れしながら長く使ってもらう」ことを念頭に置いたモノづくりを行ってきた。つまり、土屋鞄製造所は、SDGsやサステナブルといった言葉が世間に浸透する以前から、持続可能なものづくりに取り組んできており、サステナブルなものづくりのDNAが脈々と受け継がれていたのだ。

土屋鞄製造所のサステナブルな取り組みとは…

 土屋鞄製造所が手がけるサステナブルな取り組みとしてまず挙げられるのが、21年に立ち上げた「CRAFTCRAFTS(クラフトクラフツ)」だ。土屋鞄製品を店頭で無料手入れする「ケアサポート」や、専任職人が修理する「リペア」、ランドセルを小物などに作り直す「リメイク」、そして商品を無料で引き取り、職人が修理して別のユーザーに再販する「リユース」に取り組む。

なかでもユニークなのが、「リユース」の取り組みだ。長く愛用してきたバッグでも、ライフスタイルの変化などから手放さざるを得ないときがある。しかし、経年劣化が激しい場合、ネットオークションに出しづらく、捨てるのも気が引ける。そうしたユーザーに向け、ポップアップ形式の店舗において商品を無料で引き取り、美しくリペアする。その商品をまた新たなユーザーに販売することで「リユース」する仕組みだ。

CRAFTCRAFTSのリユース事業。専門職人がリペアし、新たな使い手に
CRAFTCRAFTSのリユース事業。専門職人がリペアし、新たな使い手に


(キャプ・CRAFTCRAFTSのリユース事業。専門職人がリペアし、新たな使い手に

こうしてリユースした商品は通常価格の25~50%引きで販売する。普段セールを一切しない土屋鞄製造所にとっては大胆な取り組みであり、エントリーユーザーを増やすきっかけにもなった。中橋氏は「購入するお客さまからはもちろんのこと、商品を提供いただいた方からも『愛着のあったバッグが生まれ変わり、また別の方に愛用されるのはうれしい』といった声を多くいただいている」と力を込める。

23年からは、製品を長く使用してもらうことを目的とした期間限定イベント「パーソナライズサービス」も始めた。期間中に土屋鞄の愛用品を持ち込めば、取っ手の長さを変更したり、色を黒に塗り替えたり、イニシャルやナンバリングを入れたりと一人ひとりの好みに即したカスタマイズを請け負う。このイベントはランドセルを専門に扱う10店舗を中心に開催している。繁忙期を避けることで、店舗の有効活用にもつながる。

キノコの菌糸体をもとにした新素材「Mylo」で土屋鞄が創った小物類。
キノコの菌糸体をもとにした新素材「Mylo」で土屋鞄が創った小物類。

 さらに注目すべきは、22年12月15日にリリースした「Mylo(マイロ)」シリーズだ。Myloは、アメリカのバイオテックベンチャー企業であるボルト・スレッズ社が開発したキノコの菌糸体でつくられた新素材だ。牛革のような質感を持ちながらも植物由来なため環境にやさしく、なおかつ動物愛護といった皮革メーカーが直面する社会課題にも抵触しない。

SDGsが一般化し、サステナブルなものづくりが求められるなか、ボルト・スレッズ社には世界中の革製品メーカーから数千にもおよぶ「Myloを使いたい」とラブコールが入っている。

 「同じニーズと課題感を私たちも持っていました」と中橋氏は話す。日本でもSDGsが一般化し、価値観も多様化している潮流を鑑み、かねてよりMyloのような代替レザーを選択肢の一つとして用意していくべきだ、と考えていたという。

 しかし、Myloはまだ大量生産の段階にない希少な素材だ。そのためボルト・スレッズ社は取引先を、「グッチ」や「ボッテガ・ヴェネタ」などを有するケリンググループや、アディダス、ステラ・マッカートニー、ルル・レモンといったグローバルブランド4社に絞っていた。

持続可能なモノづくりに長年取り組んできた実績が評価

 バイオ・スレッズ社との交渉は、土屋鞄製造所の親会社であるハリズリーが中心となって進めた。数千の企業がMyloとの契約を望んでいたため、交渉は容易ではなかった。そうしたなかで、土屋鞄製造所が「日本の子供たちが6年間使うランドセルを半世紀近くつくってきた」という世界でも稀な実績を持っていたことを評価され、契約を勝ち取ったのだ。

土屋鞄作業風景

 「ランドセルは日本人が最初に触れるクラフトマンシップだ。それをMyloのような未来の素材で作ることに“夢”を感じていただけたようだ」(中橋氏)。

 取り引き開始後すぐに、熟練の職人が届いたサンプル素材からL字型のファスナー付きミニ財布を試作した。わずか3週間後には、ボルト・スレッズ社に送付し、その製作のスピード感と質の高さにボルト・スレッズ社は驚いたという。

 土屋鞄製造所の職人はすべて正社員で、日々、ランドセルや革小物づくりによって研鑽を積んでいる。そうした環境下で培われた質の高い技術力も大いに評価された。

ランドセルづくりに裏打ちされた高い技術力が評価された
ランドセルづくりに裏打ちされた高い技術力が評価された

 昨年12月から一部の直営店と自社オンラインストアでMyloを使ったファスナー付きミニ財布の販売をスタートした。これまでの客層とはちがう、環境意識やファッション感度の高い層にリーチできたことで、売れ行きは好調だという。

サステナブルな政策は人材の確保にもつながる

 「当社のサステナブルな取り組みが広く認知されることは、環境やエシカル消費に関して意識の高い方に入社していただくきっかけにもなっている。そうした人材から、さらなるサステナブルな施策が生まれていくではないか」と中橋氏は期待を込める。

土屋鞄のランドセル

実際に、昨年6月に起ち上げた過去シーズンのデッドストックとなっていたランドセルを再販する「STOCK LUCK」という取り組みは、まさに入社2年目の若手社員が企画したという。

未来のために次々とサステナブルな施策を打つとともに、人材も着々と増やしていく。サステナブルなものづくりのDNAは、今後もさらに受け継がれていきそうだ。

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