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セブン&アイ、激化するアクティビストとの対立 求められるのは「人」選ではなく「事業案」選

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年4月30日 20時55分

セブン&アイロゴ

2023年5月25日、セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)の株主総会が予定されています。残り一ヶ月を切り、主要株主であるバリューアクト・キャピタル(以下、バリューアクト)とセブン&アイの経営陣との対立が深まっています。

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バリューアクトの「貢献」と「苛立ち」

今回取締役14名全員が任期を迎えます。このうち1名が退任するため、会社側は社外独立取締役2名の新任と13名の社内外取締役の再任を目指しています。

一方、バリューアクト側は井阪隆一社長を含む4名(うち1名は退任予定)の取締役の再任に反対しており、代わりに社外取締役候補4名を提案しています。会社側は井阪社長を含む社内取締役2名と社外取締役1名の再任、および社外取締役2名の新任を目指しています。

会社側の思惑通りとなれば、社内6名・社外9名の15名体制に、バリューアクトの思惑通りになれば社内4名・社外10名の14名体制になるはずですが、可能性としてはバリューアクトが望まない井阪社長等の再任と、バリューアクトが希望する社外取締役のいずれもが任命される可能性があろうかと思います。

招集通知によれば、取締役の定員15名に対して候補者が19名いるため、採決の結果、出席株主の議決権の過半数の賛同を得た候補者が15名を超えた場合には、賛成の議決権の個数が多い取締役候補者から順に15名を選任するとされています。議決権行使書用紙の確認が必要ですが、株主が慣例通り一人一人に賛否を表明することができるのであれば、取締役の構成は理論的に見てと流動的と考えます。

筆者は、バリューアクトはセブン&アイの企業価値に対して大きな貢献をしてきたと思います。

カリスマであった鈴木敏文氏の退任後、セブン&アイは米国でのコンビニ事業展開に舵を切り、また百貨店事業の切り出しを決意しました。資本市場的に言えば、最も強みを発揮できる事業に経営資源を集中投下し勝ち切ることが必須ですので、当然の動きとなりますが、その過程でバリューアクトをはじめ多くの株主が背中を押したことは間違いないと思います。特に発信力のあるバリューアクトの監視の目は、経営陣には無視できないものだったのではないでしょうか。

それゆえバリューアクトの苛立ちには共感します。百貨店事業の事業譲渡が停滞し、収益性が回復しないスーパーストア事業に対するおおらかな投資の継続に対して筆者も納得できていません。

「一部の取締役」の問題なのか?

セブン&アイのロゴ
2022年 ロイター/Kim Kyung-Hoon

しかし、バリューアクトの今回の株主提案にも首を傾げてしまいます。

最も解せないのは、会社が提案する再任予定の取締役10名に対してバリューアクトも賛同している点です。

仮にバリューアクトの主張通り、井阪社長以下数名の取締役の専横によって経営があるべき姿になることを阻害しているのが事実であれば、直接的な阻害要因を除くことはもちろんですが、そうした体制を許容してきた体制、すなわち全ての取締役に連帯責任があるはずでしょう。

筆者がバリューアクトの立場であれば全取締役を解任し、新たなチームを提案します。

また、会社側が述べるように、バリューアクト側が推薦する新任取締役の適正にも疑問が残ります。グローバル化とデジタル化に挑むセブン&アイのコンビニ事業の将来像を描くに最適なのか、説得材料がさらに欲しいところです。

加速感乏しい改革に必要なのは
関係者がコミットできる「事業案」

セブン&アイと同様、アクティビストと対立の構図にあった東芝経営陣が、アクティビストが好む体制に刷新されて1年が経過しました。しかし、アクティビストの希望を早急に充足し、経営陣と従業員が一丸となって事業発展に全力を注ぐ体制に移行できたかというと、正直なところ未だ目立った成果は出ていません。

経営トップを入れ替えても、入れ替えた経営陣が本当に適性なのかが判明するまでに時間を要しますし、また新しいトップが企業を導くにはそれなりの期間の助走が必要なのでしょう。

バリューアクトに期待したいのは、改革を減速させる阻害要因を解きほぐす具体的な提案です。今後競争が厳しくなるコンビニ事業の行く末などを見据えると、取締役の「人」選を争うほどの時間的余裕は残されていないと考えます。

筆者がセブン&アイに期待するのは、食をメーンとしたグローバル・フランチャイズになり、たとえば「マクドナルド」のような存在になることです。

そのために何をするべきか、具体案の競い合いを期待したいのです。

経営側の取締役提案内容にも不満が残ります。マクドナルドを凌ぐグローバル・フランチャイズになる本気度を示して欲しいと考えます。そのために、本格的なグローバル人材の育成と登用、および外部からの招聘を期待します。

ちなみに、私見になりますが、ごく最近会社側からスーパーストア事業のIPO(新規株式公開)についての言及が出ています。スーパーストア事業は、潜在的には従来型のコンビニFC事業との競合になる可能性も秘めているわけですが、あえて切り出す姿勢を示すことでスーパーストア事業にコミットする人材と意欲を最大化できるのであれば、親子上場の時期が一定期間生まれることになるかもしれませんが、旧来通りスーパーストア事業を抱え込むよりは良いと考えています。

株主総会が近づき、会社側、バリューアクト側の双方からの情報発信がまだまだ過熱していきそうです。来たる株主総会で、すべての株主がセブンアイの事業ポテンシャルに対して本当の「愛」を示すとき、どのような選択になるでしょうか。

コロナ禍も明けてきましたので、久しぶりに会場が盛り上がる株主総会になりそうです。

 

プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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