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7社の「勝ち」フォーマットを徹底検証!インフレでも強いスーパーマーケットの条件とは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年5月8日 20時47分

食品スーパー1280

インフレという新たな逆風

 「(業績の)外見上の数字はいいが、本質的な問題が見えにくくなっている。いずれ再び、実力勝負の世界になる」──。

 コロナ禍真っただ中、食品スーパー(SM)が巣ごもり需要をとらえて特需に沸いていたなか、ある大手SM企業の経営トップはこう危機感をあらわにしていた。少子高齢化と人口減少、慢性的ともいえる景況感の悪化、人手不足の問題、ボーダレスな競争の激化──。一過性のコロナ特需はSMを取り巻くこれらの問題を解決してくれるわけではなく、コロナ後には再度、各社が同じような課題に直面するというわけだ。

 それから約3年。われわれが想定していた以上に長期化したコロナ禍だが、ついに日本政府は、5月に新型コロナウイルスを季節性インフルエンザと同等の「5類」に移行することを決定(本稿執筆時点)。諸外国に比べてコロナ関連の規制の緩和・撤廃に慎重な姿勢を見せてきた日本も、ついにコロナ収束を現実のものとして動き始めている。

 ただ、冒頭の経営トップの言葉どおり、あるいはその想定を超えて、SMを取り巻く環境は厳しい様相を呈している。なかでも“想定外”だったのは、コストプッシュ型インフレの加速だ。長引く円安や、ロシアのウクライナ侵攻といった世界情勢に起因する生産コストの上昇により、物価は高騰。2022年度の国内の消費者物価指数(天候要因による相場変動が大きい生鮮食品を除く)は、前年度から3.0%増となり、1981年度以来41年ぶりの高水準を記録した。直近でも、2023年3月消費者物価指数は前年同月から3.1%上昇、さらに食料品(生鮮食品を除く)に至っては同8.2%増と約40年ぶりの高水準となっている。

 あらゆるモノの値段が上がるなか、食品購入にかかる支出を抑えるべく購入点数を減らしたり、SMへの来店頻度そのものを減らしたりといった購買行動をとる消費者も少なくない。SMにとって、水道光熱費や出店・賃料コストの上昇とともに、こうしたインフレ下での消費者の生活防衛意識の高まりは深刻な問題である。ただでさえ、コロナ特需の反動もあって売上が低迷している企業もあるなか、お客が「店に来てくれない」「モノを買ってくれない」という新たな逆風がSM業界を襲っているのだ。

求められる価格と付加価値のバランス

 こうした厳しい環境を、SMはいかに勝ち抜いていくべきか。

 まずはやはり、価格対応だろう。サプライチェーンの上流に遡った調達力の強化や、売場・店舗オペレーションの効率化による販管費の削減などといった努力で、適正価格を維持することは、生活インフラとして機能するSMにとって欠かせない。

 ただ、価格対応だけでは勝ち残れないというのも事実だ。インフレ下でも集客を図るために各SMが価格対応を“大前提”とするなかで、それを戦略の軸としても、同質化競争に陥るだけである。また、食のマーケットを深耕するドラッグストア(DgS)やディスカウントストアの価格競争力の高さに、SMが太刀打ちすることは現実的ではない。

 となると、価格以外の付加価値をお客に提供することで、「選ばれる店」をめざすというのが正攻法になる。ただし、付加した価値をそのまま価格に転嫁することは既存顧客の流出を招くおそれも高い。自社・自店の商圏や顧客特性を正確にとらえたうえで、価格と付加価値のバランスをいかにうまくとるか。そのうえで、競合他社には簡単にモノマネされない独自の「強み」をいかに確立するか。言うは易し行うは難しのこの課題を解くことが、インフレという逆風下でも「強さ」を保ち、磨き上げ、成長を続けていくことにつながるのだ。

首都圏の有力SMが成長を続ける理由

 では、「インフレ下でも強いSM」の条件とは何なのだろうか。そのヒントを、すでに強固な店舗フォーマットを有する注目企業に求めようというのが、本特集の主旨である。

食品スーパーのイメージ
インフレという新たな逆風でも「強いSM」をつくり上げることが将来の成長継続につながる(写真は本文とは関係ありません)

 今回、ケーススタディとして取り上げたのは、ロピア(神奈川県/髙木勇輔代表)、ベルク(埼玉県/原島一誠社長)、ヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)、万代(大阪府/阿部秀行社長)、トライアルカンパニー(福岡県/石橋亮太社長)、マミーマート(埼玉県/岩崎裕文社長)、ツルヤ(長野県/掛川建三社長)の計7社。各社の注目店や繁盛店、新フォーマット店舗を徹底調査し、それぞれの「強み」がどこにあるかを考察した。

 このうちロピア、ベルク、ヤオコーの3社は言わずもがな、首都圏を地盤とする有力SMとして知られ、本誌でも頻繁に取り上げる企業群だ。

 ロピアは今や中部、関西、そして台湾まで店舗網を広げ、今年6月には九州(福岡県福岡市)への進出も控えている。そうした果敢な拡大政策の背景には既存店に対するお客の高い支持があるわけだが、同社の“店舗力”にあらためてフォーカスすると、変幻自在の売場編集力と、安さを印象づけるための戦略的な仕掛けの数々が明らかになった。

 ベルクは徹底した売場標準化と効率化の取り組みで知られるが、売場を細かく見ると、「何で売り」「何で稼ぐか」をカテゴリーごとに明確化する姿勢、標準化された売場の中でアクセント的に差し込まれた“意外性”が集客につながっていることがわかった。

 多くのSMがベンチマークするヤオコーは、季節やトレンドを先取りした商品開発、プライベートブランド(PB)を含む各カテゴリーでの圧倒的な品揃えが集客力の源泉となっている。それとともに、回遊性を高めるための緻密なレイアウト設計が、購買促進につながっている。

 これらの有力SM3社との厳しい競争にさらされながら、新たなフォーマットの開発によって成長を推進しているのが、マミーマートだ。同社はディスカウントフォーマット「生活市場TOP」「マミープラス」への業態転換を足元で進めており、転換によって売上高が2倍に拡大した店もある。生鮮強化と品揃えの拡充、そしてそれらを手頃な価格で提供することで、激戦地でもお客の支持を獲得している。

地方チェーンにもヒントは満載

 首都圏以外にも、その「強さ」をあらためて注目すべき強力なチェーンは多く存在している。

 万代は、ロピアの出店拡大やオーケー(神奈川県/二宮涼太郎社長)の進出決定によって乱戦必至の関西圏において、安定的な支持を集め、繁盛店を多く有している。強烈な価格訴求をするでもなく、尖った商品政策(MD)を多く導入するわけでもない同社が支持されている理由とは何か。そこには、商品を「売り込む力」と、意外な集客部門の存在がある。

 北海道から九州まで、スーパーセンター(SuC)を主力業態に店舗展開するトライアルカンパニーも、成長を遂げている企業の1つだ。同社は長年取り組んできた生鮮強化戦略がついに結実、SuCならではの食品・非食品の圧倒的な品揃えに、専門性の高い生鮮部門が掛け合わされたことで、以前に増して爆発的な集客力を獲得している。

 そして、“ローカルSMの星”ともいえるツルヤ。徹底した売場標準化と、それを原資に地元メーカーなどと共同開発した、独自色の強い付加価値型PBが熱烈な支持を集めている。直近では群馬県での店舗展開も進めるなどその勢いは関東圏にも迫っている。

 値上げが進み、お客の節約志向がいかに強まろうとも、生活必需品の1つである食品の「需要そのものが落ちる」ことは起こり得ない。つまるところ足元のインフレは、「選ばれる店」と「選ばれない店」をくっきり二分させることにつながるのだ。そして後者は、合従連衡の動きをはじめとする業界のめまぐるしい変化の中で、淘汰される可能性が高い。

 インフレ化でもお客に支持される強いSMとは何か──。それを今あらためて考え、実行に移すためにも、成長企業の「強さ」を研究してみよう。

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