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不当要求・カスハラ・迷惑行為から小売業が受ける想像以上の大きな「損失」とは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年5月25日 20時56分

AleksandarGeorgiev/iStock

第1回では、飲食店や小売店において実際に行われた迷惑行為の一例を紹介したが、迷惑行為を含むカスタマーハラスメント(以下:カスハラ)や無理難題を申し立てる不当要求は、運営企業に対して、種々の大きな損失(ロス)をもたらす。もはや、「お客様は神様」という認識は通用しない。経営陣や経営幹部は、不当要求やカスハラ、迷惑行為が企業にロスをもたらすことを正しく認識し、従業員をこれらの理不尽な行為から守ることはもちろん、当該ロスの削減の観点からも、不当要求やカスハラ、迷惑行為に対して毅然かつ断固たる対応を取ること、そのような対応を取るための社内体制や人材育成(研修など)を積極的に進めていく必要がある。不当要求・カスハラ・迷惑行為によるロスをいかに防ぐか、今、まさに経営陣の手腕が問われている。

AleksandarGeorgiev/iStock
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企業にとって最も痛手となる「人材ロス」

 本稿では不当要求・カスハラ・迷惑行為がもたらす「ロス」について順次解説していくが、数々のロスのなかで企業にとってもっとも痛手となるのは、「対応ストレスによる従業員のメンタル不調・退職・人材流出の誘発」をもたらすことだ。すなわち「人材ロス」である。

 不当要求やカスハラ、迷惑行為への対応を余儀なくされる担当者としては、緊迫した状況のなかで過度な緊張を強いられることになるうえ、執拗に繰り返される暴言・暴行などによる人格否定や威圧行為に対する恐怖、想定外の迷惑行為に対応しなければいけない焦りやプレッシャーなど、大きなストレスがかかる。

 このように顧客側からの理不尽な行為への対応を余儀なくされる一方で、会社として不当要求やカスハラ、迷惑行為に対して毅然として対応してよいというお墨付きが与えられていないなかでは、お客様を怒らせてはいけないという思いも相まって、どのように対応したらよいか困惑してしまう状況に陥る。

 当社の調査 (※1)でも、不当要求やカスハラが企業に及ぼす影響について、ストレスの増加(88.5%)、業務遅延(79.4%)、仕事意欲の低下(77.7%)が上位3位となっているほか、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(※2)に掲載されているアンケ―ト結果でも、顧客の迷惑行為による心身の影響として、「怒りや不満、不安を感じた」、「仕事に対する意欲が減退した」などの項目が上位を占めている。

 厚生労働省の同マニュアルでは、カスハラによる従業員・企業などへの影響として、従業員への影響については、「業務パフォーマンスの低下」、「健康不良(頭痛、睡眠不足、精神疾患、耳鳴りなど)」、「現場対応への恐怖、苦痛による従業員の配置転換、休職、退職」を例示している。

 これらの調査からもわかるように、対応に当たるスタッフは過度のストレスからメンタル不調に陥って休職に追い込まれたり、このようなストレスに晒される職場環境を嫌って退職したりしてしまうケースも少なくない。ただでさえ人材が不足するなかで、企業にとっては現場の最前線の有為な人材のロスに繋がりかねない。さらには業務運営や競争力に大きな影響を及ぼすことになる。

 また、労働契約法5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」として、安全配慮義務を規定しており、不当要求やカスハラ、迷惑行為などへの対応により従業員がメンタル不調に陥ることになれば、企業として安全配慮義務違反を問われかねないことも看過してはならない。
___________________________________
※1 エス・ピー・ネットワーク「カスタマーハラスメント実態調査(2021年)」
https://www.sp-network.co.jp/column-report/report/spn-report/customer-harassment2021.html?curr=publication
※2 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf

時間的・金銭的ロスも発生する

不当要求やカスハラ、迷惑行為などは、企業に時間的・金銭的なロスももたらす。
企業としての回答・対応は変わらない状況であるにもかかわらず、自身の要求を飲ませようと不当要求やカスハラを執拗かつ長時間に渡って行う輩も少なくない。このように、対応できないことを無理強いされて延々と時間を浪費されると、企業としては、他の業務の停滞やほかのお客への対応遅延をまねく。さらに、このような行為により、ほかのお客に迷惑を掛けることになれば、それによる企業の信頼失墜も加味すれば、企業が被るロスは甚大である。

また、SNSにアップされるかどうかを問わず、迷惑行為が行われれば、それへの対応や事後処理・改善策の実施、事件化などの本来やらなくてもよいことに時間を使わざるを得ず、企業として時間的なロスが生じてしまう。さらに、SNSなどに投稿された場合は、それを模倣する輩もいるため、その対応を余儀なくされることになる。

時間の浪費はビジネスチャンスの喪失やコスト増にも繋がりかねないことから、企業にとっても見過ごすことのできないロスと言える。

さらに、不当要求やカスハラ、迷惑行為への対応に際しては、お客から本来支払われるはずの金銭や費用を受け取れない、もしくはお客に払う必要のない金銭を払わされることになりかねないため、企業として、金銭的なロスも生じてしまう。とくに、店舗展開する小売業は薄利多売での経営を余儀されている場合が多く、金銭的なロスが及ぼす影響は大きい。

一方的に負わされる風評リスク

 さらに、迷惑行為がSNSなどで拡散されると、類似行為を含めて、模倣犯が発生したり、インターネット上での詮索・拡散により店舗が特定されたり、似たような店舗に問い合わせや抗議の電話が入ったりと、被害者たる企業側が一方的に風評リスクを負わされることになる。

 こうした当事者でもないのに抗議の電話をする、いわゆる「電凸(電話突撃)」も相変わらず行われている。しかもその大半はインターネット上の信ぴょう性に乏しい情報を一方的に信じ込んで、自説に基づく主張を延々と繰り返すものだ。また、迷惑行為が行われた店舗に来店し、自身は迷惑行為をしないまでも、店内などを撮影してその様子を同じようにSNSにアップするなどの冷やかし行為も後を絶たない。これらももちろん迷惑行為にあたる。

 迷惑行為がSNSにアップされると、さらなる迷惑行為を引き起こす。こうした迷惑行為の連鎖への対応を余儀なくされる現場の負担は、非常に重い。さらに迷惑行為がSNSなどで拡散され、ニュースにも取り上げられることで、上場企業の場合は、株価への影響が生じたり、株主や取引先からの問い合わせが寄せられたりするケースもある。

 企業としては株主へ誠実な対応をせざるを得ないなかで、一部の株主が企業の回答できる範囲以上のことを執拗に聞き出そうとするケースも見られる。このような一部株主からの不当要求への対応も必要になる場合があり、企業が一方的に負わされる風評リスクは、現場に限った話ではない。

不当要求・カスハラ・迷惑行為への対処法とは…

 上記のような迷惑行為などによるロスや一方的に企業が負わされるリスクを踏まえ、企業は迷惑行為に対して、毅然と対応していくことが重要となる。次回以降、カスハラや迷惑行為に対する対処法について、具体的な対応要領をいくつか紹介していく。

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