「ZOZO買収」後の世界を読む ヤフーも楽天もリアル店舗買収に進むこれだけの理由
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2019年10月28日 21時30分
ヤフーが小売業への投資を本格化させている。巨額の資金を投入してZOZOを買収し、PayPayの浸透を図り、PayPayモールを本格稼働させた。ヤフーのこれから取りうる戦略、そして、楽天、Amazonとの闘いの未来図について、解説しよう。
繰り広げられる2大国家による地上戦
数年前にできた言葉に「イオニスト」がある。これは、特に地方で、居住地の周りにイオングループの店舗があり、まさに、「ゆりかごから墓場」まで、イオンにお世話になる人達をいう。例えば、子供が産まれればイオンモールやイオンの総合スーパーで子供服を買い、入学式にはランドセルや自転車を買う。日々の食品は、マックスバリュやミニストップで買って、銀行の口座はもちろんイオン銀行。日々のお金はWAONをつかい、住宅購入はイオン銀行で住宅ローンを組む、そして終活として「イオンのお葬式」にお世話になるという具合だ。
このような、「ゆりかごから墓場まで」という顧客の生涯価値 (Life time value) の囲い込みは、セブン&アイ・ホールディングスも同じようなエンティティ(独立法人会社)をもっており、赤ちゃん本舗からはじまり、儲け頭のセブンイレブンを筆頭に、スーパーのイト―ヨーカ堂、百貨店のそごう・西武、そして、セブン銀行による金融サービスとnanacoというグループ貨幣を保有している。
イオン国、セブン国の弱点は空中戦=EC
彼ら巨大流通企業の戦略は、まさに「小国家」を作り上げているように見える。足りないのは「学校」や「病院」、「軍備」ぐらいで、イオン国、セブン国には、物販という領域においては、各地で「雇用」を生み出すとともに、「貨幣」、「医薬品」を含めたほぼ全てのものが揃っている。
しかし、この二大巨大企業の最大の弱点は、空中戦(インターネット(Eコマース)だ。セブン&アイ・ホールディングスはニッセンを買収しomni7を立ち上げるが存在感はないし、イオンに至ってはネットの存在を知っている人さえ少ない。
これは、長らく地上戦(リアル店舗)で勝負をしてきた企業の宿命とも言える結果だ。そして残念ながら、多くのリアル店舗小売企業が、ネットという世界と戦略を正しく理解していないのは、過去の私の論考でも詳しく解説した(ヤフー「ZOZO買収」を読む、孫正義社長は“焼け野原”ZOZOを「楽天型総合サイト」に変える!)。
2019年度の経済産業省の統計によれば、日本の全産業のEC化率は6%程度だが、その成長率(=リアル店舗からのチャネル変化の度合いを示す)は8-9%である。これは、中国の15%、米国の10%と比較して、まだまだ少なく、また、筆者の予測では近い将来30%近くになることは必至だ。最終的にはリアルとネットの比率は50%/50%程度となり、ネットとリアルの境目は生滅する。これがいわゆる「オムニチャネル」という状態で、そのスピードや度合いをさておけば、消費がこのように進むことに、異論を唱える人はいないだろう。そして、日本を代表するイオングループとセブン&アイ・ホールディングスに、そうした動きは今のところ見えてこない。
2大流通グループ蚊帳の外で繰り広げられる空中戦
これに対して、ネットの世界で、まさに「イオン VS セブン」の様相を呈した闘いを、空中戦(インターネットの世界)で繰り広げているのが、楽天とヤフーである。特に、ヤフーはソフトバンクの資本力を活用し、昨今ではZOZOを買収して我々を驚かせた。多角化を繰り広げている両者だが、その戦略は極めてシンプルである。それは、イオンやセブンが地上戦(リアル店舗)で繰り広げていることを、空中戦(インターネット)でやっている、ということである。
例えば、ヤフーを例にすると、物販に関してはYahoo!ショッピングが総合通販で、ZOZOを傘下にいれることで、衣料品の顧客基盤を確保した。まさに「買えないものはない」状況だ。楽天は、いまさら説明は不要で、総合通販の代名詞だし、ヤフーは、ジャパンネット銀行とPayPayという貨幣、楽天は、楽天銀行と楽天Edyという貨幣をもっている。その他、旅行代理店からグルメサイト、両者は通信キャリア(楽天は、2019年10月以降に通信キャリアサービスを開始予定)まで保有し、ネットを使ったサービスは、もはやこれでもかというぐらい傘下に入れた。
彼らの戦略はただ1つ。それは、人口縮小する日本のなかで、顧客の個人情報をできるだけ多く自社内に保有し、徹底して顧客を囲い込み、アップセル(より高額な商品を勧めること)、クロスセル(関連商品を勧めること)を繰り広げ「ゆりかごから墓場」まで、消費のすべてをグループ内に取り込むことだ。つまり、優良個客データを持っている企業を次々と買収し、グループ内でイオンやセブンのような「小国家」をつくることなのである。
しかし、ヤフーと楽天に足りないものは、冒頭に述べたイオン、セブンの逆で、「地上戦」(リアル店舗)である。ここに、世界規模で「空中戦」と「地上戦」を見事に融合したAmazonが参入しているのが、バーチャル競争業界の世界地図の全体像だ。
ご存じの通り、Amazonは米国でホールフーズを買収しスーパーマーケットに進出し、日本ではライフコーポレーションと提携し、「空中戦」と「地上戦」を融合したプライムナウを推進。さらにAmazonは、米国でAmazon Goを多店舗化しており、日本での展開も間近だろう。すでに多くのリアル店舗と提携してコインロッカーを設置し、私が予言する「受注場」、「体験場」、「受取場」の3つを融合し、オムニチャネルのお手本といえる展開をみせている。
これは、単にリアル店舗にテレビカメラを設置し、
彼ら、ネットガリバーの日本での売上を合算すれば軽く5兆 円(衣料品以外のサービスを含む)を超える。例えば、衣料品の市場規模は10兆円といわれているので、彼ら3強国の強さがどのぐらいかご理解いただけるだろう。しかし、そんな無敵のAmazonにも死角がある。これまでの論考を読まれた方はお分かりだと思うが、それが「Amazon銀行による金融サービス」である。
実は、例えば、ファッションビルを展開する丸井などは、売上の大半は流通物販だが、利益の大半は金融ビジネスから得ている。彼らは、不動産と金融ビジネスを中心軸に添える戦略を打ち出し、7期連続の増収増益を果たしている。
「モノ」と「金」は、必ず逆の動きをする。したがって、「物販」と「金融」を自社内に組み合わせれば、「一粒で二度美味しい」ビジネスができるし、さらに専用貨幣をグループ内で回流させれば、顧客を逃がさない生涯価値 (Life Time Value)を最大化することができる。そのことから考えると、Amazonの金融参入は時間の問題ともいえるだろう。
ZOZO買収後の世界はこうなる!
〜2020年はネット企業によるリアル小売TOB元年~
2018年夏。総合商社伊藤忠商事はデサントにTOBを仕掛け、同社の石本雅敏社長を更迭、韓国事業一本足打法から中国事業強化へと戦略の舵取りを変えた。
日本では、古くは村上ファンドと東京スタイル、スティール・パートナーズとブルドックソース、堀江貴文氏のライブドアというように、ことTOBというと「ハゲタカ」、「金の亡者」など、ネガティブなイメージが強かった。だが、なぜか、伊藤忠商事とデサントの話は、ほとんどの国民が忘れてしまっているようだ。逆に言えば、国民の多くは政府のお経のような施策で、猫も杓子も「貯金から運用へ」という流れにより、金融リテラシーが高まってきたともいえる。また現実問題として、流通業界は一部の勝ち組企業をのぞいて、再編待ったなしといえるほどの打撃を受けている。
こうした考察を進めていけば、激しく動いている流通業界の行く末と、3強の戦略は、ハッキリとその輪郭を見ることができる。
予測!楽天とヤフーはリアル店舗を次々と買収する
では、Amazonは?
まず、リアル店舗を持たない総合通販の楽天とヤフーは、リアル店舗を次々とM&A(合併・買収)し、細分化された流通業界を大きくまとめるプラットフォーマーとなるだろう。かたや、地上の雄であるイオンとセブン&アイは、米国ウォルマートがDe
次に、Amazonは、世界通貨ともいえる「Amazon貨幣」をブロックチェーン、仮想通貨などの技術を使ってつくり上げ、グローバルスタンダードのサービスで日本での事業を拡大するはずだ。スマホなどのデジタルツールはAI (人工知能) を組み込み、VRなどの技術をひっさげ、楽天、ヤフーの2つの小国家に対抗するだろう。つまり日本で、グローバルスタンダードのAmazonと、
この世界戦の勝者は、縮小する人口の中で可能な限りの消費者データを得た企業となる。以上のことから、2020年はTOB元年になるという結論を導くことができる。
数多くの小売経営者と話をしていると、
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
経営戦略コンサルタント。ハンズオン型事業再生、再建を得意とし、これまでに国内外で再建に成功した企業は50社を超える。最近の事例では、マイナス100億の赤字企業を一年で黒字化し、成長軌道に乗せるなど、アパレル企業再生の第一人者。執筆、講演も多く、代表作「ブランドで競争する技術」はアジアでも出版され知名度は高い。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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