最新型ユニクロが前橋にやってきた!#3 ユニクロが花を販売する意味とは?
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年5月28日 20時55分
2023年4月、北関東自動車道の前橋南インター近くに売場面積750坪の巨大なユニクロ店舗がオープンした。トータルクリエイティブディレクション・デザイン監修は佐藤可士和氏だ。この店舗は、これまでのロードサイド店の在り方を今一度見直した新フォーマット店舗で、環境にも配慮した最新型だという。そしてこの前橋南インター店では、常時30種の花を揃えるフラワーコーナーが設けられている。ユニクロが2020年4月から花を販売している意味を探る。
ユニクロが花を売る!?
ユニクロが花を売っているということを知っている人はまだ少ない。先日もテレビのバラエティ番組で、ある経済評論家の「たとえばいまユニクロでも花を売ってますから……」という発言に、スタジオにいたタレント全員が「え?ユニクロが花ですか?」「知ってた?私知らない」などと驚いていた。
「最新型ユニクロが前橋にやってきた! #1 佐藤可士和氏が語るユニクロとの17年間」で、2020年春に日本で3つのグローバル旗艦店や大型店をオープンしたことに触れた。花の販売はこのタイミングからスタートし、ちょうど3年が経過したところだ。花の保管・管理をするバックルームも含めて、ある程度のスペースを確保できないと花の陳列もできないので、どこの店舗でも販売できるわけではないが、それでも現在全国の19店舗のユニクロにフラワーコーナーがある。もちろん、今回の「前橋南インター店」(群馬県前橋市)でも、エントランスの内外合わせて常時30種類の花を販売している。
コロナ禍の中でも街に必要な店
しかし、2020年春といえば、コロナ禍1年目で世界中が未知の疫病に恐れおののいている最中である。そんな中、相次いで3店舗の新店をオープン。しかも4月の「UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店」(神奈川県横浜市)は売場面積660坪、同6月の「ユニクロ原宿店」(東京都渋谷区)は600坪、そして銀座の「UNIQLO TOKYO店」(東京都中央区)は1500坪という規模なのである。そんな巨大店舗を立て続けにオープンさせることに葛藤はなかったのだろうか。
「もちろん、その判断はものすごく難しいことでした。オリンピックイヤーを目指して相当な時間と労力をかけて準備してきたのに、オープン直前にコロナ禍になってしまった。誰も歩いていない原宿や銀座にこんな巨大な店をオープンさせるべきなのか、僕自身も不安感があったし、柳井正会長兼社長(以下、柳井社長)とも何度も何度も話し合いました。でも同時に、すごく気持ちが塞いでいて、日本中に閉塞感があったので、ユニクロとして社会に何を提供できるのか、少しでも皆様にホッとしていただけるようなことを提供できればということを、毎日話し合っていました」(佐藤可士和氏、以下佐藤氏)
「そんな時、柳井社長が『花を売ろう』と言い出されました。それも大げさな花束ではなくて、ユニクロらしい値段で、誰もが好きな花を気軽にパッと買って帰れるような、そんなサービスを街に提供しよう、と。えっ?花ですか?と思ったけれど、何年か前に『LifeWear』というコンセプトも作っていましたから、花もユニクロの服と同じく、人々の生活を豊かにしてくれるものだな、と納得できました。結果的に、店舗に花を置くのはとてもいい効果があったと思っています」(佐藤氏)
実は今のUNIQLO TOKYO店に改装する前の「マロニエゲート」でも、その前にあった「プランタン銀座」でも、同じ場所に花屋があった。裏通りに面したエントランスの外側にあふれる花々は、道行く人の目を楽しませていた。
「そうなんです。街を歩いていて、この辺にこんな店があったとか、花屋があっていい香りがしたといった、街の記憶みたいなものってありますよね。そういうことも大切にしたいと思いました。だからUNIQLO TOKYO店でも、あえて同じ場所にフラワーコーナーを作ったんです」(佐藤氏)
コロナ禍で店頭から声が消えた
柳井社長が『花を売ろう』と言った背景には、もう一つ、コロナの感染拡大防止の観点から、店内でスタッフによるお客様への声がけがしにくくなったことも関係する。
かつてのユニクロの店舗では、常にスタッフの「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」という声が飛び交っていた。それが、コロナ禍ですっかり聞こえなくなっていた。常日頃から店舗巡回をしている柳井社長は、そのことをとても寂しく感じ、何かスタッフの挨拶に代わってお客様を歓迎したり、お見送りするようなものがないかと考えていたという。その解決策の一つが花だった。
ソックスの売り方で花を売る
とはいえ、ユニクロが花を販売するのは2020年4月オープンのUNIQLO PARK横浜ベイサイド店がはじめで、社内のどの部署も経験がない。そのため設計を担当した店舗開発チームも一緒に、花の売り方から考えることになった。
「花の売り方も陳列の仕方も、社内に何もノウハウもないわけです。誰も売った経験がないから、どんな什器が必要なのか、フェイシングはどうするのか、そもそも保管や管理はどうしたらいいのか……。思考錯誤の連続でした」と語るのは、出店開発部の髙木肇子シニアマネージャー(以下、髙木氏)だ。
髙木氏が入社したのは2012年。ドバイで設計の仕事に従事していた時に旅行先のニューヨークでユニクロSOHO店を訪れた際、機能的な商品が美しく陳列された店舗プレゼンテーションを見て、あらためて日本人であることに誇りを持ったことが入社のきっかけだという。
以来、技術者として常に店舗スタッフの話を聞き、店頭でどういうことをやろうとしているのかを考えて設計してきた。しかし、今回は聞く相手がいない。
「でも、ようやく『これはユニクロのソックスと同じなんだ』ということに気づきました。1つ390円、3つで990円。お客様は、これはいくらだろうとかあれこれ考える必要なく、どれでも好きなものを3つ選んでいただけばいい。とにかく簡単に選びやすく、手に取りやすく陳列しました。花を入れて持ち帰る袋にはあらかじめ水を入れてありますから、そのままレジに持っていって、持ち帰っていただけます」(髙木氏)
花を扱うにあたり、花の管理をするバックルームにも工夫した。花のために温度管理するのはもちろん、スタッフの作業しやすさを考えて排水用シンクの高さも調整した。今も時々設計チームのメンバーが自ら店頭に立って花の販売をしながら、什器や陳列方法、動線や設備を修正している。
柳井社長から「花を売ろう」と言われたとき、社内の誰もが「まさか」と思ったに違いない。しかし「できるかどうか」ではなく、「やるにはどうしたらいいか」を考えて、一気に全員が動き出すのがユニクロの社風なのだろう。花を売るというプランはすぐさま取締役会を通過し、定款も書き換えた。ユニクロの店舗の一角にある花売場は、いまでは街の風景の一部となっている。
次回「第2回 ユニクロのサステナビリティ22年の歩みと未来」は6月2日(金)掲載。フリースブームに沸く2001年に発足した社会貢献室で、何をどうやって始めたのかを紐解きつつ、未来に向けての考えを取材する。
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