ユニクロのサステナビリティ活動22年の歩みと未来 #1 服屋だからこそできること
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年6月1日 20時50分
ユニクロが1999年以来の「フリースブーム」で売上を倍々と伸ばす中、同時に社会貢献活動を立ち上げていたことを知る人は少ない。その活動はその後も広範に渡って発展し、いまやサステナビリティ先進企業になっている。
連載第2回は、入社以来22年サステナビリティ一筋のファーストリテイリング広報部部長のシェルバ英子氏にこれまでの歩みについて取材。またファーストリテイリンググループ上席執行役員の柳井康治氏にファーストリテイリングの目指す新たな事業モデル図について、そしてマーケティングを統括するファーストリテイリンググループ執行役員の遠藤真廣氏には、サステナビリティアンバサダーである「ドラえもん サステナモード」の誕生について取材した(第2回は全3話構成)。
2001年、フリースブームと同時期に社会貢献室が発足
コーポレート広報部部長でサステナビリティを担当するシェルバ英子氏(以下、シェルバ氏)がユニクロに入社したのは、2001年7月。それまでは米国カジュアルチェーンの原宿店で働いていた。当時7900円で販売していたフリースジャケットの売れ行きが止まり、同じ原宿にある「ユニクロ」というブランドの1900円のフリースジャケットが爆発的に売れていることを知った。
ユニクロに入社して間もなく、現在のサステナビリティ部の前身である社会貢献室が発足し、シェルバ氏はそこに配属された。
1999年から2000年にかけてフリースブームが起きている一方で、柳井正会長兼社長(以下、柳井社長)はある焦燥感に駆られていたという。創業当初から「会社は社会のためにある」と考えていた柳井社長は、売上が上がれば上がるほど、「儲けっぱなしではダメだ。早く利益を社会に還元できる企業にならなければ」という思いを強くしていった。そして、2001年に立ち上げた組織が社会貢献室だ。
当時のユニクロは、売上が1999年の1000億円から毎年倍々で増え、2001年には4200億円になっていた。しかし、本部社員は200名ほどで、組織の役割が細分化されていない、ベンチャー企業のような雰囲気があった。社会貢献室も2~3名からのスタートだった。
「社会貢献室といっても、自分も初めてですし、そもそも会社としても初めてのことなので、何をしたらいいのか、本当にわからないことだらけでした。でも会社も今ほど大きくありませんでしたから、柳井社長と一緒に何をすべきか考えることができたのは、今思うと恵まれていました」(シェルバ氏)
柳井社長との決め事は「服屋だからこそできること」
柳井社長との話し合いの中で、自分たちの強みである「服屋だからこそできること」「店舗があるからこそできること」について考えていった。その結果、まず活の3本柱となったのが、「瀬戸内オリーブ基金」「障がい者雇用」「緊急支援」。
「建築家の安藤忠雄氏が呼びかけ人である瀬戸内オリーブ基金に賛同し、ユニクロの店頭に募金箱を置いたり、各店舗に障がい者の方を採用したり、2001年のアフガン侵攻からパキスタン国境付近に避難したアフガニスタン難民に、防寒着を寄贈しに行きました。もう一つ、2002年からフリースのリサイクルをスタートして、これがいまの全商品リサイクルの取り組みにつながっています。当時から私たちはたくさんのフリースを世の中に流通させていたので、ゆくゆくは着古されたものが一定量出てくるだろうということで、フリースに着目したリサイクル活動を始めました。その頃アパレルでこうしたリサイクル活動をやろうという会社もほとんどなかったので、業界としてはかなり早かったと思います」(シェルバ氏)
2005年、事業のグローバル化にともないCSR部に改組
2005年に、社会貢献室はCSR部に改組する。ちょうどユニクロの出店がグローバル化を加速していく時期で、もともとの社会貢献の3本柱と、新たにサプライチェーンにおける人権問題や労働環境の課題を解決することがミッションとなった。
当時、すでに一部のグローバルSPA(製造小売)企業が「スウェットショップ(安価な商品を作るため労働者を劣悪な環境で働かせる工場及び事業者)」と批判されるなど、アパレルの労働環境が問題視されていた。ファーストリテイリングはグローバルを意識する中、労働集約型の産業の課題に着手する必要性を感じ、2004年から取引先向けの「コード・オブ・コンダクト(行動規範)」の制定と取引先工場の労働環境のモニタリングを始めている。
「2005年から2006年にかけてニューヨークやパリの旗艦店の準備に向けて、柳井社長自身が海外各国の政財界の方々とお話しする機会が増えていく中で、『あなたたちは何者か?この国に対して、世界に対してどんな良いことをしてくれるのか?』と問われる機会がすごく増えてきた。それで、世界に出ていくには、単に品質のいい服を安く売っていますということだけでは、企業として存在意義がないと痛感したそうなんです。そこで地球市民として社会課題を解決することが企業の役割の一つであるという考えに至り、単なる社会貢献活動がコーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ(CSR)という取り組みに広がっていきました」(シェルバ氏)
2008年、佐藤可士和氏とサステナビリティステートメントを策定
そして、2008年に「CSRステートメント(現・サステナビリティステートメント)」を策定した。2006年に作ったファーストリテイリングのステートメントと同じく、クリエイティブディレクター佐藤可士和氏とコピーライター前田知巳氏のコンビによるものだ。
「服が持つ力を最大限活用して社会をよくしていこうという、とてもシンプルなステートメントです。でも明文化したことで、自分たちが2001年から手当たり次第やってきたことが整理されましたし、これからの指針にもなり、迷いがなくなったように思います」(シェルバ氏)。ステートメントは、企業が自分たちはこういう者です、ということを社会に対して言うために作ったものだが、同時に中で働いている従業員にとっても自分たちのやっていることの意味を明確にする。
2016年、サステナビリティ部に発展
その後、2015年9月の国連サミットでSDGs(2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標)が制定され、環境に対する配慮がより求められていくようになった。それまで「社会貢献」「労働環境」には力を入れてきたが、さらに「環境問題」に対する取り組みにも活動を広げていく必要を感じ、CSR部を「サステナビリティ部」と改名。活動内容はより広がりを見せていく。広範に渡る一つひとつの活動については、この後の連載で紹介していくこととする。
サステナビリティ活動は世界の動きと直結
ちょうど佐藤可士和氏とCSRステートメントを作っている間、シェルバ氏自身も大きく進化するタイミングがあった。
「夢中でやり始めた仕事なんですけれど、気づいたら国連の方とも会えば、難民の方とも会うし、NPOの方たちとも会話するわけです。あらためて自分自身きちんと勉強しないといけないと思うようになったんです。それで2007年から大学院に通って、非営利組織の経営を学び、社会デザイン学のMBAを取りました。3年かかってしまいましたけれど」(シェルバ氏)
国内外の出張も多い仕事を続けながら、平日のノー残業デーと土日を使っての勉強は、相当な努力を要したに違いない。しかしこの大学院で、シェルバ氏は同じような志を持つ仲間たちと出会うことができた。
最も大きな出会いは、大学院の教授が、ノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス氏を紹介してくれたことだ。それをきっかけに、ファーストリテイリングは2010年、ユヌス氏が創設したグラミン銀行グループとともに、バングラデシュでソーシャルビジネスを開始した。もともとバングラデシュは、ファーストリテイリンググループの重要な生産拠点のひとつで、衣料品の製造を基幹産業として経済発展をとげている一方で、貧困や健康管理面の問題などを抱えていた。現地の課題解決に貢献するために、現地で生産した服を現地で販売し、その収益のすべてを事業に再投資するという共同事業だった。
「サステナビリティの仕事は、常に世界の動きとともに変化しています。そして毎日、これが一体、世の中にとってどういう意味があるんだろうと考えています。私は全ての仕事において、そういう視点で臨むべきだと思うんです」(シェルバ氏)
入社以来22年間、サステナビリティ領域一筋。ファーストリテイリングのサステナビリティ活動の歴史は、そのままシェルバ氏の社歴と重なっている。当初2~3人で始めた「社会貢献室」は「サステナビリティ部」に名を変え、いまや世界中で100人を超える組織となった。こういう社員の一人ひとりが、企業の存在意義を作っているのだと思う。
次回、「第2回 ユニクロのサステナビリティ活動22年の歩みと未来 #2 目指すのは新たな事業モデル」は6月3日(土)掲載。ファーストリテイリンググループ上席執行役員の柳井康治氏に、ファーストリテイリンググループの目指す新たな事業モデル図について聞く。
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