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負債巧者が勝ち筋に?アフターコロナ禍で脚光を浴びるゼンショー株から学ぶべき点とは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年6月6日 20時55分

牛丼チェーン「すき家」の店舗=22日夜、東京都港区(時事通信社)

小売株トップ10入りを果たしたゼンショー

(時事通信社)

  ゼンショーホールディングス(以下、ゼンショー)の株価が上昇しています。2023年5月末の株価は5680円(2023年5月31日終値)になり、23年1月末からの5ヶ月で+72%上昇しました。日本の株式市場の上昇が最近話題になりますが、東証株価指数は同期間に+13%、小売株指数は+5%ですので、ゼンショーの株価上昇は傑出しています。

  株式時価総額は足元で8796億円になり、小売業界ではトップ10入りしました。ZOZOと並ぶ、2本マクドナルドホールディングスを凌ぐといえば、そのインパクトがさらに明確になります。

  アフターコロナ禍で外食の需要の正常化が期待されていますが、他の外食企業と比較してもその株価上昇率は別格です。

  そこで今回はゼンショーの株価の躍進の要因を整理したいと思います。株主価値最大化の圧力が日本の株式市場全体に強まっています。学ぶべき点を探っていきましょう。

2023年3月期決算が高評価のきっかけに

  2023年に入りゼンショー株は2回株価が急騰しました。1回目は第3四半期決算発表後、そして2回目が2023年3月期の通期決算発表後です。この通期決算のハイライトは次の3点になります。

  まず、2023年3月期の着地が高水準だったこと。連結売上高7799億円(前年度比+18%増)、営業利益217億円(同+135%増)、経常利益280億円(同+21%増)、親会社株主に帰属する当期純利益132億円(同▲4%減;以下、当期純利益)となりました。細かい話をすれば、補助金収入及び協力金収入が前年度比減少したことなどから当期純利益が減少していますが、2022年3月期に達成した当期純利益の最高益のレベルをほぼ維持できています。

  さらに、既存店売上高の前年比も、「牛丼」「レストラン」「ファストフード」の主要3カテゴリーでしっかりとプラス成長(順に+9.5%+31.0%+20.9%)になり、内外での出店も進んでいることも高評価につながっています。

  二つ目に、高成長を見込む新年度予想。2024年3月期の会社予想は、連結売上高8984億円(前年度比+15%増)、営業利益400億円(同+84%増)、経常利益373億円(同+33%増)、親会社株主に帰属する当期純利益230億円(同+73%増)となり、当期純利益は過去最高益を更新することになります。前提となる既存店売上高の増収率は連結で+8.3%を見込み、主要カテゴリーはいずれも増収する想定で、新規出店も国内外いずれも手抜かりなく進める計画です。

  三つ目は、増配継続。3期連続で増配が計画されており、これを株式市場は経営陣の自信と受け止めたと思われます。

 

22年度決算発表にみる
注目すべき3つのポイント

 このように通期決算は申し分のない内容でした。そこで、次に筆者が特に注目した点、考えさせられた点をお話します。

  第一は、営業利益率の改善を伴う増収基調にあること。売上高営業利益率の推移は、2022年3月期1.4%、2023年3月期2.8%、そして2024年3月期会社予想が4.4%となります。この4.4%という水準は日本の飲食業の中では及第点以上と言えると思います。このようなしっかりした数値を見せられると、業態の分散も含めた規模拡大が収益性と両立する好循環に入ったのではないか、とつい考えてみたくなります。

  第二は、増収増益基調と利益率の改善の結果、有利子負債の負担度が軽減したことです。これが株価の押し上げに相当効いたと考えます。

 この結果、第三に、良質のM&A案件があれば負債を活用して獲得できる下地が整ったことです。

負債巧者が勝ち筋に

  脱デフレは売価アップにつながる反面、経費増、あるいは金利負担増や資本コスト算出上の負債コストの上昇も招くため、株価上昇に結びつくと単純にはいえません。

 しかし脱デフレのマイナス面を規模追求でカバーする戦略に一理ある、というのが昨今のゼンショーの決算と株価の好反応が示唆するところではないでしょうか。

 インフレ期を迎えるにあたり、負債調達余力とその活用の巧拙がますます問われる気がしてなりません。収益性が高く、財務的には保守的で負債調達に余力のある企業が日本の小売業にはまだまだ散見されます。彼らが今後より規模拡大を競うようになるかもしれません。

 

プロフィール

椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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