進化系ハンバーグから発展!流行中の“育てる”系フードとは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年6月21日 20時54分
ハンバーグ専門店で流行中の「育てるハンバーグ」をご存知だろうか?“育てる”とは、レア状態で提供されたハンバーグをお客自身が好みの焼き加減に焼くことを指す。さらに卓上に用意する複数の調味料や薬味で好みの味付けをして食べることを提案して大ヒット。2020年6月、東京・吉祥寺にハンバーグ専門店『挽肉と米』が誕生して以来、類似のハンバーグ店が増加し、そこから発展して“育てるハンバーグ”という言葉が知られるようになった。今回は、誕生した背景とハンバーグ人気の今を追った。
「3たて」を売りにした専門店から人気が拡大
ハンバーグブームの火付け役として知られる東京・吉祥寺『挽肉と米』。2020年6月に開業した、「挽きたて、焼きたて、炊きたて」の“3たて”を売りにしたハンバーグ専門店だ。
カウンター内に設置された大きな炭台でスタッフが焼いた炭焼きハンバーグをお客の目の前にある個別の炭台に乗せて提供し、熱々をキープする焼きたてハンバーグと店内中央の「おくど」(かまど)で炊く、羽釜ご飯をおかわり自由で楽しめるのが特徴。各席には白菜の浅漬け、食べる醤油、生醤油、青唐塩レモン、青唐辛子のオイル漬け、八味噌辛子、ジャオマー(実山椒や青ネギ、生姜、ごま油を混ぜ合わせたスパイシーなタレ)、大蒜ふりかけ、大根おろし、ポン酢が備え付けられ、ハンバーグとご飯を自由に味付けして好みの食べ方で楽しむ。
メニューは牛肉100%の炭焼きハンバーグ90g×3個とお代わり自由の炊きたてのご飯、味噌汁がついて1600円(税込)。サイドメニューは追加ハンバーグ90g450円、ポテトサラダなどの総菜が2品各600円、1人1個まで無料の生卵、各種ドリンクのみと明瞭だ。
食べ方は、例えばハンバーグ1個目は何もつけずにご飯と。2個目はポン酢や大根おろしで、3個目は青唐辛子と卵黄、食べる醤油をかけて甘辛くスパイシーな味にして楽しむ…といった具合に自由に食べることができ、SNSではスタッフおすすめの食べ方も提案。こうした何通りもの食べ方のアイデアや自分で味付けする参加型の面白さ、映える店づくりやメニュー作りから次の来店にも繋がり、現在も予約の取れない人気店となっている。
同業他社も参入、“育てる”という言葉が定着
オーナーの山本昇平氏は2005年にハンバーグレストラン『俺のハンバーグ山本』を立ち上げてヒット。その後、他社の似た店名の店が増えたために『山本のハンバーグ』と店名を変えたが、変わらず長年支持を得てきた。そうした中、炊きたてのご飯や焼きたてのハンバーグなど、各料理を追求しつつ、日常的な価格で体験できる業態として開発したのが『挽肉と米』だという。コロナ禍ということもあり、1人で楽しめるカウンター形式にし、90gのハンバーグを3回に分けて提供するスタイルも熱々の焼きたてを味わえるよう生み出された。
一方、2020年末から関西を中心に類似店ができてきた。同年12月には大阪・本町に『挽肉マニア』が誕生。カウンターには1席ずつ、寿司屋でいう“つけ台”が置かれ、炭火焼でレアに焼かれたハンバーグと焼き石がつけ台の上に提供される。お客はお好みでそのままレアのハンバーグを食べたり、焼き石にハンバーグをジュッと押し付けて “追い焼き”したりし、自分好みの焼き加減に育てる(=焼く)。
先に登場した元祖の『挽肉と米』よりも、レアなハンバーグを自分好みに焼くことを強調し、“育てる”という言葉も知られるようになった。
メニューは炭焼きハンバーグ90g×3個と鬼おろし(粗い大根おろし)、お代わり可能なご飯、生卵、味噌汁がセットで1300円(税込)。平日のみ、同じ内容にハンバーグが2個になるセット1000円(税込)が提供される。値段同額で、これらの生卵と味噌汁が特製坦々スープに代わる「〆担々飯」、和風出汁とわさびに代わる「〆ひつまぶし」がバリエーションとしてあり、卓上に備え付けられた玉ねぎソース、ポン酢、青唐辛子味噌、麻辣醤、紅生姜、山椒昆布佃煮、フライドオニオン、ふりかけ、卵かけご飯用醤油で自由に味付けして食べる。
2021年12月には、焼肉店を運営するさかもと(大阪府/阪本貴則社長)が大阪・梅田に『挽肉倶楽部』を開業。こちらでは卓上にIHコンロが備え付けられ、スキレット(鋳物フライパン)で和牛にこだわったハンバーグを提供。卓上には焼肉のタレ、タマネギダレ、デミグラスソース、岩塩、フライドオニオン、刻み山葵、鬼おろしを常備する。ハンバーグに加えて焼肉数切れを追加できるのも特徴だ。
同じく肉の卸屋や小売、焼肉店を運営するNEXUS MEAT(大阪府/永田真稔社長)が2022年4月にスタートした大阪・梅田の『永田精肉店』では、レアに焼いたハンバーグを皿に盛り付け、その周囲にピーナッツ味噌や辛子マヨネーズ、カレー塩、豆板醤、高菜、山葵を盛り付けて提供。卓上には塩ダレ、ポン酢、醤油ダレが備え付けられており、サイドメニューにはカレーやナムルを用意。客席に備え付ける陶板の固形燃料にスタッフが火を点け、お客自身が陶板焼きで肉を育てる(焼く)趣向だ。
このように、各店薬味やタレ、追い焼きする手法で差別化を図り、サイドメニューを変えて特徴を出す。一方で、参入する店に焼肉店や肉の卸業者が多いのは、肉の卸や小売をする中で出る端材や固くて商品化しにくいチマキ(スネ肉)といった部位を魅力的に使い切れる商品としてハンバーグに着目した結果、参入する例が相次いでいる。
人手不足とフードロスを解説する理想的な業態
その背景には、ビジネスモデルのカラクリがある。メニューはハンバーグと汁物、生卵、大根おろし、ご飯、卓上の調味料だけ。メニューを絞ることでフードロスが出ず、仕込みの簡素化やオペレーションの円滑化に直結する仕組みとなっている。また看板のハンバーグは、実は焼き加減が難しく、職人技が必要とされる料理。そこを「レアで提供し、お客自身が好みの焼き加減に焼く」ことを売りにすることで、アルバイトでも加熱でき、提供スピードも短縮。さらに客席はお客の目の前から提供できて高回転率を期待できるカウンターだけの店が多いため、人件費も人材も極力少なく済む。
こうした高利益率と高回転率、円滑なオペレーション、話題性と楽しさから追随する他社が後を絶たず、各社FC展開や店舗展開で売上を伸ばす。消費者からすると誰もが好きなハンバーグという分かりやすいメニュー、プチ贅沢な1000円台の定食という点も大きい。
他業態まで波及する“育てる”キーワード
そして現在では「育てるタレ」など、“育てる”という言葉が別業態まで波及し、飲食業界で注目したい一大キーワードになってきた。
東京・中目黒の『美濃ジンギスカン きたひつじ 中目黒』では焼いたジンギスカンや野菜を2種類のタレにつけて食べ、さらにお好みで加える唐辛子やニンニクを入れて楽しむうちにジンギスカンや野菜の風味や油脂が移り、最後には焼きおにぎりに“育てた”タレをつけて食べることを提案する。
例えば鍋の最後に残った旨味の濃いだしで雑炊を楽しむなど、一見すると今までの料理の食べ方としても一般的だった行為も、味を自分好みの方向性に持っていき、「自発的に育てたものを最終的に食べる、自分だけの味」と発信することで若年層の感性にアクセスできる。この新たなキラーワードとも言える“育てる●●”。流行の育てるハンバーグの動きと同様、要注目である。
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