初心者向けにPB開発、マツキヨがメンズメイク市場に参入した理由
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年6月22日 20時55分
ドラッグストア「マツモトキヨシ」を展開するマツキヨココカラ & カンパニー(東京都/松本清雄社長:以下、マツキヨココカラ)が、プライベートブランド(PB)matsukiyoの新商品として、男性向けのメイクシリーズ「iisam(イイサム)」を発表。同社MCCマネジメント商品開発課次長の櫻井壱典氏、商品開発を担当したMCCマネジメント商品開発課の和田邦美氏に、メンズメイク商品を開発した理由、メンズメイク市場の動向について聞いた。
メイクに興味はあってもやり方がわからない、Z世代のニーズに応える
さまざまなPB商品を開発してきたマツキヨが、メンズメイクの商品を開発した経緯について、MCCマネジメント商品開発課次長の櫻井壱典氏は次のように語る。
「メンズメイク市場は、かつてのオーガニックシャンプーと状況が似ている。当時、ナショナルブランドの製品は少なく、百貨店で一部扱われている状況だった。そこで、当社は『ARGELAN(アルジェラン)』というPB商品を発売。その後、ナショナルブランドも製品を販売するようになり一気に市場が広がった。その体験から市場規模が小さくてもチャレンジすべきだと考えている。メンズメイクの市場規模は10数億円といわれている。10%のシェアでも1億円以上の規模だ」
そこで開発したのが、『iisam(イイサム)』という男性向け韓国スタイルのメイクシリーズだ。きっかけになったのは、「リアル韓国風」というスタイルを提案し、Z世代から支持される美容室NORAのYUMA氏だった。
「メイクには関心があるが、誰に相談したらいいかわからない、そもそもやり方がわからないというZ世代の男性が多いと教えてもらった。確実にニーズはあるのに適した商品がない状態ならば、男性向けメイクシリーズを作ってはどうかと考えた」
同社がPB商品を開発する際は、グループ理念である「未来の常識を創り出し、人々の生活を変えていく」と合致するかを大事にしている。「未来の常識を男性がメイクすることと捉えるなら、PB商品として出すべき商品だ」と開発に踏み切った。
「市場が大きくなるには商品を使ってみよう、使ってみたいと考える初心者が増えることが重要だ。また、自分が初めて使った商品は心に深く残るもの。matsukiyoブランドを心に深く残したいこともあり、メイク初心者を対象にすることに決めた」
韓国風にこだわった商品開発
構想から1年ほどでiisamはリリースされた。「YUMA氏から、美容感度の高い男性でもメイク品の使い方がわからず、どんなアイテムが必要かわからない人が多いと聞いた。そのため、使い方がわかりやすく多くのアイテムが必要のない製品を作ることにした」と、開発を担当したMCCマネジメント商品開発課の和田邦美氏は話す。
その結果、生み出された製品が『matsukiyo iisam マルチパレット』だ。アイシャドウ、アイライナー、アイブロウ、シェーディング、ノーズシャドウ、コ ンシーラー、リップカラーが1つにまとまっている。
工夫した点は、初心者でも使い方がわかるようにパレットの中にガイドを添付したことだ。
「ガイドがあると、誰でも簡単にメンズメイクに挑戦できる。どの色をどこに使うのか、どの付属ブラシを使うのかが一目でわかる。必ずしもすべてのアイテムを使う必要はなく、会社に行くときはアイブロウだけ、休日はすべて使ってメイクするなどバリエーションを楽しめるように考えた」
これまでは女性用化粧品の開発を担当することが多かった和田氏。メンズコスメならではの大変さはあったのだろうか。
「どのような色味が適切なのか見極めが難しく、YUMA氏にアドバイスをもらいながら進めた。意外だったのは、Z世代の男性が好むリップのカラーが思った以上に明るかったこと。それを参考に、色味は赤くても塗ると透明感が出て潤いを感じられるものにした」
パッケージのデザインも、女性用以上に悩んだという。「メイクアイテムは外観を見て購入するお客さまが多い。パッと見て韓国風コスメで男性向けだとわかるようにしたいと考えた。シリーズのネーミングにもこだわった」
iisam(イイサム)の名前の由来は、韓国語の「1(イル)・2(イ)・3(サム)」から着想した。「1・2・3」と軽いステップで、新しい自分になれる商品でありたいという想いを込めている。また、パッケージの色にはアッシュグリーンを採用。リサーチを重ね、韓国好きなZ世代男性に好まれる色合いにしたという。
調和を重視するZ世代。メイク経験者が増えればメンズメイク市場も広がっていく
iisamは2023年4月から販売を開始し、同社が店舗で販売している男性用メイクアイテムの中でもトップ10に入るなど、売れ行きは好調だ。
また、発売直前の3月には「卒アル写真館 by iisam」というイベントを開催し、70名以上のZ世代男性が集まった。本イベントはメイクの先生をゲストに呼び、製品を使ってメイクをしてもらって参加者で写真を撮るという内容だ。
「2023年3月に高校を卒業した方たちは、コロナ禍によって高校時代をずっとマスクで過ごした世代。マスクを外していこうという流れがある中、卒業を記念してマスクを外し、メイクして写真を撮り楽しんでもらえればと考えた」(和田氏)
最初は緊張の面持ちだった参加者も、写真撮影後には満足度が上がった印象だったという。「今後もiisamを使ってメイクをしたいという感想を多く聞いた。この経験を通じて、メイクに興味がある男性にとっても、メイクのハードルは高いことも実感。男性が当たり前にメイクすることに、この商品が貢献できたらと思う」(同)
今後の商品展開については、様子を見ながら判断していくと櫻井氏は話す。「Z世代の特徴として、周囲の目や評価を気にして調和を重視する傾向があるという調査がある。そのため、メイクに興味はあるがイタい奴だと思われたくないという人もいるのではないか。裏を返せば、周囲がメイクするようになれば、自分もやってみたいという意識に変わる可能性が高い。そんなときに手に取りやすくチャレンジしやすい商品を提供することが大事だと考えている」
同社では、商品ごとに『商品DNA』というデータを算出している。例えば、Aという商品を購入する人は情報感度が高くて、メンズコスメに興味があるなどの意識に関する情報が得られるのだ。こうしたデータを活用して、メイクに興味がある男性にiisamを訴求していく。
「10年後に男性がメイクをして出勤するのが当たり前という時代になると信じている。10年後に、あのときiisamを開発してよかったという未来にしたい」(櫻井氏)
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