廃棄パンや災害備蓄品を「ビール」にアップサイクル!フードロス削減の新たな選択肢とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年6月26日 20時55分
2021年に設立したBeer the First(神奈川県/坂本錦一社長)は、廃棄予定の食材をビールの副原料にアップサイクルする会社だ。賞味期限が迫ったパンや麺、米などを麦芽の一部として代用したクラフトビールを製造・販売する。本稿ではフードロス問題に新しいアプローチをかけるBeer the Firstの取り組みにフォーカスを当てていく。
糖質を含む食材はすべて副原料として再利用可能
Beer the Firstが事業を始めたのは21年8月。髙島屋(大阪府/村田善郎社長)に出店しているベーカリーと提携し、廃棄間近のパンを麦芽の一部として代用したクラフトビールの製造・販売を開始した。22年には東京都が募集をかけた「フードテックを活用した食のアップサイクル促進事業」の共同事業者として採択され、都が抱える消費期限の迫った災害備蓄品(乾パンやアルファ米)を副原料とするビールもリリースした。
ここでビールの製造方法を簡単に説明しよう。必要な原料は主に麦芽、ポップ、酵母、水の4つ。細かく砕いた麦芽をお湯に混ぜると、麦芽に含まれるデンプンが糖へと変化する「糖化」が起こる。できあがった麦汁を煮沸してホップを加えて温度を下げ、酵母を投入すると糖質がアルコールと炭酸に分解され、ビールができあがる。
麦芽全体の約30%までは糖質を含む副原料で代用できる。Beer the Firstではその割合を10%~30%に設定しており、副原料に使った食材はビールの味や香りにほとんど影響を与えないそうだ。同社はこれまで、観光みやげ品を製造するタカチホ(長野県/久保田一臣社長)が販売するウエハースをビールにアップサイクルした実績がある。
今年6月には三菱地所(東京都/中島篤社長)との提携により、同社が所有するオフィスビルの災害備蓄品をアップサイクルしたビールを販売する。これまでに製造したビールは提携企業による「買い切り式」を採用していたが、三菱地所との提携で製造するビールはBeer the Firstの自社商品として打ち出す予定だ。この取り組みは同社初で、三菱地所の協力のもと「大丸東京店」「リカーズハセガワ本店」などの小売店やレストランのほか、同時期に立ち上げる自社ECで販売していくようだ。
製造の外部委託をやめ醸造所を新設
Beer the Firstの社長を務める坂本氏は、かつて勤めていた食品商社で輸入部門と国内卸部門を経験したという。「国内卸を担当していたときに、農家や加工所、メーカーなどで多くの商品が廃棄される場面を見たことがあり、いたたまれない気持ちになった」と坂本氏は当時の思いを語る。とくにわずかな傷があるだけで規格外になる農作物に強く違和感を覚えたそうだ。その後、もともと好きだったビールを商材にした仕事を始めようと検討するなか、フードロス問題を掛け合わせることで本事業の構想に至ったのだと坂本氏は説明する。
坂本氏は当初、フルーツをビールの副原料として再利用しようと検討したが、すでに同様の事業を行う会社は多くあったため断念した。代わりに糖質を多く含むパンや米、麺に目を付けたという。事業を開始して営業をかけると、それらを扱う外食企業からは「フードロス対策でお菓子にアップサイクルしようという提案は多くもらうが、ビールへの転換は珍しい」と好意的な反応や耳を傾けてもらえるケースが多かったと坂本氏は話す。
Beer the Firstは創業から右肩上がりに業績を伸ばす一方で、2つの課題を抱えている。それは製造を外部委託していることにより安定供給が難しい点と、利益率が低い点だ。これらを改善するため、年内に自社のブルワリー醸造所を開設する予定だという。
「40坪程度の中規模な醸造所を構想しており、自身の地元である神奈川県で居抜き物件を探している。リノベーションを行う設計士には、有名建築家の隈研吾氏を迎える予定だ」と着々と準備を進めていることを坂本氏は明かす。
クラフトビールのマーケット規模も課題の1つだ。日本のビール市場においてクラフトビールの売上が占める割合は約2%と(アメリカは約20%)、日本人はクラフトビールへの関心が極めて低い。坂本氏は「クラフトビールそのものの人気が上がればアメリカのように強気な価格設定が可能になり、利益率もあがるだろう」と語る。
こうした課題はあるものの、Beer the Firstは企業のSDGsへの取り組みに貢献しながら、提携先を着実に増やしている。坂本氏は「当社は製造ロットが大きくないため、小規模な会社でもスモールスタートできる点が強みだ」と話す。
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