U.S.M.Hがデジタルブランド「ignica」で仕掛ける顧客体験の一大改革
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年6月20日 20時55分
食品スーパー3社を擁し全国に計530店舗を構えるユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都/藤田元宏社長:以下、U.S.M.H)は、2020年にデジタルブランド「ignica(イグニカ)」を立ち上げ、店頭のデジタル・トランスフォーメーション(DX)や顧客体験の改革に取り組んでいます。そのDX戦略を見ていると、小売業界の「顧客体験の向上を図るための戦い」が垣間見えてきます。今回は、イグニカのサービスをご紹介しながら小売DXの可能性について前半と後半に分けてお伝えします。
RaaS戦略の要「ignica」
昨今、国内外の小売企業によるDX合戦はとどまるところを知りません。先日、NRF(全米小売協会が主催する展示会)に参加した折、ニューヨーク近郊の食品スーパーを10店舗ほど視察したところ、ほとんどの店舗がセルフレジによる会計をメインに据えていました。
デジタル大国・米国の小売企業が進める店舗のデジタル化やOMO施策の背景には、土地活用が容易でデジタル化のメリットが得やすいといった米国ならではの特性が強く関係しています。
一方、日本の場合は店舗ごとに物流がきめ細かく最適化されており、デジタルやオンラインにそのまま活用するのは難しいといった現状があります。日本で大掛かりなデジタル施策を実施するには物流やフルフィルメントの中身を改めて検討する必要があるため、コスト的なメリットを出しにくくなっているのです。そのため、小売企業がデジタル化に際して求める目標は、コスト削減以上に顧客体験が強調されているように思われます。
顧客体験の差別化の一例に、U.S.M.HのDX施策があります。20年以降、U.S.M.Hはネットスーパーからセルフレジカート、デジタルサイネージ、BOPIS(オンライン注文・購入、店頭受取サービス)、BIツールの提供まで、全方位的な施策を繰り出してきました。こうしたデジタル戦略を推進しているのが、同社のデジタルブランド「イグニカ」です。イグニカはRetail4.0(※)、OMOの実現をめざしています。私たちRoktもイグニカのネットスーパー「Online Delivery」でAIを活用し、新ブランドの紹介や収益化をお手伝いしています。
※Retail4.0:デジタル技術の導入によってDXを推進させたリテールの次世代を指す。1900年代初めにセルフサービス式が導入されたリテールを「Retail 1.0」とし、ショッピング・センターが普及した「Retail 2.0」、1990年代半ば以降のECの台頭を「Retail 3.0」、それに継ぐ動向として注目されている。
イグニカはネットスーパー1つとっても、広めのエリアで複数店舗の注文を取りまとめ、ドライバーとマッチングさせて配送するなど、ロジスティクスそのものをオンラインに最適なかたちに設計し直しています。日本の人口動態、顧客の行動に即した最適なロジスティクスをゼロから考えるなど、ゼロベースで「顧客体験」を考え直していくことが今後の小売業の戦略として重要なのではないでしょうか。
顧客体験を最大化するセルフレジアプリやBOPIS
U.S.M.HのDX施策は、ネットスーパーやセルフレジをそれぞれ単体でバラバラに展開するのではなく、施策同士が「線」でつながり、生活者起点の新しい顧客体験を提供している点が特徴です。たとえばセルフレジサービス「Scan&Go Ignica」は、専用スマートフォンアプリで会員登録を済ませておけば、買物する際に商品のバーコードをスマホのカメラでスキャンするだけで、レジレス・キャッシュレスで買物を完結できます。
ライフコーポレーション(大阪府)やイズミ(広島県)なども東芝テックの提供するセルフレジカート「ピピットセルフ」を導入してレジ待ち時間やレジの店舗スタッフを削減していますが、イグニカの場合はスマートフォンアプリだけでサービスが完結するため、スキャナー搭載のカートを新たに導入する必要がありません。また、スキャニング技術の精度が高く、初めて利用するユーザーでもストレスなく買物できる点も顧客体験に貢献しています。
セルフレジ用に独自開発した「Scan&Go」アプリは、POSレジ「ignica POS」やプリペイド式電子マネー「ignica money」、ネットスーパーとも連携しています。「ignica POS」は多言語対応を実現し、高齢者が視認しやすいUIを採用。キャッシュレス決済やQRコードと連動させることでシームレスな動線設計を可能にする独自のDXソリューションです。
ほかにもU.S.M.Hは国内で先駆けてBOPISを導入。ネットスーパーで買物した商品を店頭の無人ピックアップルームで受け取りができるようになっています。このピックアップルームは注文から受け取りまで店員と接することなく、スマートフォンアプリだけで完結します。
さらに自社で開発したこのようなDXソリューションやノウハウを他の小売業へ外販し、法人向け事業へと拡大させようとしているのも面白い点でしょう。わかりやすい例が「ignica サイネージサービス」です。
記事後半となる次回は、同サービスの解説からスタートします。
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