韓国食材、ブームから「食卓の定番」に!韓国食品メーカー4社が語るマーケティング戦略とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年6月30日 1時0分
ドラマやK-POPのヒットに伴い訪れた第4次韓流ブーム。このムーブメントは日本の食卓を支えるスーパーマーケットの売場にも大きな影響を与えている。ダイヤモンド・リテイルメディアでは大手韓国食品メーカーのマーケティング担当による座談会を開催。韓国食品ヒットの要因や日本市場に対する期待、これからトレンドになるであろう食品、今後の課題について語ってもらった。
参加企業
韓国農水産食品流通公社:東京支社長
尹 祥榮 氏
農心ジャパン:マーケティング部門 部長
鄭 永日 氏
CJ FOODS JAPAN:マーケティング部 部長
金 勍賢 氏
眞露:マーケティング部門 部門長
朴 商佖 氏
2022年の韓日輸出額は過去最高を記録
―― はじめに、皆様の自己紹介と会社の紹介をお願いいたします。
韓国農水産食品流通公社 尹(以下、尹):当社は日本における韓国農水産物及び韓国食文化の紹介など、貿易振興活動を行っている韓国政府傘下の機関です。日本では1999年に支社が作られ、東京と大阪に拠点があります。私は今回で駐在3回目となりますが、現在は東京支社の支社長を務めております。
CJ FOODS JAPAN 金(以下、金):CJ FOODS JAPANは現在、飲用酢の「美酢」と、「王マンドゥ」を中心とした加工食品ブランド「bibigo」の展開に注力しています。私自身、2012年に続き2回目の駐在となりますが、昨今のマーケティング活動を通じ、大きな環境の変化を感じていますのでそのあたりの意見交換をさせて頂きたいと思っています。
農心ジャパン 鄭(以下、鄭):私は農心ジャパンにて、「辛ラーメン」を中心としたマーケティングと営業活動を行っています。私は日本に来て9年目となりますが、この長い期間の中で日本人の韓国食品に対する認識が急激に変化していくのをリアルに体験していますので、皆さんと情報共有していければと思っています。
眞露 朴(以下、朴):私は2003年から韓国HITEJINROの(当時はHITEビール)日本輸出担当を携わることがきっかけで2010年から2014年までは眞露株式会社でビール事業、商品開発、営業(福岡支社)で働いて、2回目の日本はコロナ禍直前の2020年から現在まで至っています。眞露は約40年前から日本でのマーケティングを行ってきました。眞露、マッコリに続き、数年前より「チャミスル」が日本でヒットし、同品が当社の中核を担っています。日本の流通業との取り組みにも注力しており、ダイヤモンド・チェーンストア誌のディスプレイコンテストにも参加させて頂いています。
―― 近年、韓国ドラマやKPOPの人気もあり、日本国内で第4次韓流ブームが起きています。これに伴い韓国食品も伸長しているかと思いますが、この市場変化をどのように見ていますか?
尹:私が初めて日本へ赴任したのは06年で、当時は大阪の支社におりました。ちょうど「冬のソナタ」や「チャングムの誓い」といったドラマが日本で流行った第1次韓流ブームの時期で、イオンと組んで韓国フェアを西日本ではじめて仕掛けたのも07年です。
その際取引先に聞いた話では、大阪は在日韓国人の方が多く、韓国物産展が成功しやすい土地柄ということで、韓流ブームも後押しし、フェアの開催に至りました。
2度目に赴任した14年は日韓関係があまりよくない時期だったため、韓国というワードを極力出さずに静かなマーケティング活動を行っていました。
今年2月、6年ぶりに日本に戻った私は店頭を見て非常に驚きました。最も驚いたのはハングル(韓国語)で書かれたパッケージデザインの商品が多数陳列されていたことです。以前はどれだけ韓流が流行っていても韓国語表記は消費者に誤解を招く可能性があるということから採用されなかったのですが、現在は裏面の商品情報以外は韓国と全く同じパッケージの商品が並んでいる。
またコロナ禍の影響もあったと思いますが、22年は韓国から日本への輸出が非常に好調で過去最高を記録しており、今後の飛躍を期待させます。
―― 過去最高の輸出額ということですが、要因はどこにあると思われますか?
尹:韓流ブームもありますが、外食業を含めた現場の努力により徐々に浸透した結果ではないでしょうか。たとえばパスタやオリーブオイルといったイタリアの食品は外食を中心にブームになり徐々に日本の食卓へ浸透しましたが、それと同じような動きが韓国食品でもあったのだと思います。
実際に食べログなどのサイトで韓国料理を検索すると、1万店近くヒットしますし、韓国の食文化がそれだけ受け入れられているのでしょう。これは一過性のブームではなく、日本の食卓に根付いてきていると捉えています。
メーカー自ら風を起こしヒット商品を生み出す
―― メーカーから見た日本市場はいかがですか?
金:当社では日本の市場に大きな期待を寄せています。直近5年間の伸び率がすごい。
韓国の食品メーカーは国内市場が頭打ちになっており、今後の人口増加も見込めないことから、グローバル戦略に舵を切っています。当然、日本と韓国ではマーケットの特性が違いますが、以前と比べ政治面は関係なく、文化そのものを素直に見てくれる人が増えたことが大きいですね。韓国に比べ日本の流通業は保守的ですが規模が大きく、一度ヒットすれば大きく成長できる市場であるとみています。
ただ、先ほど韓国フェアという言葉が出ましたが、イタリアンフェア、中華フェアといった国別の切り口による催事は、売場担当者やバイヤーから客単価を上げるための突破口として前年比で評価されることが多く、少しでも数字が悪いと催事のローテーションから外れてしまう。できれば催事ではなく定番商品としてしっかりと韓国食品を打ち出していきたいと考えています。
また、ローカライズも難しい問題です。例えばキムチは酸味が強くて辛い本場韓国産のオリジナル商品以外に日本のメーカーによる甘めの白菜キムチや、日本人の味覚に合わせた韓国産のキムチもあり、それらが売場で混在しています。またキムチ以外でも韓国風の味を意識した日本メーカーの加工食品も増えており、本場の味との違いや正しい商品情報を消費者へどのようにアナウンスすべきかが今後問われていく気がしています。
鄭:当社は日本法人を創設し20周年を迎えますが、当時から、「辛ラーメン」は本場の味をずっと守った状態で展開してきました。
日本の即席ラーメン市場は、醤油、塩、豚骨というフレーバーが中心で辛い系フレーバーのシェアは非常に小さかったのですが、10年ごろの第2次韓流ブーム以降「辛ラーメン」はじわじわと数字を伸ばし、現在も右肩上がりで成長を続けています。特にコロナ禍以降は、しっかりした刺激的な味を求める人が増えたこともあり、辛ラーメンの売上は好調ですね。
コロナ禍の影響もあると思いますが、日本はこの数年間で韓国食品に対する認識が大きく変わったとみています。以前は「韓国製は日本製と比べクオリティには落ちるけれど安価」という目で見られがちでしたが、現在は「トレンド感がある」「ハングルのパッケージがおしゃれ」といった感覚を持つバイヤーが増えている。
私自身、嫌韓の風潮があった時期に韓国食品が棚から一気に外されたことを先輩から話しを聞いた直後に駐在にきましたから、この変化に驚くのと同時に今の流れにポテンシャルを感じています。
朴:当社は海外事業において日本が最大の取引先になっており、非常に重要な市場と見ています。
以前の韓流ブームは俳優や歌手といった人物に対する人気が主体となっていましたが、今回のブームはドラマなどを含め韓国の文化自体が主体となっている。そこが韓国食品の広がりにも影響していると思います。
商品軸で見ると第2次韓流ブームのあった10年ごろに流行ったマッコリは、当社の商品だけでなく日本の酒類メーカーが参入したことでマーケットが広がったことも大きかった。先ほどローカライズの話が出ましたが、市場が広がるのであれば私は日本のメーカーが同カテゴリーに参入することもプラスにつながると踏んでいます。
「チャミスル」は韓国ドラマで飲んでいるシーンが話題となりヒットしましたが、今後も市場を拡大していくためには、ブームなど外部環境による風に頼るのではなく、シーン訴求などメーカー自ら風を吹かせることで、日本の消費者に身近に感じてもらう施策が重要だと思っています。
鄭:食のシーン提案は非常に重要だと思います。韓国食品というと、「赤い」「辛い」といったイメージがあると思いますが、他にもマイルド系の商品もたくさんあります。
汁無しラーメンとして当社の韓国での一番の人気商品に、「チャパゲティ」という即席めんがあります。辛味のないオリーブオイルを使った韓国風のジャージャン麺を、韓国で初めて即席めんにした商品です。しかし、この商品を日本のバイヤーに紹介しても認知率は低く、「何味なのかイメージできない」というところで止まってしまう。
そうであれば引っ越しの後などにみんなで食べる韓国のソウルフードとしての「チャパゲティ」の食べシーンを紹介し身近に感じてもらう、そういったシーン訴求を今後は仕掛けていきたいと考えています。
金:現在韓流ブームに乗って様々な商品が入ってきていますが、中にはアジアやエスニックなど韓国以外からの商品と同じ棚に並べられるケースも多くみられます。また品質が高くない商品が入ってくればリピートに繋がらず悪いイメージだけが残り、ブーム終了と同時に売場から消えることになります。
最近、ある企業のバイヤーから「韓国食品が増えすぎてかえって難しい」といわれたことがあります。ブームに乗って商品をヒットさせるのには限界がある。それよりも韓国食品メーカーが一丸となり、「韓国食品は安心安全で洗練された商品」というブランディングをしっかり構築することが重要だと思っています。
棚割り、新商品、販促。韓国と日本の商習慣の違い
―― 日本と韓国の商習慣の違いについてお聞かせください。
鄭:かなり違いますね。日本の流通業は保守的で、一度定着したブランドは長く続くのですが、新商品が根付くことが少ない。たとえばラーメンカテゴリーは年間で約500アイテムの新商品が発売されますが、それらは新商品コーナーの中で入れ替えられていくだけで定番棚に入る商品はほんの一部。一方、韓国の場合は売り込みたい商品をメーカーが情報発信し、流通業と協働でブームを作っていくことが一般的です。
金:これは日本でいう、卸業や問屋、商社が韓国にほとんど存在しないことに起因していると思います。韓国ではメーカーと流通業の直接取引が主流で、主要なメーカーがそのカテゴリーの定番棚を作っていくようなイメージです。また物流についてもメーカーが直接行っていることが多いです。
―― 日本では卸を通じてのカテゴリーマネジメントが主流ですが、韓国食品についても卸を通しての取引が主流ですか?
鄭:主要な流通業については卸を通じて取引していますね。そのため韓国と比べメーカー発信で売場を作ることが難しく、また売場を実現し、結果を出すまでに時間がかかると感じています。また棚割りについても、日本の場合は春夏、秋冬の年2回が主流ですが、韓国の場合、年間を通じていつでも提案できるといった違いもありますね。
金:韓国ではメーカーがマネキンの組織を持っているので、新商品を出すと翌週には店頭での試食プロモーションを仕掛けて検証する。こうしたPDCAサイクルのスピード感が韓国は非常に速いのです。
朴:韓国と比べ日本は国土が広くさらに店舗数も非常に多いので、卸という機能が必要であったと考えています。地域性もあると思いますが、日本は何か物を動かす際に必ず間に人が入るので時間がかかる。こういった商習慣の違いもあり、すぐに結果を求める本部からは「なぜこんなに時間がかかるのか?」と聞かれることもあります。
鄭:ただ、最近は韓国食品の売場を広げる動きが出てきていてバイヤーの受け入れのスピードも上がってきた気がします。
尹:先日、公社で韓国食品の新商品展示商談会を行った際、問屋を挟まずに直接いらしたバイヤーが非常に多かった。
韓国はECが日本よりも進んでおり、消費者が産地と直接取引することもある。韓国人はトレンドに非常に敏感ですからそこから爆発的なヒット商品が生まれることもある。実際にマッコリやえごま油といった商品は日本でもヒットしました。
流通業のバイヤーも競合との差別化を図るため常に新しいものを求めています。そういった意味でも、我々はトレンド感のある新しいものを日本の皆様にどんどん紹介していきたいと考えています。
食のシーン提案で日本の食卓に根付かせる
―― 次のトレンドとなりそうな食品はありますか?
尹:加工食品では「薬果(ヤックヮ)」という小麦粉に蜂蜜やシナモンを混ぜ合わせた生地を揚げて作る菓子が若年層の間でブームになっています。元々は家庭で作る素朴なお菓子でしたが、昨今のレトロブームもあり、人気を集めているようです。
朴:マッコリをサイダーで割って飲む「マクサ」も、アルコールが苦手な人に人気ですね。また「チャミスル」などの焼酎を韓国ビールで割って飲む「ソメク」という飲み方がドラマ等を通じ、日本でも広まってきています。特に割って飲むという、一種の遊び的な要素が若年層を中心に共感を得ているようです。
―― 最後に、日本の流通業に向けてメッセージをお願いします。
朴:日本で商品をプロモーションする際、その商品のカテゴリーやターゲットが明確であることが求められます。韓国での「チャミスル」は年代問わず幅広い層に支持されていますが、その紹介の仕方では日本で通用しない。そのため現在は若年層をターゲットにプロモーションを行っており、今期は「チャミ会」というキャッチフレーズで食と絡めたシーン提案をドラマ仕立てで展開していきます。韓国食品とのクロスMDにも広げていきたいですね。
また「チャミスル」は冷やして飲むことが一般的で、一部コンビニエンスストアでは冷蔵ケース内で「チャミスル」を陳列し好評をいただいています。これをスーパーマーケットの店頭でも展開していきたいと考えています。
鄭:韓国食品といえば「赤い」「辛い」、その代表が「辛ラーメン」といったように、当社は長い時間をかけて韓国食を広め日本市場を開拓してきたという自負があります。
当社を含め多くの韓国食品メーカーが頑張ったおかげで、昨今は日本の消費者も韓国の味を受け入れ、市場にも広がりが見えてきました。
今期は新商品として「辛ラーメン焼きそば チーズ カップ」を出しますが、これは日本先行での発売です。当社はこれからも韓国らしい魅力ある商品を消費者にお届けしたいと考えています。
金:今回集まったメーカーは韓国国内では大企業ですが、日本のマーケット内ではまだ小さな存在です。先ほどもお話しましたが今後売上を拡大するためには韓国メーカーが力を合わせ、韓国食品をブランディングすることが重要だと思っています。
我々が目指すゴールは売場での定番化ではなく、日本の食卓での定番化です。麻婆豆腐をはじめとした中華料理が日本の食卓の定番メニューになったように、週に一度は韓国料理を食べる、そんな習慣が作れたら嬉しい。それこそが韓国の食文化が根付くことだと考えています。
尹:今年に入り多くの流通企業から「韓国フェアをやりたい」というお声がけを頂くようになりました。新商品をはじめ魅力ある商品群と共に、売場を盛り上げる販促物などの用意も検討しますので、ぜひ気軽にご相談いただければと思います。
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