出雲に日光、名所に続々ショップをオープンする「ビームス」が目指す地方創生とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年7月6日 20時57分
言わずと知れたセレクトショップの雄「BEAMS(ビームス)」(東京都/設楽洋CEO)。「カルチャーショップ」を掲げ、ファッションのみならずライフスタイル全般にわたって世界各国のカルチャーを日本に紹介し続けてきた同社が、いま視線を向けているのが「日本」だ。
伝統工芸品からポップカルチャーまで日本をキーワードにしたアイテムをセレクトし発信する「ビームス ジャパン」を2016年から展開。さらに2022年からは地域の企業や事業者とコラボし日本各地の名所景勝地に常設ショップをかまえる共創型プロジェクト「ビームス ジャパン ゲートストア プロジェクト」を立ち上げ、出雲、日光と相次いで出店している。
今、あえて「日本」に光を当てる理由と、地域との共創プロジェクトの意義について、同社のキーパーソンに聞いた。
「匠からオタクまで」日本の魅力を国内外に発信
赤べこ(福島県西会津町)、瀬戸焼の招き猫(愛知県瀬戸市)、萬古焼の蚊やり器(三重県四日市市)、薩摩切子のグラス(鹿児島県霧島市)……どれも日本に古くから存在する伝統工芸品の数々だが、これらはすべて新宿の店舗「ビームス ジャパン」に並ぶ「銘品」たちだ。
同店には、伝統工芸品だけでなく、食器、鍋、ブラシなど日用品、さらに別フロアには日本ならではの物づくりを反映させたウエア類、日本のマンガやアートといったポップカルチャーなど「日本」をキーワードに幅広いカテゴリーのアイテムを各フロアに取りそろえる。伝統と最新のカルチャーが同居する空間は、まさにビームスならではの演出だ。商品開発を担当するプロダクト本部 ブランド部 ビームスジャパン課 課長の武田和巳氏は次のように語る。
「商品構成が一辺倒になると、よくある物産展やアンテナショップと変わらなくなってしまう。ビームスらしさを出すためにも、アイテムのセレクトには一定の基準はあえて設けず、各バイヤーの目利き力を大事にしている」
アイテムをセレクトするだけでなく、「ビームスらしさ」が発揮されるのは、同社が得意とする「別注」にある。
例えば、信楽焼たぬき(滋賀県甲賀市)は、ビームスのコーポレートカラーでもある橙色の“別注カラー”。これだけで、見慣れたたぬきの置物がポップでかわいらしくなる。ちなみに橙色は「代々栄えるように」と子孫繁栄や家運隆盛を意味する縁起のいい色でもあるのでご利益も倍増だ。
1976年に原宿に第1号店をかまえて以来、日本におけるセレクトショップの第一人者として日本のファッションカルチャーを牽引し続けてきたビームス。これまで培ってきた目利き力と開発力で、「匠からオタクまで」日本のカルチャーに新たな命を吹き込み、国内外に発信している。それが「ビームス ジャパン」の事業だ。
海外に向けてきた視点を「国内」に向ける
ビームスの設楽洋社長がある日、イギリスの伝統ある仕立屋に赴いた。貴重な100年前の生地サンプルに魅せられてテーラーに「これはすばらしいシルクですね」と語りかけたところ、返ってきたのは思いもよらぬ一言だったという。
「そのシルクは、日本の着物の素材ですよ」
これまでアメリカをはじめイギリス、イタリアなど海外のファッションやカルチャーを日本に紹介してきたビームス。しかし、本当にいいものが、実は足元にたくさんあった――その設楽社長自身の体験から、これまで海外に向けてきた視点を「国内」に向け、多くの日本人が気づいていない、あるいは忘れてきた伝統や文化に光を当て、その魅力を発掘するプロジェクトとして「ビームス ジャパン」は立ち上がった。
2016年、もともとビームスの大型複合店だった新宿の「ビームス ジャパン」を、同名を引き継いだ新プロジェクトを束ねる旗艦店として6フロアを改装。以来、渋谷、京都と3店舗を展開しながら取り扱うアイテムを増やしていき、ビームスを代表する事業の一つに成長させてきた。
ところが、その成長の過程で「今の取り組みだけで、日本のいいものを本当に発信できているのだろうか? と疑問を抱くようになった」と、カスタマーエンゲージメント本部 BEAMS JAPAN GATE STORE プロジェクトマネージャーの鈴木春幸氏は打ち明ける。
「全国の隠れた銘品を発掘し紹介するのであれば、都会だけで発信するのでなく、もっと地域に入り込み、地元の企業や事業者とスクラムを組みながら事業展開していく必要があるのではないか、という反省があった」
そうした反省からテストマーケティングを兼ね、宮島(広島県)や善光寺前(長野県)など国内4か所の名所景勝地で実験的にポップアップショップを出店してみた。
すると、観光客を中心に好調な集客を実現。各名所のロゴをあしらったオリジナルグッズの売れ行きも好調で、テストマーケティングとしては一定の手ごたえを得た。
ポップアップの「悔しい」思いから立ち上がった地域の常設店舗
しかし、成功の一方で「ポップアップであるがゆえに悔しい思いもした」と鈴木氏は回想する。
「数か月間の限られた期間では、本当に地元の事業者と一から関係を構築して商品開発などの企画をするには足りない。また、地元で採用した販売スタッフも経験を積み、商品知識を身につけたところで期間が終了してしまう。そこに後悔が残った」
その「悔しさ」が原動力となって新たに立ち上がったのが、名所景勝地に「ビームス ジャパン」の常設店舗を展開する地域共創型の出店プロジェクト「ビームス ジャパン ゲートストア プロジェクト」だ。
第一弾が、2022年12月にオープンした「ビームス ジャパン 出雲」。
ショップの場所は、神話の国・島根を象徴する出雲大社の表参道・神門通りに面した好立地で、「ビームス ジャパン」の活動を通じて知り合った出雲の伝統工芸品・出雲めのう細工を手がける「川島めのう」の社長から紹介してもらったという。
オープンに合わせて、「川島めのう」とビームス ジャパンがコラボしたオリジナルの勾玉キーホルダーを制作。そのほか、出雲大社ゆかりの「福こづち」や、出雲伝統の手すき和紙「出雲民芸紙」で作られた「堀江だるま店」の縁結びだるまなど、地元・出雲にゆかりの伝統工芸品とビームス ジャパンとのコラボアイテムが店頭に並んだ。
2023年4月には、第二弾として日光東照宮の表参道沿いに「ビームス ジャパン 日光」がオープン。ここでも、江戸時代の日光東照宮造営技術を受け継ぐ「五十嵐漆器店」の「日光彫」や、「きびがら工房」の鹿沼箒(ほうき)、地元日光で環境保全のために捕獲された鹿の革を有効活用する「日光MOMIJIKA」のポーチ類など、日光にゆかりのあるアイテムを取りそろえた。
この日光の店舗は、もともとビームスが地元・日光のアイスホッケーチーム「日光アイスバックス」のユニフォームデザインを20年以上手がけてきた縁から実現に至ったものだ。
「出雲も日光も、その地域の魅力を熟知し、PRに熱意を持っているキーパーソンが常設店の構想に興味を持ち、出店に向けて尽力してくれた。彼らの存在がなければ実現はしなかった」(鈴木氏)
リアル店舗の存在が地域のコミュニティのハブになる
出雲、日光の両店舗はいずれもビームスの直営ではなく、地元企業とフランチャイズ(FC)契約を締結。採用されるスタッフもほとんどが地元住民で、地域に愛着のある人が自ら接客・発信するスタイルにこだわる。
「契約形態としてはFCだが、任せきりにするのではなく商品開発やスタッフの教育など、私たちも地域に入ってパートナーとともに進めている」と、武田氏はパートナーシップの重要性を強調する。地域のキーパーソンや企業の持つネットワークと、ビームスの目利き力・MD力とが相乗効果を生み、新たなコラボ商品などのアイデアが実現している。
「地域にリアル店舗を出したことで、あらためて多くのメリットを感じている」と、鈴木氏はゲートストアプロジェクトの手ごたえを口にする。
「リアル店舗の存在が、単なるショップ機能だけでなく、その地域におけるコミュニティのハブ機能を担っている。店舗を中心に行政や地元のキーパーソンなどとのつながりができ、地域でのネットワークが広がっている。この『地域とつながる』感覚は、東京で打ち合わせするだけでは決して得られない」
地域での体温のあるつながりから、バイヤーだけでは見つけられない地元のコンテンツを教えてもらったり、自力では接触が難しいキーパーソンも紹介してもらえたりする。そこからさらにアイテムを充実させ、ショップの魅力を高めることができる。リアル店舗を起点とした、ネットワークと商品開発の好循環が生まれている。効果は数字にも表れており、出雲、日光ともに、対予算比で130~140%増と好調なスタートを切っている。
今後の展開として、鈴木氏は「具体的な地域はいえないが、15店舗は出店したい」と意気込む。どんな名所景勝地にショップが生まれ、どんなアイテムに光が当てられるのか。「ビームス×地方」の“ダブルネーム”でもあるゲートストアプロジェクトのこれからに注目したい。
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