名門ワールド復活は本物か?M&A巧者が抱える意外な課題とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年7月3日 22時10分
今日は、神戸の名門企業ワールドの戦略について、アパレル業界の裏話を交えて解説したい。長いトンネルを抜けたワールドは2023年3月期、「コア営業利益」と呼ばれる指標(営業利益に近い数字)が135億円と対前期比2.5倍となり、大躍進を遂げた。
同社の復活は本物なのだろうか?戦略の巧拙を解説し、ワールドの行く末を予測してみたい。なおこの分析はあくまで私の個人的な主観によるものであることをお断りしておきたい。
デジタル、M&A、プラットフォームは必要十分か?
ワールドの事業は大きく3つに分かれている。伝統的神戸ブランドを消費者に販売する「ブランド事業」、BtoB、BtoCともにクライアントのデジタル・アウトソーシングを狙った「デジタル事業」。そして、おなじみの「プラットフォーム事業」である。
実は、「ブランド事業」で私はワールドに対して悔しい思い出がある。拙著『ブランドで競争する技術』で紹介した神戸レザークロスという会社がある。同社は垂直生産方式をセル型に変え、水平分業型にしてSell buy, buy One, すなわち、靴の受注生産の仕組みを作り上げた企業で、同社の技術を当時再建を手伝っていた某通販企業に導入しようとしていた。
神戸レザークロスには、数回にわたり戦略コンサルティングの助言を繰り返した。伊勢丹が行っているパンプスの受注生産のOEMを受けもち、マルイも手を出さなかった、そして、世界でNIKEしかできていない仕組みを作り上げたのだ。
神戸レザークロスは「パーツの会社」であった。つまり本来自社による「パーツの供給」を自社に行い、シナジーを出すべきなのに、
その後、某銀行の紹介により、日本で最もシューズの生産に詳しい人間ということで私が選ばれ、夢のバイオーダー生産は完成した。しかし、神戸レザークロスからの連絡は途絶え、ほどなくしてワールドに買収された。
当時の神戸レザークロスの経営者はおそらく、市場からの引きが強い一方で利益がでないバイオーダー生産を増やしキャッシュを枯渇させたのだろう。
バイオーダー生産で経済性を実現するには、「浅草」の靴生産地域が行ったようにパーツをすべて標準化し、また、その標準形を数百にわたるパーツ屋が守り、シューズ型PLMでエコシステムをつくる必要がある。これは、中国企業もやっているやり方だ。
ワールドが、そうした技術を知っているのかどうかはわからない。しかし、少なくとも、その後、シューズのバイオーダー生産をしていないということは、興味がないのか、経済性を実現するやり方がわかっていないのではないだろうか。もったいない話である。
あのストラスブルゴもワールドがM&A
さらに、ワールドと言えば思い出すのが「ストラスブルゴ」である。同社の運営会社リデアは社長が急死し、
しかし、そこで驚くことがおきた。買収契約があと一息ということで、リデア社が突然方向性を変えたのだ。また、その後、すぐにリデア社はコロナに打ち勝てなかったということで破産宣告を行った。この事件にはいろいろな仮説が打ち立てられるが、この手の話は、「勝手にやっていただきたい」というのが原則だ。私は、一切の関係を絶ったのである。その後、ラルディーニはピークアウトし、今では代わりに、その大物は様々な斬新な服を日本に導入、リデア社などむしろ邪魔といわんばかりの躍進を遂げている。しかし、こうした技はメンズだからできたのだ。批判を承知で言わせてもらえば、メンズは超絶インフルエンサーである、干場義正氏を起用すればいくらでも流行らせることができよう。この点はレディースとは大いに違う点だ。
しかし、このストラスブルゴも、手塩にかけてつくった戦略が水泡に帰し、ワールドに買収された(ワールドと日本政策投資銀行、および両者が共同出資するW&Dインベストメントデザインが共同出資するファンドが買収を実行)。
このようにワールドはM&Aは極めてスピーディかつ得意だと言えるだろう。ただし、その企業の事業価値をあげることが得意かと言えば、疑問符がつくのではないかと私は思っている。少なくとも現時点では、神戸レザークロスもストラスブルゴも事業価値があがったようにはみえない。
ワールドのプラットフォーム事業について、いまベンダーが知っておくべきこと
次が、以前からワールドが得意としてきた「プラットフォーム事業」である。ワールドはもともとオリンパスシシステムズと組み、UVASというアパレルのMD分析システムのデファクトスタンダードを作り、ライセンスを公開して売りまくった。結果、「日本でアパレルをやるなら、軽いERP+UVAS」という図式ができあがり、「週指数」、「在庫週数」、「QR」など「ワールド用語」
ここでワールドの話からそれるが、今のデジタルベンダーは少なくともこうした「基本」をもっと勉強してもらいたい。例えば、AIベンダーが「将来の予測をする」などというが、「そんなことをしたら差別化がなくなる」と現場の人間が口をそろえるのには、こうした歴史があるからだ。
私は、あるAIベンダーにこうした話を幾度も教えようとしたのだが、彼らは、難解な数学用語をちりばめ「予測が外れるはずがない」
勉強不足とアパレル業界を舐めた態度が生み出した悲劇だった。
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ワールドの「分類学」VS 海外SPAの「アトリビューション」
経産省の有識者会議に私が呼ばれた時も、
さて、こんな人達とお付き合いすることに無駄を感じた私は、
さて、話をワールドに戻す。ワールドはSPARKS構想を打ち立てたときのUVASのクラウド版をつくっていることは明らかだ。しかし、私は、ワールドによる、「商品コード」を複雑に分類した「分類学」こそ、日本のアパレルをダメにした原因であるという仮説をもっている。というのは、私が7年前にNECのセミナーで話したとおり、海外のSPAは、商品コードでなくアトリビューション(着こなし属性)コードで、「ヒットの要因」をあぶりだしている。素材や生産拠点を日本のようにあっちにこっちに動かさなくとも、その「ヒットの要因」(アトリビューション)を組みあわせることで、売れ筋商品を「売り切れ御免」(Subject to unsold)で販売しているのである。
例えば、「ルーズフィット x ナチュラル・カラー x スポーツデザイン」という3つのアトリビューションがヒットの要因であることがAIによる分析でみえたとする。その場合、「6月は父の日だからポロシャツが売れる」とか、「アパレルは20年周期だから、ラルフローレンが今売れる」など、私から言わせれば、都市伝説レベルの理由付けでアパレル産業はお茶を濁し、売れなければ「天気」と「トレンド」の責任にしてきた。しかし、中国Shein (本社をドバイに移した)は、自らをテック企業と定義し、ヒットのアトリビューションの組みあわせをセルサイドとバイサイドで組みあわせている。生粋のデジタル企業であるということを、日本企業は全く分かっていない。
日本だけで戦うプラットフォーム事業に将来はあるのか?
このプラットフォーム事業は、本来、
すでに死に絶えかけている国内の工場をいくら買っても一時的な円安で「国内回帰」を信じているのはごく少数。また「円高」になれば、内需が儲かるぞ、と「円安」のことなどわすれているだろう。今必要なのは、日本のブランドを海外で成功させるプラットフォームを作ることだ。もはや、ワールドの分析の仕組みが世界で通用するかは私にはわからない。実際、この領域はずっと低収益である。
最後に「デジタル」であるが、ワールドはこの「デジタル」で何を成し遂げたいのだろうか。私の分類では、アパレルのシステムとは、ERP (お金とモノの入出金)、EC + ChatGPT、メタバース。ECのリッチコンテンツ化。顧客ビッグデータとAIの解析、売れるアトリビューション(売れるタグ付けの仕組み)による計画系システム、PLMによるエコシステムによる供給業者の在庫と納期管理、債権債務の自動化、自動倉庫とこんなところだろう。ワールドは、この中のどれをねらっているのか、また、誰に売ろうとしているのか。上記のようなシステムはすでに外資に奪われ、また、メチャクチャになったバリューチェーンのデータ交換は国の後押しもあり(その後押しは私がやった)NTTデータがつくっている。と、こんな感じである。
いずれにせよ、ワールドの大躍進は紛れもない事実であり、強いワールドが帰ってくることはアパレル業界にとって素晴らしいことだ。24年2月期決算も決算期変更に伴う11か月変則決算だが、23年3月期並みのコア営業利益を計画しており、数字の上では完全復活を予感させる。この先ひょっとしたら、また、私たちをビックリさせるような秘策をひっさげ、私たちの前に現れてくれるかもしれない。
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プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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