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動画も音声も!世界初、早川書房「NFT電子書籍付」新書の新しい読書体験とは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年7月31日 20時55分

6月に創刊された5冊の「NFT電子書籍付」版

620日に、新レーベル「ハヤカワ新書」を立ち上げた早川書房(東京都/早川浩社長)。創刊第一弾として発売された5作品はすべて、「紙の書籍」、「電子書籍」、紙の書籍にNFT(非代替性トークン)電子書籍が付いた「NFT電子書籍付」版の3パターンでの同時発売となった。紙の書籍とNFT電子書籍がセットになった「NFT電子書籍付」版の発売は、世界初となる。同社が「NFT電子書籍付」版に乗り出した理由はどこにあるのか。同社執行役員の山口晶氏に話を聞いた。

6月創刊の「ハヤカワ新書」、NFT電子書籍付は好調な滑り出し

早川書房NFT電子書籍付
6月に創刊された5冊の「NFT電子書籍付」版

 新レーベル「ハヤカワ新書」の創刊に合わせて、「NFT電子書籍付」の紙の書籍を発売した早川書房。「NFT電子書籍付」版を購入すると、通常の紙の書籍と、紙と同じ内容のNFT電子書籍がセットで付いてくる。書籍の本篇と同じ内容をNFT化し、電子書籍として付加するのは世界初の事例となる。

 紙の新書や電子書籍のみは1,000円前後での販売だが、「NFT電子書籍付」版はそれに+400円という価格設定だ。執行役員の山口晶氏によると、「創刊となる5作品の『NFT電子書籍付』版の部数、それぞれ10001400部だが、書店からはそれ以上の注文が来ている」状態だという。

 NFTとは、ブロックチェーン技術を活用し、唯一無二の一点ものであることを証明したデジタルデータのことだ。同社は、電子書籍ソリューションを手掛けるメディアドゥと共同で「NFT電子書籍付」版の販売を実現させた。「NFT電子書籍付」版には、QRコードが書かれたカードが付いている。購入者はそのQRコードを読み込み、メディアドゥが運営するNFTマーケットプレイス「FanTop」のスマートフォンアプリのビューアー上で電子書籍を読むことができる。

特別対談、特別動画NFT電子書籍限定特典で新しい読書体験を提供

NFT特典
『ソース焼きそばの謎【NFT電子書籍付】』(塩崎省吾)特典動画より

 「後発の新書なので普通に立ち上げても面白くないと感じていた」と話す山口氏は、「いかに創刊プロモーションをして数字を上げていくか模索していたタイミングでメディアドゥからNFT電子書籍の提案を聞いて、これが“未来の本”の形だと感じた」と話す。ハヤカワ新書のコンセプトである「未知への扉をひらく」とNFT電子書籍のもつ可能性が見事に合致した。

 電子書籍やオーディオブックなど、ニーズに合わせた本の楽しみ方が広がっている中で、NFT電子書籍だからこその魅力とは何なのだろうか。

 「すでに普及している電子書籍との一番の違いは、電子書籍はテキストだけだが、NFT電子書籍は動画、音声、画像もセットで提供できるところ」と山口氏は指摘する。

 第一弾として発売された「ハヤカワ新書」5作品の内、『名作ミステリで学ぶ英文読解』(越前敏弥著)と『教育虐待──子どもを壊す「教育熱心」な親たち』(石井光太著)の2作品は、NFT電子書籍購入者だけの特典として、本編にはない「特別対談」を収録している。

 さらに、7月に刊行予定の『ソース焼きそばの謎』(塩崎省吾著)には、より内容をリアルに伝えようと、大正初期から続くソース焼きそば店を著者が訪ねる動画を特典として付ける。

 NFT電子書籍によって、これまでは実現できなかった、新たな読書体験のかたちが生まれようとしている。

二次流通が可能で取引のたびに利益が還元される

 NFT電子書籍には、特典を通じて読者に新しい読書体験を楽しんでもらうだけでなく、ブロックチェーン技術を活用したNFTならではの大きな特徴がある。それは、「NFT電子書籍付」版の購入者はNFTという形で電子書籍を閲覧する権利を所有し、さらにその権利を自由に譲渡、売買できる点だ。

 「これまで、紙の本は中古市場で活発に流通しているが、著者と出版社には何のメリットもなかった。一方、これまでの電子書籍は閲覧する権利をもっているだけで二次流通はできなかった。NFT電子書籍は、新たに電子書籍の二次売買という需要を形成できる」と山口氏が強調するとおり、これまで存在しなかった二次流通市場が誕生することとなる。

 それだけではない。NFT電子書籍は、ブロックチェーンのスマートコントラクトという機能により、NFTマーケットプレイス「FanTop」上で売買されるたびに、あらかじめ設定した条件で出版社や著者に利益の一部が還元される仕組みとなっているのだ。

 「当面は、著者、出版社、プラットフォームの三社で利益を分配するが、パートナーのメディアドゥはやがては販売した書店にも利益を還元し、書籍にかかわるステークホルダーすべてに分配し貢献していく方針と聞いている」(山口氏)

 一方、一般的にNFTと聞くと投機目的と考えるケースが多く、二次流通のたびに取引価格が上がっていくイメージが強いが、「我々は投機目的ではなく穏やかなマーケットをつくることを考えている。NFTがもつ何となく難しいイメージや懸念されるリスクを取り除いて、今までとは違うNFTの二次流通市場をつくっていきたい」(同)

 実際、同社の「NFT電子書籍付」版は、FanTop上で売買を行う以外に、「譲渡」を選択してプレゼントすることもできる。いずれの方法でも、二次流通市場で人の手に渡るたびに、所有者の情報がブロックチェーン上に記録されることとなる。

早川書房の取り組みに注目する出版社が多数

早川書房執行役員
執行役員の山口晶氏

 書籍の著者の多くは、これまでテキスト情報のみで表現をしてきたはずだ。一方でNFT電子書籍は動画、音声、画像もセットで提供できるところが強みとなる。NFT電子書籍について著者はどのように受け止めているのだろうか。

 「新たな取り組みとなるが、総じてポジティブな意見をいただいている。著者や編集者の工夫次第で新たな読書体験がどんどん広がっていく」(山口氏)

 一方で、「NFT電子書籍付」のハヤカワ新書が今後活発に流通するかどうかは、出版業界全体の動きによるところも大きい。山口氏は「当社1社だけでNFT電子書籍を盛り上げていくのは難しい。『ハヤカワ新書』が良い事例となり、どんどん他社に参入してきてもらいたい」と意気込む。

 61日に開催したNFT電子書籍付き新書の記者発表会には、約120名が集まったが、内半数が出版社の参加であったことからも注目度が伺える。

 山口氏によれば、紙の書籍でページ数を増やすとなるとコストがかさむが、NFT電子書籍の特典として動画や音声、画像などの特典を付けてもさほどコストはかからないという。その上で、「NFT電子書籍への参入障壁は低い。しかも、これまで存在しなかったゼロからのマーケットであることから、市場が活発化すれば業界にとって大変明るい話題となる」と期待を込める。

 7月には4冊、8月には3冊の「NFT電子書籍付」の新書の発刊が予定されており、その後は各月で販売していく。

 「文字だけでなく映像を含めて出していこうと動いており、アーティストとのコラボレーションなどさまざまなアイディアも出てきている。新書という領域を超えて、SF小説にその作品が原作となっている映画を付けるなど、可能性は無限にある」(同)

 NFT電子書籍は、読者にとっても出版社や著者にとっても、新たな本の在り方を考える大きなきっかけとなりそうである。

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