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ファーストリテイリングと国連難民高等弁務官事務所との、知られざるパートナーシップ

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年7月16日 20時55分

あらためて「難民」とは、「人種、宗教、国籍、政治的意見など様々な理由で、自国にいると迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れ、国際的保護を必要とする人々」を指している。そこには紛争や暴力だけでなく、気候変動や自然災害の影響で、国境を越えて避難せざるを得ない人々も含まれており、その数は世界中ですでに1億1000万人に達している。
ファーストリテイリングは2001年から難民キャンプへの衣類寄付を開始し、2011年にはアジアの企業で初めて、国連難民高等弁務官事務所(以下、UNHCR)とグローバルパートナーシップを締結した。両者のパートナーシップについて、ファーストリテイリング広報部部長でサステナビリティコミュニケーションを担当するシェルバ英子氏と、UNHCR駐日事務所の広報官である守屋由紀氏、民間連携担当官の櫻井有希子氏に取材した。

UNHCRの2人のキーパーソン

 櫻井氏はUNHCRで民間連携を担当している。上司はジュネーブにいるが、櫻井氏はファーストリテイリングのカウンターパート(受け入れ担当者)として日本に駐在している。UNHCRの資金調達の90%は政府からであるが、政府以外に、個人の民間人や一般企業、財団や宗教団体などと連携し、資金調達を含め、民間の様々なアイディアやイノベーションにより、難民問題の解決に結び付けていくのがミッションだ。

UNCHR民間連携担当官の櫻井有希子氏

 そしてもう一人、ファーストリテイリングとUNHCRとのパートナーシップのきっかけとなったのが、現在UNHCR駐日事務所の広報官である守屋由紀氏だ。守屋氏は1996年にUNHCRに入る。当時のUNHCRのトップは、日本人として、また女性として初の国連難民高等弁務官となった緒方貞子氏だった。当時、ジュネーブに単身赴任していた緒方貞子氏が日本に帰国する際は、守屋氏がアテンドを担当して、宮内庁や総理大臣などとの間をつないだこともある。

UNHCR駐日事務所広報官の守屋由紀氏

 2006年のある日、ファーストリテイリングから電話があった。「自分達は服を販売している会社で、お客様の着られなくなった服を回収している。十分着用できるものがあるので、難民支援に使ってもらえないか」 シェルバ氏がかけた電話をとったのが、守屋氏だ。ここから両者のパートナーシップが始まった。

服の難しさと、服の持つ力

 「難民支援の活動において、衣類はもちろん必要ですが、何でもいいというわけではなく、本当に現地のニーズに合った形で提供していただかないと難しいのです。そして輸送と保管にも莫大なコストがかかります。そういうことを考え合わせると、衣類を寄付したいというお申し出は、結果的にお断りすることがほとんどでした。ところが、シェルバさんは『お任せください! 現地にも行きますし、運送料も払います、全部やりますから』と言ってくださったのです」(守屋氏)

 ユニクロの店頭で回収された服は、洗浄して清潔な状態にしたうえで、破損のあるものは寄付ではなくリサイクル用として分別される。着用に全く問題ないものだけを選別して、さらに寄付しやすい状態にするためには、複雑な分類が必要だ。

 まずサイズ別、そして色別に分類する。そして気候に合わせて、いわゆる夏服・冬服に分類。さらに、宗教的な理由で肌を見せてはいけない地域もあるため、トップスは長袖・半袖やノースリーブ、ボトムはロング丈、ショート丈も区別する。カジュアルウェアで人気のある迷彩柄やドクロ柄などは当然、排除する。

 現地にヒアリングしながら、一つひとつ課題を解決していき、UNHCRとファーストリテイリングで協働のもとゼロから分類のルールを考えていった。今では寄付する衣類を18ものカテゴリーに分類するマニュアルが出来上がった。

難民キャンプでの打合せの様子

 そして、服を届けた後も、届けた服がどういう風に役に立っているのかを確認しに、一緒に現地へ行く。届けた服が不正に転売されていないか、現地で捨てられごみを増やす結果になっていないか、ということまで確認しているという。

 「現場・現物・現実ですよね。そこはお互いにすごく考え方の近いところです。難民の人たちが何を求めているかというのは、その場所、その時によって違うので、それを肌感覚で実感して理解するという意味で、現地へ同行していただくのはとても大事です」(櫻井氏)

 一緒に難民キャンプに服を届けていく中で、服の持つ力を改めて実感する経験もあった。

 「エルトリアからエチオピアに逃れてきた人たちのキャンプに行ったときは、8割ぐらいが男性で、緊張感があり、物騒な雰囲気でした。でも、ユニクロのカジュアルウェアに着替えてもらったら、表情が一変して、皆が笑顔になり、次々とファッションモデルのようにポージングをし始めたんです。新しい服を着ると気分が晴れやかになる、それは世界中共通なんだなと思いました。シビアな環境下だからこそ、余計に、着るもので人の気持ちが変わるということが目に見えたのだと思います」(シェルバ氏)

難民キャンプでの衣料配付に喜ぶ子供たちの様子

全社員巻き込み型の難民支援

 ファーストリテイリングで難民キャンプでの衣料配布に行くのは、サステナビリティ部のメンバーだけではない。年10人程度、本部社員や店舗のスタッフが参加している。そして、実際に難民キャンプの人たちの生活が見えると、難民問題に対して自分のできることがないか考え、行動し始めるという。

 「多くのパートナー企業様は、難民支援の現場に自ら行くことは少ないですし、行ってもサステナビリティ担当部署の方に限られます。ファーストリテイリングさんのように社内のあらゆる部署の方が参加されるというのは、他の企業様と大きく違うところだと思います。そして、日本に帰ってからも、自分たちができることを考えてくださっています。私が名刺交換したファーストリテイリンググループの社員の方は、すでに80人以上になっています」(櫻井氏)

 参加者は帰国後、店長であれば率先して日本にいる難民を雇用するようになったり、店舗スタッフであれば衣料品回収が進むようお客様への声がけを積極的にするようになったりと、自身の担当業務の中での行動が変わる。

 そして、参加したスタッフがいずれ店長になり、ブロックリーダーになり、海外の事業責任者になり、社内で活躍の場を広げていくにつれ、難民問題への意識がより多くの従業員に伝播していくことになる。

難民キャンプでの衣料配付の様子

全社が関わらないと、本当の支援はできない 

 UNHCRのパートナー企業への活動報告も、通常はサステナビリティ担当部署に報告書を提出するのみだが、ファーストリテイリングに対しては定期的に従業員向けの勉強会という形で行っている。それが、同時に難民問題についての啓蒙活動にもなっている。もちろん、はじめからそういう体制だったわけではなく、これも何年もかけて、社内に働きかけ変えてきたことだ。

 「たとえば難民の自立支援事業の一環で、昨年からバングラデシュで女性用の生理用品を作る技術指導を始めました。そうした取り組みは、生産部やデザイナーに参加してもらわないと実現できませんし、物を運ぶには当然物流部に協力してもらわないといけない。サステナビリティの部署のメンバーだけで実現できることは少ないんです。全社が関わらないと、本当の支援はできないということです。ですから、常に社内の色々な部署の人に関心を持ってもらって、自分の専門領域の中で何ができるのかを考えてもらうようにしないといけないと思っています」(シェルバ氏)

ファーストリテイリング広報部部長のシェルバ英子氏

 「ファーストリテイリングの社員の皆様の反応を見て取れると、私たちもとても励みになりますし、しっかりやらなくちゃ、と気持ちが引き締まります。先日の勉強会でも、難民支援のためのチャリティーTシャツのご担当者からお声をいただきました。その日はチャリティーのお金が何に使われたのか報告したので、『そうやって役に立っているんですね。これからも頑張ります』と言っていただきました。自分たちの活動が、社員の皆様のモチベーションにつながるのであれば、私たちもとっても嬉しいことです」(櫻井氏)

 誰でも、自分の仕事には熱意や使命感を持っている。自分でやった仕事がどこかで誰かの役に立っている、あるいはもっと人の役に立てることがある、ということを知るのは、喜びであり、誇りに他ならない。お互いにその喜びや誇りを分かち合うところに、ファーストリテイリングとUNHCRのパートナーシップの原点があるのではないかと思う。

 次回は、7月18日掲載。難民支援について、ファーストリテイリング柳井正社長の考えを取材した。

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