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営業利益の1割以上!?「リテイルメディアは、小売業の利益にどれだけ貢献するのか?」

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年9月5日 20時56分

ファミリーマート は5年後100億円の事業利益をリテールメディア事業からあげることを目標にしている(写真:ファミリーマート )

値上げ、競争激化、コスト急騰時代の小売業界において、いまもっとも熱いトピックの一つが「リテールメディア」だろう。「熱い」理由は、何よりも「新たな収益確保」が見込めるとされているからだ。実際、リテールメディアの収益は今後、小売業の利益にどれだけ貢献するのだろうか?

supparsorn/istock
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リテールメディアにまつわる2つの「真逆の」誤解

 「小売業経営者に対してリテールメディアの話をする機会が増えているが、多くの人は誤解している」

 このように語るのはPwCコンサルティング・マネージングディレクターの矢矧晴彦氏だ。

 矢矧氏によると、「リテールメディアは儲からない」という誤解だけでなく、「リテールメディアは、始めればすぐ儲かる」という誤解をしている人が後を絶たないという。

 この多くが、「デジタルサイネージを置けば、勝手にお金になる(=広告が出稿される)」と思っているケースだ。広告媒体としての「場」を提供さえすれば儲かる、と単純に考えがちだが、そもそもリテイルメディアが注目されている背景には、「従来のマスメディアにはできない良い面がある」からだ。店にただサイネージが置いてあるだけではわざわざ出稿する意味は薄い。

 「必要な顧客データが揃っていること、それによって精緻なターゲティングができること、そして広告を出した結果売れたか売れなかったかが広告ID単位(広告配信識別子)で紐づけられる、この3つがそろっていないとリテールメディアとしては成立しないし、広告主側も出稿するメリットを感じにくい」と矢矧氏は指摘する。

「リテールメディアは、儲かる」

 では、「リテールメディアは儲かるのか」

 これに対して矢矧氏は「正しく構想してビジネスを設計し、適切な投資を行えば儲けられることはウォルマート(Walmart)やアマゾン(Amazon.com)、クローガー(Kroger)など米大手小売業が良い例だ」と語る。

 例えばウォルマートの場合、複数の情報ソースから総合的に推計すると、ウォルマートの営業利益の8.9%はすでにリテールメディア事業によって創出された利益になるようだ。ウォルマートの23年1月期の営業利益(Operatiing income)は2兆8600億円(1ドル=140円換算)。その8.9%ということは2545億円にも上る。リテールメディアから得られる利益だけで、あのイオン(千葉県)の連結営業利益を軽く上回る利益を稼いでいることになる。

 さらにウォルマートのCFOは、あるカンファレンスで、将来的にはリテールメディアやマーケットプレイスからの収益、サブスクサービスの「ウォルマート+」などから得られる「非小売収益」のほうが、本業の小売収益を上回るようになるだろうと発言しているという。

 なぜ小売収益以外を伸ばす必要があるのか?結論から言えば、本業を強くし、勝ち残るためだ。ウォルマートは、高収益を実現する「オムニチャネル化」が今後の小売業の生き残る道であると捉えており、そのためにはまだまだサプライチェーンなどへの投資を必要としている。さらには販売商品の価格を引き下げる原資にすることで、いっそう店舗の競争力を高めることができる。つまり、「本業に投資し続け、成長するためにも非小売収益は必要であり、その非小売収益を稼ぐうえで、リテールメディアは有力な事業になる」(矢矧氏)いうわけだ。

 日本の小売業の場合はどうだろうか。博報堂ショッパーマーケティング事業局長の徳久真也氏は「日本の小売業も基本的に同じ。ただそもそも論として、欧米企業と比べ相対的に営業利益率が低い日本の小売業は、今後さらなる人件費、光熱費の高騰で販管費がいっそう上がっていくことを踏まえると、収益確保が難しくなってくる。事業継続のためにも、本業以外で収益を獲得する道をつくることが重要になってくる」と語る。

 勝ち残るためにも、生き残るためにも、多くの小売業にとってリテールメディアは重要な収益創出機会になりそうだ。

 

リテールメディアにいつ参入すべきか

ファミリーマート は5年後100億円の事業利益をリテールメディア事業からあげることを目標にしている(写真:ファミリーマート )
ファミリーマート は5年後100億円の事業利益をリテールメディア事業からあげることを目標にしている(写真:ファミリーマート )

 気になるのは、日本において、リテールメディア事業でどのくらい利益を上げられるかということだろう。

 正しい手順で正しい投資をしたうえでと前置き付きで、矢矧氏も徳久氏も「(ウォルマートが言うような)過半数を占めるまでには至らないと思うが、営業利益全体の1割以上の構成比は十分にめざせる」と口を揃える。

 なお、日本で先行するファミリーマートは、5年後にリテールメディアから得られる事業利益として100億円をめざすことを7月に明らかにしている(同社の23年2月期の全体の事業利益は640億円)。

 では、リテールメディア事業に参入すべきタイミングはいつなのだろうか。

 リテールメディア事業を始めたからと言って、すぐに収益化するものではなく、短くても1年以上長ければ数年という時間がかかる。一方、すでに先行して投資をしている大手企業は、リテールメディアで収益化し本業に投資をするという「フライホイール」がまわり始める時期に差し掛かっている。

 結果、リテールメディアで得た収益を本業に投資できる企業とそうでない企業との間で、おのずと競争力に差がついてくることになり、その差は「投資額の差」に比例して、年々開いていくことになる。だとすれば、できるだけはやくアクションを起こすことが重要になりそうだ。

 「リテールメディアを成功に導くにはお金も時間もかかる。早くから始める最大のメリットは正しく失敗できる期間がつくれるということだ」と矢矧氏も語る。

 リテールメディアは今後、時間の経過につれて、重要性が増すことはあっても薄れることはなさそうだ。もちろん、リテールメディアが単なるバズワード扱いされて、正しい手順と正しい投資がなされなければ、そもそもリテールメディア市場の確立さえおぼつかない。その意味では「正しいリテールメディアの始め方、取り組み方」が重要になる。次回、そのことについて解説したい。 

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