47,000時間削減は「標準化」までの通過点に過ぎない ベイシアの現場カイゼンとその狙い
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年8月22日 23時0分
ベイシアの新PBを支える「商の工業化」
その業務責任者に生産性向上について聞く
全国に130店舗を展開し、今年3月に新しいプライベートブランド「Beisia Premium(ベイシアプレミアム)」の販売を開始したベイシア。DCSオンラインでもベイシアプレミアム開発の真意と経緯について取り上げている。ベイシアプレミアムは「目利きプライド」&「商の工業化」により、高品質と低価格を両立させ永く愛されるブランドをめざしている。
ここでは、AIの画像判定による省人化、作業割当システムの導入や、マニュアル活用による47,000時間の業務習得時間削減など、さまざまな領域で現場の生産性向上を推し進めるベイシアの「商の工業化」の業務責任者であるベイシアオペレーションパートナーズ 役員待遇の鈴木伸男氏に、マニュアルを軸とした現場改革の実情を聞いた。
チェーンストアにとって、課題であり続けている「標準化」
―鈴木様が主導する「商の工業化」というのは?
鈴木 「商の工業化」とは、ものづくり・工業の優れた手法を取り入れながら、業務のあらゆるムダをなくし、合理化・効率化を追求することでローコスト体制を構築する取り組みです。
その活動の一つの成果として、マニュアル活用によって教育時間が47,000時間短縮できたというものがあります。この成果は、スタディスト主催の「Teachme Biz(ティーチミー・ビズ) Award 2022」において最優秀賞として表彰いただきました。
―マニュアルを活用しての47,000時間の削減はすごい効果ですね。
鈴木 ありがとうございます。各店舗では毎月多くのスタッフを受け入れていますし、日々の業務習得時間が短縮できると、全社的に大きな効果が生まれます。ただ、マニュアル活用の本来の目的は、業務習得時間の削減ではありません。
―学習時間削減による生産性向上が目的ではなかったのですか?
鈴木 はい。あくまで、今も「業務の標準化」がマニュアル活用の目的です。
多店舗運営をしているなら、生産性を向上し収益を上げるためには「標準化が重要だ」という声を聞かない人はいないでしょう。一方で、その標準化の基礎になるはずのマニュアルが現場でうまく活用されておらず、ずっと標準化の課題が解決に至らないというのも珍しくない話だと思います。その状況を変えたかったので、数年前にマニュアル刷新に踏み切りました。
―標準化を担うはずのマニュアル自体が、標準化の壁になっていたということですね。
鈴木 それほど標準化を左右する重要な要素だと考えています。私自身、店長時代には閉店後に時間を割いて効率の良い作業方法を自らマニュアル化し、他店舗の店長に配っていたことがあります。「こういう作業方法を皆が実践できれば、収益が向上するはず」という思いからでした。
しかし、個人の努力に依存した運用は影響範囲にも限界がありますし、フォーマットのバラつきや継続が難しいなど、長期的な標準化には繋がりにくいと感じます。
全員が2倍の速さで磯辺揚げを盛り付けられる組織の強さ
―それほど標準化を重視する背景を詳しく教えてください。
鈴木 身近な例で説明すると、ベイシアで人気の惣菜に「ちくわの磯辺揚げ」があります。磯辺揚げを盛り付ける作業は、片手でやるか両手でやるかで2倍以上の作業時間の差が出ます。惣菜以外でも、品出しの際の台車の使い方で、時間が3分の1になるような作業もあります。このような差を理解して全社のスタッフが効率よい作業をできる価値は非常に大きいです。
―学習時間を短縮することより、全員が効率的な作業ができる方が重要ということですか。
鈴木 そうです。短時間で学べることも大切ですが、効率よい作業方法を誰でも習得できることの方が圧倒的に効果は大きいですね。当社でひと通りの作業をマニュアル化してみると、大小さまざま4,000以上の作業があります。それらの日々の作業が2倍以上の時間がかかるとすると、コストへの影響は膨大なものになります。
―確かに、日々の作業への影響の方が大きそうです。
鈴木 熟練のスタッフにしかできない作業もありますが、ほとんどの作業は「知っているかどうか」で変わるだけのものなのです。先ほどの「惣菜を片手で詰めるか、両手で詰めるか」でも、スタッフの負担は変わりません。初めて教えられるスタッフが、当たり前のこととして「手際よく、安全な作業方法」を学べることに大きな意義があります。
作って満足しない、年率15%のカイゼン文化
―4,000ものマニュアルをどう揃えたのですか?
鈴木 いままでの紙のマニュアルでは莫大な作成時間が必要なので、スタディストの「Teachme Biz(ティーチミー・ビズ)」というマニュアル作成・共有システムを導入しました。まずは、トライアルも兼ねて小型店舗の「ベイシアマート」から、店長経験のある本部社員数名でマニュアルを揃えることにしました。ツールを使えば、動画であっても簡単にわかりやすいマニュアルを作ることができます。ただ、全てを動画にする必要はなく、静止画でもわかりやすいマニュアルがサクサク作成可能で、手軽に量産ができました。
しかし、「ベイシア」全店舗に利用拡大する際には、さすがに作成人数が限られる本部スタッフだけでは非常に時間がかかることがわかったのです。そこで発想の転換をして「作るのが簡単であれば、スーパーバイザーに作ってもらおう」と運用方針を変えました。ベイシアのスーパーバイザーは店舗部門マネジメントの役割も担い、現場作業にも精通しているからです。
―作業に詳しい人がマニュアルを作ることにしたのですね。
鈴木 そうです。現場の責任者にWordやExcelでマニュアルを作ってもらうのは難しいですが、簡単にマニュアルを作ることができるツールであれば、現場でも作れるだろうと考えました。本部は、全体の統一感を作ったり、細かなサポートに徹することで、マニュアルを揃えるスピードも一気に上がりましたね。
―現場目線のマニュアルも増えそうですね。
鈴木 おっしゃる通り、現場からも評判が良くなりました。さらに、各部門が積極的に関わるようになってから、現場からのコメントも集まりやすくなり、検索履歴を参考にして、マニュアルの改善も進められるようになりました。
―揃えて終わりではないのですか?
鈴木 今は、積極的に改善を進めています。各部門に「年15%のマニュアル改定」を目標に、作業自体を改善したり、より伝わりやすいマニュアルにしたりと、改善活動に取り組んでもらっています。時代も進化していきますし、現場から新鮮な意見もたくさん集まってくるので、標準作業も常にアップデートすることで業務効率の継続的な向上とともに、形骸化も防止できます。
業務が可視化できれば、作業割当や人事評価まで変えられる
―製造業の「カイゼン」活動のようですね。そのほかに取り組んでいることはありますか?
鈴木 もっと積極的な作業改善を進めるため、今年だけで既に2回目のマニュアルコンテストを開く準備をしています。年始に行った1回目では、複数の店舗から「この作業は無くしても問題ない」という提案があり、グランプリとして表彰しました。
―作業が可視化されているから、無くす作業も見つけやすいのでしょうか。
鈴木 そうだと思います。「Teachme Biz」は簡単に更新できるので、本部側も積極的に声を取り込みやすいです。作業が可視化され、標準化されることで、さらに次の一手も打てています。
―どのような取り組みですか?
鈴木 たとえば、作業割当システムの活用です。だれもが標準作業をできるようになり、店舗・人による作業のバラつきが減ったので、作業時間を予測しやすく、現場の実作業に合わせた業務割り当てが可能になりました。
―標準的な作業が定まっていないと、予定を立てにくいですね。
鈴木 そうなのです。実作業に合わない予定を組むと、結局すぐれた作業方法が実行されないですからね。さらにその先には、平等な評価につなげたいと思っています。作業割当システムで時間ごとの作業を指示し、紐づけられたマニュアル通りに作業できればちゃんと評価される一連の業務フローを確立させるという取り組みを始めました。経営陣の合意を取り付けることもできたのは、作業の標準化にまず着手したからだと思います。
―ありがとうございます。最後に一言お願いします。
鈴木 「Teachme Biz」はマニュアルとしての活用に加えて、経営層の会議を共有したりと、当初想定していなかったような情報インフラとしても機能を発揮し始めています。あのとき全社としてマニュアル刷新による標準化に正面から取り組んだからこそ、いま様々な現場の改善に着手できています。
当社は創業来「より良いものをより安く」という理念を掲げ経営を行ってまいりました。衣食住といった生活必需品で少しでも良いものを提供し、貢献したいと考えています。
今後も標準化と現場改善を進め、”For the Customers(すべてはお客様のために)”を追求してまいります。
マニュアルシステムで小売業の人時生産性向上を叶える
「Teachme Biz(ティーチミー・ビズ)」についてはこちらから
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