広島の超人気直売所に学ぶ、生産者・店舗・お客「三方よし」のビジネスモデル
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年8月30日 20時59分
地元の新鮮な食材や加工品が並ぶ農産物直売所。観光のついで、あるいはそれ自体を目的に訪れたことのある人は少なくないだろう。食品スーパーなど一部の小売店は競合する存在にもなっているが、そもそも直売所の強さとはどこにあるのか。そしてそこから学べることとは何か。広島県内にある全国有数の“繁盛店”をケーススタディとして、考察してみた。
農産物直売所の数は全国で約2万4000カ所
農産物直売所は、地元農家や農業協同組合などが設置した販売施設を指す。生産者は事前に「出荷者」として登録し、原則として自ら商品を持ち込み、値付、陳列を行う。現在、全国に農産物直売所は約2万4000カ所あり、売上規模は約1兆円。そのうちJA(農業協同組合)グループが運営する直売所は約2200カ所と1割弱だが、売上規模は3割弱にあたる3600億円を占める。
そんなJAグループが運営する直売所の中でも、すさまじい集客力を誇ることで知られる店がある。広島市中心部からクルマでおよそ20分、広島市安佐南区にある「とれたて元気市広島店」(以下、広島店)だ。
同店を運営するのはJA全農広島県本部(安藤重孝県本部長:以下、JA全農ひろしま)。周辺には食品スーパー(SM)をはじめ競合する小売店も少なくないが、21年連続で売上、客数を伸ばし続けているというから驚きだ。ちなみにJA全農ひろしまは広島店のほかに「となりの農家店」を東広島市で営業しており、こちらも繁盛店となっているが、本稿では広島店をメーンにレポートする。
「広島県産のみ」を取り扱い、年商は13億円超
広島店はJAによる“地産地消実践の場”として2001年10月に開業。その後21年10月に大規模改装を経てリニューアルオープンした。売場面積は840㎡、200台の駐車場を備える大型直売所だ。
22年度の年商は13億2000万円、売上高構成比は大まかに、青果物(野菜、果物、花き)で約50%、精肉、鮮魚で約20%、その他約30%となっている。単価の低い青果が圧倒的であるにもかかわらず、平均客単価はおよそ2200円に上り、1回の購入点数が多いことがうかがえる。
さらに驚かされるのが、野菜、果物(イベント時除く)、米、卵、牛肉、豚肉については、1年中「広島県産のみ」を取り扱っていることだ。とくに野菜については市場仕入れゼロで、100%出荷者の持ち込みで売場を形成している。その土地での収穫量が限定的であったり、そもそも産地でない場合などは、地域外から商品を供給して品揃えをカバーする直売所も少なくない。しかし「とれたて元気市」では広島県産にとことんこだわっているのだ。
あえて目立つところに荷捌き場を設置する理由
筆者が広島店を訪れたのは今年6月末、大雨に見舞われた平日の午前中のこと。事前に「雨の平日はお客さまの数は少ないですよ」と聞いていたので、条件の悪い日に来てしまったなと思いつつ、少し閑散とした売場を想像していた。しかし現地に到着すると、駐車場は7割ほど埋まっている状況。売場内も悪天候で人通りの少ない外とは裏腹に、多くのお客でにぎわっていた。
現地に到着してまず目に入ったのは、生産者が荷捌き場に軽トラックを横付けし、商品を搬入している様子である。一般的な食品小売店であれば店舗の裏手など目立たないところに納品場所を設けているが、広島店ではあえて店舗正面に近接した場所に荷捌き場を設け、入店前から商品の鮮度感をお客に伝える工夫を凝らしているのだ。
そして売場は、主通路を時計回りにして青果・花きから始まり、精肉、鮮魚、加工食品、総菜、カフェと続くレイアウトとなっている。各部門で新鮮な商品が所狭しと並ぶ一方、販促物は部門名を示すサインやいくつかの吊り下げ看板、ポスターなどにとどまり、商品のシズル感を阻害しないようにしている。その中で次々と来店するお客の多くは買物カートを手に取り、最初からカゴを2つ載せる人もいるなど、買物への“本気度”が感じられた。
「旬」と「バラエティー」を訴求する生花と青果
部門別に詳しく売場・商品をみていこう。
店内に入ってまず圧倒されるのは、入口付近に配置された花き売場。切り花が中心となっており、かつ取材時であれば「あじさい」のような、庭先に咲くような季節の花であふれているのが印象的だった。「年間で見ると6月は花きの売上が低い傾向にあるが、生産者の方に協力していただき、毎日安定して商品を販売できている。時季を問わず旬の切り花を豊富に揃えることで、お客さまから支持をいただいている」と、広島店の場長(店長)を務める東直樹氏は説明する。
青果では年間を通し売上上位である、トマト、キュウリ、ほうれん草のほか、取材時に旬を迎えつつあった枝豆が存在感たっぷりに並んでいた。また、「祇園パセリ」「ミント」といったハーブ類ももちろん地場産でまかなっているほか、広島名産の「赤しそ」は大束を10束ほど抱えるようにしてレジに進むお客もみられるなど根強い人気をうかがわせた。また果物は、やはり広島名産のレモンのほか、ブルーベリー、プラム、すもも、びわなどを豊富に展開していた。
青果は生産者が直接売場で陳列作業も行うため、生産者とお客との距離がとくに近い部門となっている。実際に売場では生産者、店舗従業員、お客がそれぞれ話し込む様子も見られた。そうした密なコミュニケーションが生まれるなかで、「ほうれん草1つとっても、『○○さんのほうれん草』を求めて来店されるお客さまも多い」(東場長)という。
精肉・鮮魚も「広島県産」を徹底的にアピール
次に精肉売場では、「JAのお肉屋さん」と銘打ち、「広島和牛」「お米(マイ)ポーク」などを中心に広島県産の銘柄肉を豊富に展開。一部商品は対面販売も行い、好みのカットやギフトセットの注文なども受け付ける。
また、青果と精肉では、JA全農ひろしまが推奨する耕畜連携資源循環ブランド「3-R(さんあーる)」の商品も各所で訴求する。これは生産過程で資源循環型農法を取り入れた商品をブランド化したもので、前述の「お米ポーク」も含まれる。「3-R」商品についてはパッケージにブランドシールを貼付するほか、青果売場ではコーナー展開するなどして、「地域の環境と未来を守る」ことの重要性を商品を介して伝えている。
鮮魚売場も、瀬戸内海を望む広島県ならではの豊富な種類の地魚を展開。毎週火曜日と金曜日は尾道からの産直品が並び、取材時(金曜日)も「本メバル」「コロダイ」「あこう」「生穴子開き」「舌ビラメ」などを販売していた。
また、これら新鮮な魚介類を使った刺身の盛り合わせや、寿司、巻き寿司、ちらし寿司などの加工品・総菜も訴求。地魚の刺身が詰め込まれた「瀬戸内盛合わせ」を試食したが、個々の魚の味わいが濃く、旨味たっぷりであった。
そこから続く総菜売場では、広島と言えば…の「お好み焼き」や、広島牛を使った「焼肉弁当」、季節野菜を使ったカレーなどを展開。総菜についても“広島色”を前面に打ち出した商品構成となっている。
「ここで売るのが楽しいのです」 生産者とお客をつなぐ場としての直売所
ここまでを見て、魅力的な店であることは十分ご理解いただけただろう。しかし気になるのは、生産者との関係を良好に維持しながら、年間を通じて安定的な品揃えを保つ秘訣はどこにあるのか、という点だ。
生産者にとっては直売所以外にも販路はいくつもあり、しかも直売所の場合自ら商品を運び込み、売場に陳列し、在庫の把握や追加納品も行わなければならないという手間がかかる。さらに広島店周辺はベッドタウンであり、決して産地とは言えない立地。いわば“都市型直売所”であり、安定した量・種類の地場産品を展開することは難しいようにも思える。
そのヒントを明かしてくれたのは、取材時、サラダ水菜を陳列していた生産者の山田さんだ。
「他の生産者の水菜は110円だけど単色、うちのは150円だけど茎が赤と緑の二色。カラフルだからサラダにしてもきれいでしょう」――。山田さんは異業種から農業の世界に飛び込んだ。当初は市場出荷がメーンだったが、「出荷して終わり」という単調さに物足りなさを感じていたところ、知人から「とれたて元気市」を紹介されたという。
「ここならば自分で育てたものを自分で値付けし、陳列し、お客さまに魅力を伝えながら売り込める。それが本当に楽しいのです」と山田さん。「もちろん売れない時もありますが、売上データと向き合いつつどうしたら売れるだろうと常に試行錯誤していたら、だんだんアイテムが増えていき、今では1年中何かしらを出荷できるほどになっています」と笑う。
山田さんのように、都市圏で農業を営む場合、少量多品種の栽培で生計を立てるケースが多い。そのため年間を通じてさまざまな品種を多少にかかわらず直接持ち込み、売り込める直売所の存在意義は大きいのである。このような事情から広島店では、その日の納品が「1品」であっても販売は可能。実際に「今日はこれしか持ち込めるものがなくてね」と苦笑しながらなすを1本だけ売場に置く生産者の方もいた。
直売所は「店舗」という形態ではあるものの、その実、生産者とお客を「つなぐ場」としての機能が大きいのである。翻って、筆者は食品小売業で「クッキングサポート」の運営や販促企画の立案など、「商品の価値を伝える」仕事に長く携わっていた。しかし「仕入れた商品」をどう訴求するかに集中しており、生産者の「喜び」や「やりがい」を創出するまでの取り組みはできていなかったように思う。そのことを深く反省した。
「お客に媚びない姿勢がよい」 お客からの意外な評価の背景
もっとも、JA全農ひろしまも、とれたて元気市の開設当初から、そうした「つなぐ場」を創造できていたわけではないという。
東場長は、「当初は出荷者の数も少なく、商品を持ち込んでもらえず、売場がなかなか埋まらない日々が続いた」と振り返る。販売イベントを実施したり、生産者とのコミュニケーションを密にしたりといった地道な努力の末、今日の“繁盛店”が出来上がったのである。
「同じ品種でも、生産者さんの間で売れ行きは変わってくる。販売に苦労されている生産者さんには直接声をかけ、販売動向や袋詰めのコツ、さらには『こんな商品を栽培してみてはどうか』といった具体的なアドバイスまでするようにしている」(東場長)。こうしたコンサルテーションも奏功し、現在では約2000人もの出荷者を抱えるまでになった。
そうはいっても、とくに青果は天候に左右されることもある。出荷者が増えたとはいえ、天気が悪ければ持ち込み量が減るし、食品スーパーのような満遍ないフルラインの品揃えはどうしても実現できない。お客から「○○はないのか」といった問い合わせもよくあるというが、「とれたて元気市がコンセプトとする『広島県産』で揃えられない場合は、その旨をご納得いただいている」(東場長)。さらに大規模災害などで長期間、一部の生産者から出荷がない場合は、「空いたスペースをあえて埋めることなく“空白”にしておく」と東場長は言う。「いつでもあなたの商品が入ってくることを待っています」というメッセージを売場で伝えるためだという。
ともすると、「きれいごと」に思えるかもしれない。しかし、こうした取り組み一つひとつが直売所と出荷者の信頼関係を強固なものにし、結果としてお客に熱烈に支持される店をつくり出しているのだ。
広島店にお客から寄せられた意見にこんな記述があったという。
「お客に媚びない姿勢がよい」――。
小売店として、顧客満足度を追求することは間違いなく重要なことである。しかし、日々食材をつくり出し供給する側の「喜び」を最大限にすることも、小売店としてまた重要な取り組みなのではないか。生産者、店、お客のそれぞれがお互いに出会い、コミュニケーションをとり、喜びを見出す。直売所はただ新鮮な地場産品を並べているだけではない。扱う商材を問わず、多くの小売店に「店のあり方」を問いただす存在であるように筆者は感じた。
■店舗情報
所在地 | 広島県広島市安佐南区大町東2-14-12 |
営業時間 | 9:00~18:00 |
アクセス |
山陽自動車道「広島IC」より約2.5km |
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