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ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年8月27日 20時55分

2006年、ユニクロは、日本を代表する素材メーカーである東レと戦略的パートナーシップを結んだ。その目的は、中長期提携方針の策定と、画期的新素材の開発だ。いまや冬用インナーウェアの代名詞となった「ヒートテック」も、東レとの素材開発から始まった。そして今、両社が取り組んでいるのが「リサイクルダウン」だ。東レ GO事業部GO事業第2室長の荒木隆史氏(以下、荒木氏)に、ユニクロと東レのパートナーシップについて取材した。

ユニクロと東レの戦略的パートナーシップとは

 東レは今年で創立97年となる、日本を代表する素材メーカーである。グループの売上2.5兆円、従業員数約5万人という規模だ。鉄の10分の1の軽さで4倍の強度を持つカーボン繊維を開発し、ボーイング社などの航空機に採用され航空機の驚異的な軽量化を可能としたことで、炭素繊維業界で世界№1のシェアを誇る。

 その東レがユニクロと取引を始めたのは、1999年。縫製品のOEMからだった。翌2000年からは縫製品だけでなく、糸や生地の開発から取り組むようになり、さらに、当時からグローバル展開を目指していたユニクロのビジネスに合わせて、東レはグローバルオペレーション事業部(GO事業部)という部署を立ち上げた。ここから、今日の両社のパートナーシップにつながっていく。

ユニクロの柳井正会長兼社長と東レの日覺昭廣代表取締役会長

 ユニクロ向けの素材開発において、東レは2003年に、身体からの水蒸気よって発熱し、またその温かさを保温するインナー素材を開発した。当初はメンズのインナーウェアとして販売されたが、翌2004年からウィメンズのインナーウェアとしても展開数を増やし、ユニクロが「ヒートテック」と名付けて大々的にマーケティングすると、爆発的に売れるようになった。

 2006年からは、お互いに戦略的パートナーシップとして長期的に取り組んでいくことを共同で記者発表し、ユニクロのオフィス内に東レの従業員が常駐するようになった。

 以来、東レがユニクロのために素材開発した代表的な商品は、ヒートテック、エアリズム、ウルトラライトダウン、ドライEX、感動パンツなど、いずれも大々的なヒット商品ばかりだ。そして、今、ユニクロと東レはリサイクルダウンに取り組んでいる。

リサイクルダウン

リサイクルダウン開発のきっかけ

 「私たちがユニクロと取り組む一番の目的は、新しい素材を提案できる場だからです」(荒木氏)

 そう語る荒木氏は、2004年に東レに入社、営業部で企業ユニフォームのテキスタイル素材を販売していたが、2013年に自ら希望してGO部に異動した。ユニクロが世界一を目指すということを聞いて、そういう会社と一緒に仕事してみたいと思ったのが希望の動機だ。

東レ GO事業部GO事業第2室長の荒木隆史氏

 ユニクロのリサイクルダウンの特徴は、一般的な「リサイクルダウン」という素材を専門業者から仕入れているのではなく、ユニクロの店頭でお客様から回収した自社のダウン製品から作られている、とうことにある。これもまた、ユニクロが自社製品の循環のサイクルを作る試みの一つなのである。

 「ユニクロのダウンでリサイクルダウンを作りませんか、というのは、もともと我々からユニクロに提案したのです。ダウンは素晴らしい素材です。我々は合繊メーカーで、合成繊維のポリエステルなどで中綿と呼ばれるようなものを開発していますが、軽さ、温かさ、着心地、手入れのしやすさなどを考え合わせると、いまだかつてダウンを超えたものはできていません。ただ、天然の羽毛には限りがあります。そこで、この有限な資源をリサイクルして、より安定的にお客様にお届けすることに価値があるのではないかと考えて、『ダウンのリサイクルを始めませんか』と提案しました」(荒木氏)

 合繊メーカーの東レから、ダウンをリサイクルする提案があったことには、ユニクロの柳井社長も驚いてはいたものの、その場で「是非やってください。お願いします」と言われたという。

 その提案があったのが2019年の4月、そこからユニクロ社内で部署横断のプロジェクトがスタートし、5カ月後の2019年9月から店頭でのダウン回収が始まった。そして2021年秋、初めてリサイクルダウンの製品が発売された。

ダウンのリサイクル工程

部署横断のリサイクルダウンプロジェクト

 ちょうどその時期、荒木氏はユニクロの生産部に出向していた。しかし、東レにとってもユニクロにとってもリサイクルダウンを製品化するのは初めてのことである。東レからの要望により、ユニクロ社内に部署横断のリサイクルダウンプロジェクトチームが立ち上がる。

 関係する部署は、MD(マーチャンダイザー)、生産部、品質チーム、デザイナー、パタンナー、マーケティング部、営業部、法務部、サステナビリティ部など、多岐に渡った。

 「苦労したことと言えば、全部です。とにかく、東レもユニクロも、経験したことのない仕事ですから。我々の普段の仕事の範囲は、『糸を作って、生地にして、服にする』というところまでです。ですが、そのプロジェクトでは、マーケティングや倉庫の賃料、輸送のコスト計算などのシミュレーションも、ユニクロの皆さんと一緒にやらせていただきました。それまで自分のやってきた仕事とだいぶ違う領域でしたので、かなり苦労しましたが、もっとも印象に残る仕事になりました」(荒木氏)

 「特に難しいのは、どれくらいのダウン製品を回収できるか、というところです。ダウンのアウターはユニクロの中でも比較的高価ですし、それほど頻繁に買い替えることがないためか、回収量が多くはありません。そこは大きな課題の一つで、どういったことができるかをユニクロと話し合っています」(荒木氏)

一緒に成長できるサステナブルな関係

 同時に、東レ側では、回収したダウン製品から羽毛を取り出すマシンを開発した。取り出した羽毛を洗浄し、ダウンとフェザーに分離させ、その混率を調整して、新たにリサイクルダウンの製品を縫製する工場に納品する。

 「ダウンを取り出す機械や、ダウンの分離器まで作るなんて、東レでも普通はできないことです。やはり戦略的パートナーシップを結んでいるユニクロとだからこそ、我々もこういったことに挑戦できる。それが、ユニクロと一緒に仕事する醍醐味です」(荒木氏)

東レ GO事業部GO事業第2室長の荒木隆史氏

 「今後、素材がサステナブルであることは、特別な商品や一部のアイテムに限られたことではなく、“基本装備”になると考えています。東レとしては、感動できる商品、感動を大きくできるような素材を提案していきたい。ただ、それを世界中のたくさんのお客様に届けられるのは、ユニクロとだからです。ユニクロが世界一を目指すのであれば、僕らは世界一の素材を作らなくては、と思っています」(荒木氏)

 ユニクロとパートナーシップを結んでいる取引先は、もちろん東レだけではない。もともとジーンズブランドやスポーツブランドのカジュアルウェアを仕入れて販売していたユニクロが、自社ブランドの製品を作り始めたのは1992年からだ。30年以上取引のある工場の中には、いまや中国でもトップクラスの大企業になっているところもあるという。

 取引のある素材メーカーや工場の多くが、ユニクロと長期に渡るパートナー関係を結び、共に成長している。取引先とサステナブルな関係を築いていることこそが、ユニクロのビジネスを支えている。

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