売上1000億円超!ノースフェイスのゴールドウインが自社ブランドを強化する理由
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年9月20日 20時59分
コロナを機に、アウトドアブランドの好調が続いている。ゴールドウイン(東京都/渡辺貴生代表取締役社長)の2023年3月期連結業績の売上高は、対前期比17.1%増の1150億円。初の1000億円超となった。当期純利益は209億円(同46.2%増)で当期純利益率は18%を超える。今年に入って株価も高値が続き、株式市場からの評価も高い(23年8月25日終値ベースで、時価総額4827億円)。絶大な人気を誇る「ザ・ノース・フェイス」はもちろん、自社ブランド「Goldwin(ゴールドウイン)」より環境に配慮した素材にこだわる新プロジェクト「Goldwin 0(ゴールドウイン ゼロ)」にも大きな期待と注目が集まる。ゴールドウインの強さとは。今後描くビジョンとは。取締役専務執行役員の森光氏に話を聞いた。
「値段以上の価値があるか」「かっこいいか」にこだわる
ゴールドウインは、自社ブランドである「Goldwin」のほか、「ザ・ノース・フェイス(以下「ノースフェイス」)「ヘリーハンセン」「エレッセ」「カンタベリー」といった人気ブランドの商標権をもち、日本独自の商品を製造、販売しているスポーツアパレルメーカーである。
売上が伸びているのは、コロナ以降、これまでアウトドアに縁がなかった人がキャンプをはじめたり、アウトドアでのレジャーを楽しむようになったことが大きい。
取締役専務執行役員の森光氏によると、「好調な売上を牽引しているのはノースフェイス。アパレルが安定して支持を得ているが、キャンプブームが続きテントをはじめキャンプグッズの売上が好調で、冬のウィンターブーツも人気。幅広いカテゴリーの商品を購入いただいている」
さらに、市場からの評価については「コロナを機により多くの人がスポーツに親しむようになった背景を受け、ブランド力があって今後も順調に成長していくだろうとの予測があるからだろう」と話す。
ノースフェイスの原宿、渋谷エリアを中心とした大都市店舗では、全体の売上に対してインバウンド客が占める割合が高い。昨年秋からインバウンド客が戻ってきたことも売上が伸びた要因の一つだ。
「日本独自に開発、生産しているので、海外からのお客さまは、日本製品ならではのディテール部分のこだわりを高く評価して購入している」とのことだ。
アウトドア志向の強まり、インバウンドの回復が大きな追い風となっているものの、ノースフェイスをはじめゴールドウインが取り扱うブランドの強さはどこにあるのか。
「長年ものづくりの会社としてやってきているので、買ってくれたお客さまの期待を裏切らない製品であることが強みだと思っている。私たちが製品開発で一番に考えるのは、値段よりも良い価値を提供できるか。また、ブランドの価値として一番に考えるのは、平たく言うと、そのブランドがかっこいいか。これが重要だと考えている」
店舗数拡大より1店ごとに異なるコンセプトを打ち出した店舗展開
ゴールドウインは、店舗展開においても強いこだわりがある。2022年11月、恵比寿ガーデンプレイスにオープンさせたのは、キッズアイテムを横断して展開する初業態「PLAY EARTH KIDS」、キャンプをテーマにした「THE NORTH FACE CAMP」、日々の心と体のメンテナンスをテーマにした「NEUTRALWORKS.」の3つだ。関東最大面積を誇り、それぞれが異なるテーマをもった複合店舗となる。
さらに、旗艦店を構える原宿エリアでは、これまでも山登り、キャンプ、ライフスタイル、キッズなどカテゴリーごとに店舗をつくってきたが、2022年7月には新たにランニングを中心にアスレチックをテーマとした「THE NORTH FACE Sphere」をオープン。ノースフェイスファンを飽きさせない店舗づくりを続けている。
一方、売上は好調だが、店舗をどんどん増やすつもりはない、というのが同社の方針だ。
森氏は「同じようなコンセプトではなく、それぞれに特徴がある店舗をつくっていくのが当社の考え。同じものを横展開するより効率は悪いが、そこにしかない雰囲気、価値を提供することで、個々の店舗の個性をより際立たせていく」と話す。
さらに、「都会で人の交通量が多いところだけに出店しているわけでもない。長野県の白馬村にノースフェイス、石垣島にヘリーハンセンを出すなどしているが、より自然に近い場所にテーマ性のある店舗も出していく」
「Goldwin 0(ゴールドウイン ゼロ)」で自社ブランドの差別化を狙う
世界の名立たるブランドの商標権を有している同社は、2023年1月から、新たにスウェーデンの電動バイクメーカー「CAKE 0 emission AB」が展開するブランド「CAKE」の販売をスタートした。CAKEの特徴は、環境負荷に配慮した製法でつくられ、CO2を排出しないクリーン、サステナブルなバイクであるところだ。
「環境配慮型の商品の企画は、当社が以前から取り組んできたことでもある。最近の若い世代は、消費行動においてポリシーをもっていて、特に環境、社会貢献の意識が高いので、そこをしっかり伝えていかないと商品として支持されなくなる」
「今後も取り扱うブランドは増やしていく」とする同社であるが、ブランドを見る上で大切にしているポイントは、「社会的意義があること、デザイン性が高いこと、マーケットに将来性があることに加えて、環境配慮などの同じビジョンを共有できるかという視点」だという。
一方で、「今後はグローバルに販売を拡大できる自社ブランドの強化が必要となる」と森氏は言う。というのも、ノースフェイスの商標権は日本国内と韓国のみに限られ、それ以外のライセンスブランドは日本での展開に限定されているからだ。
「ゴールドウインブランドはまだまだ海外マーケットで伸びていない。伸びしろのある海外で自社ブランドを成長させることが必要だ」
最も成長を見込んでいるのが、ファッション性とスポーツ性をミックスさせた、よりファッション要素が強い新プロジェクト「Goldwin 0(ゴールドウイン ゼロ)」コレクションだ。この「ゴールドウイン ゼロ」が世界中から大きく注目されているのは、スパイバーが開発する環境に優しい構造たんぱく質素材「Brewed Protein繊維」を使用している点。
「Brewed ProteinTM繊維を使ったジャケットやTシャツはこれまでも販売してきたが、なかなか大量生産ができなかった。量産化の目途がたったことで、2023年秋冬シーズンでは自社の4ブランドから世界同時販売する予定」
環境配慮に徹底してこだわり、新素材、新機能開発を目指していく
これまで一貫して環境配慮型の製品の企画、開発を続けてきたゴールドウインは、環境に負荷のかからない構造たんぱく質素材「Brewed Protein」を開発するスパイバー社と共同開発を続けている。
繊維、素材の開発となると10年以上の長い期間を要するが、「環境に配慮した社会、循環型社会の実現に向けて一歩一歩真剣に取り組んでいることを伝えていきたいし、季節ごとに新しいコレクションを発表することで多くの人に注目してもらう場としていきたい」と意気込む。
中期経営計画で環境負荷低減素材の推進、リペア・リサイクル事業の推進、カーボンニュートラルに向けた取り組みの強化を掲げる同社は、2023年4月、社内に独立した開発本部を新設した。
新たな開発部門に期待されているのは、「直近の展示会に向けた企画、開発を進めるのではなく、サステナブルな社会に向けて長期的な素材開発、技術開発を進めていくこと」と話す森氏。目先のトレンドにとらわれず、他社にはない優位性をもつ素材や機能の開発を目指すことで、唯一無二のスポーツアパレルメーカーとなるビジョンを描いている。
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