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服に愛着を生む リ・ユニクロスタジオのリペア&リメイクサービスとは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年9月3日 20時55分

ジーンズ刺し子

ユニクロは、2022年10月より、店舗に持ち込んだ服を店内で加工して、刺繍や刺し子でリペア、リメイクするサービスを始めている。「RE.UNIQLO STUDIO(リ・ユニクロスタジオ)」と呼ばれる、このインストアのリペア工房は、国内ではまだ「世田谷千歳台店」(東京都世田谷区)、「前橋南インター店」(群馬県前橋市)、「天神店」(福岡県福岡市)の3店舗に限定したサービスだ。「商品を販売する」ということが最優先されていた店舗でのオペレーションに対し、手間をかけて服をリペアするというサービスを始めた背景は何なのか。RE.UNIQLO(リ・ユニクロ)の運営を担当するファーストリテイリング サステナビリティ部グローバル環境マネジメントチームの花田彩氏(以下、花田氏)に取材した。

衣料回収活動を「RE.UNIQLO」としてリブランディング

 花田氏は、2019年に入社した。前職の飲料メーカーでミネラルウォーターのブランドマネージャーをしている間に、ペットボトルの循環型リサイクルについて問題意識を持ち、こういう仕事をメインにしていきたいと思ったときに、転職先として候補に挙がったのがファーストリテイリングのサステナビリティ部だった。

 入社当初は、サステナビリティ部でマーケティングを担当した。その中で最も大きな取り組みとなったのが、それまで10年以上取り組んできた店頭での衣料回収プロジェクトを、「RE.UNIQLO」としてリブランディングしたことだ。回収した服はリユースし、難民キャンプや被災地への緊急災害支援など、世界中の服を必要としている人たちに届けるほか、リユースできない服は燃料やリサイクル素材として活用する。さらに、服から服へのリサイクルとして、ダウンのリサイクルを開始した。

 服の第二の人生の道筋を作るこれら一連の活動を、「RE.UNIQLO」と名付けた。リブランディングの目的は、新しくロゴを開発し、店舗の衣料回収を呼び掛けるポスターや回収ボックスなども一新して、再度お客からの注目度を上げ、より積極的に参加してもらうことだ。

ファーストリテイリング サステナビリティ部グローバル環境マネジメントチームの花田彩氏

RE.UNIQLO」とは

 「『RE.UNIQLO』とは、お客様に服をできるだけ長く着ていただき、最後はそれを店舗に持ってきて、リユース、リサイクルしていくという活動全体を指しています。活動の中で、服を長く着ることをサポートするサービスの一つとして『RE.UNIQLO STUDIO』という店頭での服のリペア/リメイクサービスを開始しました」(花田氏)

 「お客様が服を捨てる理由は、大きく分けて2つです。一つは、物理的に破れたり、縮んだり、穴が開いたり、シミがついたりして着られなくなったとき。もう一つは、物理的には問題なくとも、飽きてしまったときです。RE.UNIQLO STUDIOは、その両方をできるだけカバーするために、リペアとリメイクというサービスを提供しています」(花田氏)

 たとえば、破れた服は、店内のミシンを使ってクイックにリペアする。最も簡単な補修は500円からと手ごろな料金設定だ。また、リメイクは、刺繍や刺し子のデザイン見本の中からお客に選んでもらい、かかる予算も相談しながら、オーダーメイドで作っていく。

リペアのサンプル
リペアのサンプル

ドイツから始まった、RE.UNIQLO STUDIO

 「RE.UNIQLO STUDIO」の原型となるリぺアサービスは、2021年8月、ドイツの「タウエンツィーン店」で始まった。当時、ドイツのサステナビリティ部のスタッフが、服を長く着る取り組みをしているNGOと一緒に、服を修理、リメイクするワークショップを行っていたのが始まりだ。

 たった1店舗で行ったワークショップだが、その情報が社内に共有されると、全世界のユニクロに波及効果があり、翌年にはニューヨークのSOHOにある店舗で有料のリペアサービスを開始した。

 2022年4月にロンドンのリージェントストリートに旗艦店舗がオープンした際にも、リペアとリメイクサービスのコーナーは、目玉コンテンツとなった。当時ロンドンで、日本の伝統的な刺繍の手法である「刺し子」が流行り始めており、それも手伝って注目を集めた。

リージェントストリート店のリ・ユニクロスタジオ

 「元々、日本の刺し子という刺繍の手法には、古くなった作業着などをお金をかけずに補強して長く着ようという、生活の中で生まれたサステナビリティの思想があり、その考え方がヨーロッパで注目され始めていたんです。日本の伝統の技術とサステナビリティ、だったらユニクロがやるしかないんじゃないか、と思いました」(花田氏)

 ドイツの個店の施策だった活動が、SOHO、ロンドン……と広がっていくというのが、グローバルに展開するユニクロのダイナミズムだろう。その後、世界各地でそれぞれ行っていたリペアサービスをフォーマット化して、お客に提供できるようにするため、2022年9月に「RE.UNIQLO STUDIO」としてブランディングした。

 「欧米では、Right to repair(修理する権利)ということが重要視され、お客様が自分の判断で商品を修理できるよう、企業がサポートや情報を提供することが法律化され始めています。もちろん、車や家電の方が進んでいるのですが、ユニクロでは服でも同様に対応していきたいと考えています」(花田氏)

RE.UNIQLO STUDIOのロゴ

日本では、ユニクロ世田谷千歳台からスタート

 日本では、2022年10月に世田谷千歳台店に初めて「RE.UNIQLO STUDIO」ができた。当初は2023年3月いっぱいまでの期間限定のサービスとして始まったが、利用者も多く好評だったため、常設することが決まった。

 「世田谷千歳台店は、都内の大型店でありながら、地元密着型のロードサイド店で、ユニクロの中では珍しい立地にあります。日本でもトップに入るくらいリサイクルの回収量が多い店舗で、お客様も着なくなった服を持ってくる行動が根付いていたため、まずこの店舗から始めました」(花田氏)

 前提として、ユニクロでは従来から店舗でジーンズなどパンツ類の裾上げなど、ミシンを使った補正作業を行っていたという背景がある。そのため、ユニクロの店舗には補正のインフラと技術があり、スタッフにも、その場で服を補正すること自体には抵抗がなかった。店長に打診した時も、二つ返事で「自店でやります!」と言ってくれたという。

 始めてみると、予想以上に大きく破損したものが持ち込まれることがわかった。たとえば握りこぶしほどの大きな穴が開いたニットや、手の平ほどの大きさの穴が複数あいたジーンズなど。ここまでボロボロになったものを本当に修理してまで着るのだろうか?と思うようなものもあった。

 「でもスタッフたちは、どんな商品が持ち込まれても、まったく躊躇せず、こういうお客様がいらっしゃるので次はこうしよう、と、どんどん積極的にオペレーションを考えていってくれたんです。たとえば、ジーンズの穴は同時に複数か所あいていることが多いので、2か所以上の場合は値引きしよう、とか」(花田氏)

 世田谷千歳台店の期間限定サービスの目的は、なるべくたくさんのケースのデータを集め、お客の声を吸い上げ、全国の店舗に広げていくフォーマットを作ることにあった。店舗スタッフも、その目的を十分に理解していたのだろう。

ユニクロの服は愛着をもって長く着られている

 もっとも予想外だったのは、お客がユニクロの服を長く着ていることだ。

 「8年、10年と着て、穴が開いたり破れたりしているのに、それでもまだ着たいと思って、『RE.UNIQLO STUDIO』に持ってくるお客様がたくさんいらっしゃいました。10年以上前に2990円で買われたジーンズを持って来られたお客様は、全部直したら1万円近くかかってしまうとお伝えしたのですが、『それでも気に入っているから直してほしい』と言っていただけました。ユニクロの服を大事に着ていただいているお客様がこんなにいらっしゃったんだとわかり、感動しました」(花田氏)

 お客の自社商品への愛着を目の当たりにするのは、ブランド側にとって、新しい服を買ってもらう以上に嬉しいことなのではないだろうか。

 修理するリペアだけでなく、刺繍などのリメイクも人気だ。

 「刺繍サービスは、100種類くらいの図案と文字の中から選んでいただくのですが、小学生のお子様からご年配の方まで、楽しんでいただいています。たとえば、3人くらいで来て、皆でお揃いの刺繍をしたり、同じ商品にそれぞれ好きな刺繍を入れたり。毎月、自分の好きな言葉や登った山の名前を入れられる方もいらっしゃいます。服で共通の思い出を作れると、また長く大切に着ていただけるのではないかと思います」(花田氏)

ニット、シャツ、ジーンズ、バッグの刺繍
ニット、シャツ、ジーンズ、バッグの刺繍

 「難しかったのは、やはり、オーダーメイド的なものをどうやってパッケージ化して広げていくかということです。まず、専門家の方に、一番簡単で誰でもできるような方法を作っていただいて、それを自分で実際やってみて、本当に誰にでもできるのか、どのくらいの手間がかかるのか、一つ一つの作業に何分かかるのか、自分たちで全て検証しました」(花田氏)

 そして検証後、店舗に行ってスタッフたちに、自らが講師となってトレーニングする。トレーニングでは、リペアやリメイクの作業に入る前に、まず、これは何のために取り組んでいるのかということを理解してもらうことから始める。それを理解してもらうと、あとは実際のお客とのコミュニケーションの中で、スタッフたちがどんどん自走し始めて、新しいメニューやサービスを考えだしていくのだという。

今後の展開の予定は

 日本国内ではまだ世田谷千歳台店、前橋南インター店、天神店の3店舗にしかなかった「RE.UNIQLO STUDIO」だが、今年9月には新たに6店舗での展開が決まり、9店舗に拡大する。

 9月4日に 「銀座店」(東京都中央区)、「UNIQLO TOKYO」(東京都中央区)、9月8日に「東急百貨店さっぽろ店」 (北海道札幌市 ※新店)、9月15日に「 あべのキューズモール店」(大阪府大阪市)、そして9月19日には「浅草店」(東京都台東区) 、「御徒町店」(東京都台東区)と、次々と「RE.UNIQLO STUDIO」が増えていく予定だ。

 現在800店舗を超える日本国内のユニクロ店舗のうち、わずか1%強ではあるが、海外からの観光客が急増している都心の大型店も含まれ、その波及効果はきっと大きなものになるだろう。

前橋南インター店でリペア作業中の花田氏

 「いまのところ、『RE.UNIQLO STUDIO』はあくまで、店頭で提供するサービスの一環でしかありませんが、今後の目標は、この活動を事業化し、さらに拡大していくことです。難しいことも多いですが、社内でもいろんな部署の方が注目し、自発的にこの事業に関わろうとしてくれているので、とても心強いです」(花田氏)

 小売店の従業員は通常、マニュアル化された効率的なオペレーションで動いているため、イレギュラーな作業が発生することを嫌がるものだ。ユニクロでもそれは同様と思っていたが、花田氏の話を聞いていると、実際の現場の雰囲気はまったく違うことに気づく。自ブランドの製品への愛着を育む活動は、何よりも店舗スタッフたちを動かす原動力になるのだと実感した。

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