敷地内薬局の不正入札でアインファーマシーズ社長逮捕、2024年度診療報酬改定に影響必至!
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年9月4日 20時56分
まさに業界が激震に見舞われた。8月31日午後3時過ぎ、一般紙が一斉に報じた。北海道警察はKKR札幌医療センターの敷地内薬局を巡って、同センターの元事務部長とアインファーマシーズ(北海道)の社長および取締役を逮捕。親会社アインホールディングス(北海道)は最大手の調剤チェーン企業で、代表取締役専務の首藤正一氏は日本保険薬局協会(東京都)の会長を務める。2024年度診療報酬改定の議論が進むなかの大事件だ。
容疑は「偽計入札妨害罪」「公契約関係競売等妨害罪」
実はマスコミ報道の数日前から、日本薬剤師会(東京都)や厚生労働省保険局医療課に「敷地内薬局のイロハについて、いくつもの一般紙記者から問い合わせがあった」という。道警記者クラブでは「逮捕Xデー」は秒読みだったようだ。
事件は2020年11月から12月頃、KKR札幌医療センターが敷地内薬局開設に向けて実施した公募入札に関して起きた。元事務部長がアインファーマシーズに有利となる非公表の情報を漏らしたとして「偽計入札妨害罪」に、またアイン社長らは不正に取得した情報で優先交渉権を得て21年の薬局開業につなげた「公契約関係競売等妨害罪」の容疑を受けている。元事務部長は同センターの事務方トップ。アイン社長は親会社アインホールディングスの常務取締役でもある。道警は金品の授受など贈収賄を含め捜査を進めている。
報道を受け、アインホールディングスは8月31日午後4時半にリリースを公表。「厳粛に受け止め、当局の要請に誠意をもって対応する」と今後の捜査に「全面的に協力」する姿勢を示した。同時に、アインホールディングスの大谷喜一社長は社員に限定してメッセージを発信した。
「大変驚かれ、落胆されたと思います。まずは、報道がなされたことにお詫びします」と始め、捜査への協力を示し、「それよりもまず真っ先に、私自身の言葉で皆様にお詫びの気持ちと今の思いをお伝えしたい」と綴った。そのうえで「何よりつらく感じるのは、アイングループを信頼し、選び、親しんでくれた皆様とその家族に不安な思いを抱かせてしまったことです。改めてお詫びいたします」などと謝罪。信頼回復と「より良い未来」をめざすとしてメッセージを結んだ。
大谷社長は業界活動には距離を置き、表に出ることはほとんどない。対外的にはホーディングスの首藤正一専務が対応している。日本保険薬局協会の会長職も首藤専務が担う。そんな社内事情からか、今回の大事件を受けたトップの第一声としては内向きだ。社員限定のメッセージでは「不充分」と見る向きは多い。
大谷喜一社長の言動を関係者は注視
繰り返しになるが、業界最大手調剤チェーンの“事業会社の社長”が逮捕されたのだ。しかも、業界団体・日本保険薬局協会の会長会社でもある。影響は計りしれない。2024年度診療報酬改定では「大手チェーン叩き」や「敷地内薬局マイナス深掘り」は必至の情勢と、すでに大手調剤企業からは悲鳴の声が上がる。だからこそ、トップによる説明が求められている。
実際に過去、不祥事発覚後のトップの対応がマイナス改定に影響したと見られる事例があった。2017年、大手調剤チェーン・クオール(東京都)による「付け替え不正請求」だ。一部店舗で従業員家族の処方箋をほかの店舗で調剤したかのように偽装し、処方箋の集中率を下げ、点数の高い調剤基本料で保険請求していた。当時、日本保険薬局協会の会長だったクオールの中村勝会長は責任を取り、協会の会長職を辞任。ところが、最後まで謝罪会見を行わなかった。
翌年の2018年度改定では「外枠」という制度によって、大型門前薬局や敷地内薬局など「経営効率の高い」主に調剤チェーンをターゲットに約230億円もの報酬の引き下げが敢行された。トップの説明責任を無視した姿勢がマイナス改定を後押ししたと、大多数の関係者には映った。もちろん、トップが謝罪したからといって、罪が軽くなるわけでも、マイナス改定議論が回避されるわけでもない。ただ今後、次回2024年度改定議論が本格化するなかで、大谷社長の言動に関係者は注視する。
敷地内薬局に関しては、首藤専務が日本保険薬局協会会長の立場で、シンポジウムで語っている。「登山家ではないですが、ソコに山があれば登るんだという感覚。企業家はソレをめざします」。敷地内薬局拡大の「状況をつくってしまったことがひとつ問題だとすれば問題で、乗っていく方がどうして悪いのかという思いがある」と続けた。
薬剤師会からバッシングを受ける敷地内薬局の出店について、一般論として反論したものだ。その通りかもしれない。敷地内薬局は規制緩和によって拡大している業態だ。調剤チェーン企業が求めたというよりは、政府の規制改革会議が推進し増大してきた。ただし、ズルはいけない。登山家が険しい山に挑むとき、不正行為をして登頂をごまかすなどしては、本末転倒だ。
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