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ハードディスカウントストアの取り組み最前線

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年10月16日 1時0分

ハードディスカウントストアの取り組み最前線

ハードディスカウントストアの取り組み最前線
三浦弘 氏

株式会社ビッグ・エー
代表取締役社長
三浦 弘 氏

 

原材料、労務費、エネルギーコストの高騰などが続く昨今、「ハード・ディスカウントストア(以下、HDS)」としてさまざまな取り組みをされているのが、ビッグ・エー(東京都板橋区)だ。同社は、欧米で急伸するハードディスカウンターの「ALDI(アルディ)」「Lidl(リドル)」を長年にわたって研究し、ローコストオペレーションのノウハウを積み重ねてきた。それにより現在の値上げラッシュにおいて、ビッグ・エーの“強さの源泉”になっているといえる。本セミナーでは代表の三浦弘氏をお迎えし、「ローコスト施策の最前線」や「販売の工夫」について事例とともにご紹介いただいた。

ハード・ディスカウントストアが世界のスタンダードに

 1979年創業のビッグ・エーは、東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県を地盤とする小型のHDSとして食料品・日用品を販売している。売場面積は100坪前後が多く、簡素な内外装と、梱包箱を切り取っただけの手間暇をかけない陳列、徹底した人時生産性でローコストオペレーション施策を採用。約6000人の従業員に対し1061億円を売り上げる少数精鋭の人員で全国341店舗を運営している(2023年2 月現在)。

 もともとHDSとは、ドイツのALDI(アルディ)が1952年に開設した、500平米程度の小規模で高回転率の加工食品を中心とした品揃えの小売業態のこと。HDSは日本では聞きなれない人も多くあまり浸透していない状況だが、小売売上高の世界ランキング(写真②)にあるようにHDSの事業形態で運営するスーパーマーケットが4位・8位に輝くなど世界での注目度の高さがうかがえる。

小売売上高の世界ランキング
写真②

 HDSの代表例は、「ALDIの内装」(写真③)のように段ボールのまま商品陳列するなど、簡素な店舗。内外装にコストをかけず、陳列の手間も軽減することで商品を安価に提供できるため、“生活者の味方”といった立ち位置で節約志向の強い顧客に支持されてきた。

写真③
写真③

 近年のALDIは都市型の富裕層にも好まれる内外装に変化し(写真④)“安かろう悪かろう”のイメージを払拭。

写真④
写真④

 ボックス陳列自体は変わっていないものの、「チーズであれば黄色」といったカラーデザインを施し、洗練された空間に(写真⑤)。また同社の商品の8割以上はPBであることから、商品にバーコードを複数印字する多面バーコードにこだわることで、レジの負担を軽減している。

写真⑤
写真⑤

毎年現地を訪れ「挑戦する姿勢」も学びに

 三浦氏は、15年以上にわたって毎年ALDIとLidlを訪問して定点観測を行ない、良い面は積極的に自社に取り入れてきた。コロナ禍では海外渡航が難しくなり、22年秋に3年ぶりにALDIとLidlの新店に訪問したところ、見違えるほど進化していたという。
 たとえば冷凍食品はSKUを増やすだけでなく質も高め、それでいて「ローコスト(低価格)」は徹底的に守り抜いていた。
 「スピード感を持ってトライ&エラーを繰り返す姿勢も見習いたい」と三浦氏。衛生面などに配慮し、クロワッサンをはじめとするパンは自動販売機で販売していたALDIだが、現地を訪れるたびにパンの種類が増えたり自動販売機のデザインを変更したりと、瞬く間に進化する様に驚いたという。また、Amazon GoならぬALDI Goをテスト的に運営するなどDX推進にも前向きだ。こうした企業の姿勢は、顧客に伝わる。「安いのに質が良い」と評判になるのは当然ともいえ、近隣諸国のイギリスの大手スーパーマーケットランキングで売上4位に輝くほど愛されている。

「安さの根拠」が大切

 三浦氏は、HD運営を健全に行うためにビッグ・エーが大切にしている法則があるという(写真⑥)。「安ければ良いというわけではなく、Q(品質)、S(お客様対応)、C(快適さ)を上げ続け、同時にP(価格)、T(お買物時間)を下げることで、V(価値)を生み出せる。

写真⑥
写真⑥

 そのためには、「安さの根拠」を作り出すことが極めて重要だ。たとえば、業務改善をするべく、たとえばバーコードは商品をぐるっと一周して印字すれば、レジのスキャン業務を軽減につながる(写真⑦)。あるいは、レシートの記載情報を整理して1枚当たりのレシートを3cm減らすことで、年間450万円の経費削減につながった。

写真⑦
写真⑦

店舗設計はコンテストで優勝した美大生が担当

 ALDIの洗練された外装に学び、ビッグ・エーもまたシンプルで美しいデザインを追求してきたが、プロのデザイナーに発注すれば数千万円のコストがかかってしまう。そこで、関東の芸術大学生を対象にコンテストを行い、優勝者のアイデアをもとに店舗デザインをおこなったところ、「コロナ禍でリモートばかり。実務を積む機会が減っていたため、貴重な体験をさせてもらえた」と学生に喜ばれたという。学生との物語があるデザインを三浦氏・従業員ともに気に入っており、これもポジティブな「安さの根拠」になった。

写真⑧
写真⑧

 また、以前から宅配サービスを検討していたが、費用面がネックとなり実現不可能だった。22年6月から宅配スーパー「OniGO(オニゴー)」と提携することでビッグ・エーの57店舗からの宅配が可能に。1店舗あたりの商圏は1km未満だったが、宅配に対応したことから最大5kmまで商圏が広がった。顧客のコスパとタイパを叶えるために最大の努力をする。しかし、自社のマンパワーだけではどうにもならないこともある。そんな時に、OniGOをはじめとする信頼できるパートナー企業と連携することも「安さの根拠」になるのだ。

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