社内公募に立候補して社長に!? 「ステーキのあさくま」絶好調を支える若手社長の情熱
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年10月15日 20時59分
「ステーキのあさくま」というステーキハウスのチェーンがある。創業の地は名古屋で、現在はロードサイドを中心に、東海から関東にかけて65店舗を展開する(2023年8月末現在)。創業年は1962年。「すかいらーく」の1号店出店が1970年と考えると、その歴史の長さがわかるだろうか。この「ステーキのあさくま」が最近勢いを増してきている。コロナ禍にありながら、2023年3月期決算で営業黒字化を果たし、2024年3月期に入ってからも既存店売上高は対前年同月比で2ケタ増を続けている。好調の要因は何か。
「社長になりたい」と確信した「泣かせるあさくま」
「ステーキのあさくま」を展開するあさくま(愛知県)は、2006年にテンポスホールディングス(東京都)と資本提携を結び、2011年に同社の連結子会社となっている。テンポスホールディングスは、1997年に代表の森下篤史氏が創業し、飲食店の中古厨房の販売事業などで業容を拡大してきた。
あさくまは2019年に東京証券取引所ジャスダック市場(現東証スタンダード市場)に上場。コロナ禍で苦戦しながらも、23年2月期決算で営業黒字化を果たし、業績は回復に向かっている。
なぜ、あさくまはいち早く業績回復を成し遂げることができたのか。その要因の1つが、2022年6月にあさくま代表取締役社長に就任した廣田陽一氏のリーダーシップにある。廣田氏は外食畑とは異なるテンポスグループで、営業部門のマネージャー職を歩んできた。最初にマネージャー職についたのは2013年6月、北関東マネージャーである。当時29歳。異例の抜擢について、廣田氏はこう語る。
「テンポスグループには『自分の人生を自分で決める』という考え方があり、店長就任から何か新しいことを手掛けるときには『公募』がある、そこに立候補して選任されることになります。この制度で、店長になり、新しい事業部の部長となるなど、テンポスグループの中で約10の部署を経験しました」
この「公募」の頂点にあるのが「社長の椅子争奪戦」である。社員が集まる中で、社長の座をかけて立候補者が「仕事の成果」をそれぞれアピールし、社員の投票によって社長を決める。この「仕事の成果」とは、立候補した段階で与えられる、定められた期間の中での、①自部署での実績、②設定したゴールに対してどれだけの成果を上げることができたか、だ。これらの中には、テンポスグループの成長戦略に関連するものが多く、「社長の椅子争奪戦」が白熱すればするほど、会社の成長スピードが加速していくという仕組みだ。
2021年8月、あさくまの「社長の椅子争奪戦」の公募の締め切りが迫る中、廣田氏はこれに立候補しようと考えた。その理由は二つあるという。
1つは、新しいことにチャレンジしてみたい、と純粋に思ったこと。もう1つは、公募の締切ギリギリのタイミングで、テレビのバラエティ番組で「ステーキのあさくま」が紹介されていたのを見たことであった。
その番組では、前半にお客が肉汁あふれるハンバーグを楽しそうに食べている様子が紹介され、後半は「泣かせるあさくま」というコーナーで、子供のお客がコックコートを着て厨房に入り、自分で焼いたステーキやハンバーグをお父さん、お母さんに食べてもらうという一幕があった。そして、ふだん言えない「ありがとう」という気持ちを手紙に書いて、お父さん、お母さんの前で読み上げる。サプライズにお母さんは最初は恥ずかしそうにしていたものの、だんだんと目に涙が溜まっていく──。
「あさくまがそのような取り組みをやっているのは聞いてはいたが、改めて凄いことをやってるんだなと思いました。2021年の8月に、このような世界をどんどん推進していきたいと考えました」と廣田氏は振り返る。
45品目のサラダバーを広げていく
そうした廣田氏の思いは、「あさくまの社長の椅子争奪戦」で会場にいた社員の心をつかんだ。2022年6月に社長に就任して以降、各店舗の店舗クリニックを詳細に行って、メニューのクオリティアップ、接客サービスの向上、駐車場や植栽などの掃除の徹底を推進していった。
これらの改善の中で、最も特徴がはっきりしている試みは「ステーキのあさくま」が強みとする魅力的なサラダバーをさらに充実させることだ。これまでサラダバーで選べる野菜の品目数は、店長裁量で15~20ほどだったが、これを45品目に増やした店を拡大中だという。
「私としては『あさくまのサラダバーはこうだ!』と言えるようにしたいという思いがありました。この取り組みによって、お客さまはどの店にいっても安心してご利用いただけるようになります」(廣田氏)
廣田氏は続ける。「あさくまに来ていただいているお客さまに『あさくまって、こんなにすごかったっけ』とびっくりしてもらいたい。そして、私があさくまの社長になりたいと思うようになった一番のきっかけである『泣かせるあさくま』をしっかりと追求していきたいです」
廣田氏はまだ30代。その若い感性と、感動的な飲食業を盛り上げていきたいという思いは、これからより充実したものとなっていくことであろう。
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