小売業の収益性を高め、成長につなげるプラットフォーム戦略とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年10月11日 1時0分
マーケットプレイスに特化したSaaSソリューションのリーディングプロバイダーであるMirakl(ミラクル:本拠地、フランス)は、2023年9月13日に英ロンドンで開催した「プラットフォーム・パイオニア・サミット・ワールドツアー2023」(Platform Pioneer Summit World Tour 2023)で、小売業の収益性を高め、成長につなげるプラットフォーム戦略のキーポイントを詳らかにした。
マーケットプレイスで実現する短期間での売上拡大
マーケットプレイスを活用したプラットフォーム戦略は、短期間でオンライン上に開設でき、急速に拡大できるのが特徴だ。たとえば、仏インテリア用品店メゾン・ド・モンド(Maisons du Mondo)は、プロジェクトの立ち上げからわずか6カ月でマーケットプレイスを開設した。マーケットプレイスの流通取引総額(GMV)は開設から1年後に6100万ユーロ(94億5500万円:1ユーロ=155円で換算)に達し、2年後にはさらに約1.5倍の9300万ユーロ(144億1500万円)へと大きく伸長している。
Miraklのプラットフォームを活用してマーケットプレイスモデルへの転換に成功し、欧州を代表するアパレルECとして急成長しているのが、英シークレット・セールス(Secret Sales)だ。シークレット・セールスは、アパレルブランドの余剰在庫を期間限定で割引して販売する会員制の「フラッシュセール」に特化した小売企業として2007年に英国で創業した。2019年に現経営陣に買収された後、2020年3月にマーケットプレイスを立ち上げ、マーケットプレイス型のオフプライス業態へと転換している。
現在、シークレット・セールスのマーケットプレイスでは「Burberry」(バーバリー)、「Ted Baker」(テッドベーカー)、「Gucci」(グッチ)、「PUMA」(プーマ)など、2400以上の有名アパレルブランドの余剰在庫を取り扱い、正規価格から大幅に割引して販売している。本国の英国に加えて2022年にはベルギーとオランダに進出し、売上高は対前年比70%増と大幅に伸びた。2022年にマーケットプレイスを利用したユニークユーザー数は4000万人にのぼる。
シークレット・セールスは、小売志向のマーケットプレイスモデルを採用しているのが特徴だ。自社のマーケットプレイスに相応しい販売事業者を厳選し、関連性のある商品を品揃えしている。シークレット・セールスのディレクターのダン・アシュクロフト氏は、マーケットプレイスの運営における課題として「よいコンテンツを持つこと」を第一に挙げ、「販売事業者とのパートナーシップは我々にとって重要だ」と語る。
プラットフォーム戦略としてのマーケットプレイスの活用
小売企業の成長戦略では、プラットフォーム戦略が要素のひとつとなりつつある。たとえば、米百貨店の米メーシーズ(Macy’s)は2022年9月にMiraklのテクノロジーを導入してマーケットプレイスを立ち上げ、2022年度末には20カテゴリーにわたって500ブランドを取り扱うまでに成長した。メーシーズでは、マーケットプレイスを戦略的投資領域のひとつと位置づけ、よりよいユーザーエクスペリエンスの実現に向けて継続的に取り組む方針を示している。
プラットフォーム戦略では、品揃えの戦略と連動させ、小売企業が自社で在庫する商品を自社の物流網を通じて顧客に届ける「ファーストパーティ(1P)EC」、小売企業に代わってサプライヤーが商品を出荷する「ドロップシップ」(Dropship)、サプライヤーが販売事業者として顧客に直接商品を販売するマーケットプレイスという3つのモデルを効果的に組み合わせることがポイントとなる。
マーケットプレイスとドロップシップはいずれも少額の投資に抑えられ、商品の在庫を抱える必要がない点で共通するが、マーケットプレイスはサプライヤーが販売事業者として商品の価格を設定する一方、ドロップシップは小売企業が値決めの権利を有する点で異なっている。
プラットフォーム戦略では、商品の特性やカテゴリーによって適切なモデルを使い分けることが重要だ。主力商品や核カテゴリーはファーストパーティECで取り扱って適正な荒利益を確保する一方、ノンコアのカテゴリーや新しいカテゴリーはマーケットプレイスを通じて取り扱うことで、在庫リスクを負わずに品揃えを拡充できる。また、ドロップシップは、核カテゴリーのうち、在庫の保管にスペースが必要となる家具などの大型商品や仕入れの交渉でバイイングパワーを発揮しやすいカテゴリーに適している。
品揃えの拡大と顧客ニーズ検証のためのマーケットプレイスの活用
米家電量販最大手ベストバイ(Best Buy)のカナダ法人ベストバイ・カナダ(Best Buy Canada)は、マーケットプレイスモデルによって品揃えを大幅に拡充し、家電を中心に幅広いカテゴリーの商品をワンストップで買い揃えられる利便性の高い顧客体験を提供している。
マーケットプレイスモデルを採用した背景について、ベストバイ・カナダのECおよびマーケットプレイス担当シニアバイスプレジデント(SVP)ティエリ―・ヘイ–サブーリン氏は「我々は、カテゴリーの統合と拡張によって主力事業を拡大したいと考えていた」とし、「品揃えをノンコアのカテゴリーにも広げる手段として、マーケットプレイスモデルが適していた」と振り返る。
2016年に開設された「Best Buy Marketplace」(ベストバイ・マーケットプレイス)は、カナダでナンバーワンの家電機器マーケットプレイスへと成長を遂げた。取扱品目数は400万品目を超え、そのうち95%をマーケットプレイスで取り扱う。ベストバイ・カナダにとっては、専門的な知見やノウハウのないカテゴリーでも在庫リスクを負わずに品揃えを増やせるだけでなく、新しい商品やカテゴリーをマーケットプレイス上で試験的に取り扱うことで、顧客ニーズを検証したり、トレンドをとらえられるのも利点だ。
サプライチェーン効率化のためのマーケットプレイスの活用
英ファッションブランドのASOS(エーソス)は、Miraklのマーケットプレイステクノロジーを効果的に活用し、既存のサプライチェーンの効率性を担保しながら在庫の確保と品揃えの拡充を実現している。「ファッションを愛する20代に向けたライフスタイルの目的地」を目指して開設された「ASOS Marketplace」(エーソス・マーケットプレイス)では、「ASOS Design」(エーソス・デザイン)や「Topshop」(トップショップ)といった自社ブランドに加え、「PUMA」や「New Balance」(ニューバランス)などの有名ブランドからローカルブランドまで、約900ブランドを取り扱ってきた。2023年第1四半期の受注件数は49万件にのぼる。
2023年2月には、PumaやNew Balanceといった人気ブランドがASOSのフルフィルメントセンターの在庫に依存することなく、顧客からの注文に直接対応する「Partner Fulfils」(パートナー・フルフィルズ)を英国と欧州の23ブランドに拡大した。これによってサプライチェーンに影響を及ぼすことなく、より多くの品揃えと在庫量を確保できる。ASOSでは今後も順次、「Partner Fulfils」の対象ブランドを増やしていく方針だ。
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