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「感性」領域に踏み込むAIが小売を変える!CEATEC 2023に見るデジタルの未来とは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年10月23日 20時59分

etamorworks/istock

ひさびさに、CEATEC(シーテック)2023に行くために幕張メッセに出向いた。大学生のスタートアップから、大手コンサルティングファーム、大手家電メーカーなどが集まる「デジタルの大祭典」 のはずだったが、会場は決して賑わっているわけでなく人気はまだらだった。今年のCEATECの傾向をひと言でいえば、「AIを活用した感情領域への進出」と「グリーン対応」だった。ただ、展示されている企業は、まだ研究段階、基礎技術の段階で「技術的にはすごいな」と感心するのだが、「これは、どんなことに使えるのだろう?」と事業戦略が見えにくかった。本連載では初となる、展示会を通じての評価、アパレル、小売での活用の方向性を示したいと思う。

CEATEC2023の様子(筆者撮影)

AIで「揺らぎ」や「感性」に踏み込む

 私が日本IBMに入社した時、最初に教えてもらった言葉が「コグニティブ」(cognitive、認知)という言葉だった。「コグニティブ」とは、ウィキペディアによれば、

 1つ目の定義では、「コグニティブコンピューティングとは学術的・方法論な意味合いとして『自律的な推論と知覚によって脳のメカニズムを模倣した計算知能を実装するシステムと方法論』を指す。あくまで技術の中身に焦点を当てた概念として比較的広い意味を持ち、AI(人工知能)やニューラルネットワークなどの技術も広く含んだ言葉として使われる」とある。さらに、「2つ目の定義の場合は、本来、『認知』『認識』という意味を持つ『コグニティブ(Cognitive)』を『人間が行う認知的タスク』という意味で捉え、人間の認知的タスクを支援する技術として『コグニティブコンピューティング』という言葉を使っています」としている。

 ようは、人間とコンピューターのやり取りは、「触る、聞く、話す、見る、香る」など5感を使って行うようになる、ということで、異論・反論はあろうかと思うが「コグニティブ」とはつまり、「コンピュータと人間の関係性を表したコンセプト」であり、仕組みやシステムの名称ではない。

 この説明で意味が掴みにくい方は、iPadを思い出していただければよい。Appleの製品はコンピュータとの対話の方法がコマンドから、グラフィカルUI、そして指でタッチするなど、よりITらしくない方法へ変わっている。当時、IBMは(なぜか今はあまり聞かなくなった)Watsonという人工知能に多大な投資をしてきたが、これは発展途上のもので、その目指すべき方向性を「コグニティブ」と名付けたのだということが分かった。

 今年のCEATEC23では全体的、この「コグニティブ」を体現したような方向性が感じられた。従来のコマンド入力のような冷たさと正確性が同居するコンピューティングから、揺らぎや仮説、感性や非連続思考にAIを使って踏み込もうという試みが多数見受けられたからである。この「非連続」というのが、一つのキーワードとなっており、これからのデジタルワールドの未来を感じる基本コンセプトと言えるだろう。

「香り」が自動生成できることの意味
全量検品作業も無人化へ

etamorworks/istock
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 例えば、デジタルでの実現は難しいとされていたものに「匂い」というものがある。ある大学のベンチャーは、AIを使って様々な「香り」を合成するシステムを展示していた。私は、「キャラメル」をリクエストしたのだが、本物とほとんど違わない「キャラメルの香り」がして驚かされた。

 さらに、(まだ感性途上だったが)経営コンサルティングのような難易度の高い仕事をAIにやらせる試みを大手コンサルティング会社が行っていた。そのシステムに「我が社はアパレル事業をやっていて余剰在庫が残って仕方がないのだが、、、」と話しかけると、「一般に余剰在庫が残る原因は次の3点です、一つは、」と答え出す。最後に、「詳しい分析は当社のコンサルタントに連絡してください」となっていてリスクヘッジもばっちりだった。裏で、Chat-GPTが動いていることは直ぐに理解できた。もちろん得られる提言は薄っぺらいもので、深い分析を期待するのは難しいのはいうまでもないが、この取り組みは意味があるだろうと思う。

 人材と組織のスキルマップと現実の課題の相関性を見るシステムも紹介されていた。例えば、人事部の評価が高い人が何人いるのかによって、その課が儲かっている、いないなどと業績との相関性を見ることができる。逆に言えば、ある特定の業種が儲かるためには、このようなスキルをもった人員を一定量紛れ込ませなければならない、という分析が可能だという。これも、面白い試みだと思う。人事情報といえば、これまでは「公平な人事など存在しない」といわれてきたが、このシステムの活用により、客観視され業績との相関度が目視可能になるからだ。本当にこんなシステムが稼働すれば、報復人事や不公平人事がどんどん減ってゆくだろうと思う。

 個人的に驚いたのは、コロナ禍であらゆる企業に置かれた透明のアクリル板に「言語翻訳機能」を持たせた製品だった。例えば、私が手前の席に座り、私の前にイタリア人が座って自分たちの言語で話すと、そのアクリル板に翻訳された言葉が瞬時に映し出され自然なディスカッションができるようになる。私は、「すでにこういうデバイスやアプリがiPhoneでもできるが、どこが違うのか」と問うたところ、「スピードと精度が全く違います」という返事。確かに、会話と翻訳はリアルタイムに動いていた。こうなると、語学の勉強をするよりAIの勉強をした方が仕事がはかどる可能性もある。

 また、倉庫の中で行う目視検品をAIが行うというものもあった。アパレルに導入すれば、いままで抜き取り検品しかできなかったものが、全量検品できるようなり、穴あきや汚れなどが分かる。今後、触ったときの生地の「風合い」が確認できるようになれば、倉庫の検品業務に人がいらなくなる。

 

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「感性」「曖昧さ」にAIが踏み込み
ますます人がいらない時代に

metamorworks/istock
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 SDGs対応はこれから企業にとって死活問題になる。そこで、いわゆるCo2排出量など有害物質の測定にAIを使ったソリューションもあった。しかし、よく聞いてみると、これはセンサーなどで計測しているのでなく、条件設定(使う原料、インダストリ、使用用途など)パラメータを打ち込めば、過去の実測値から算出される論理的有害物質の排出量がある係数で導きだされるというものだった。このように、インプット情報を入力し、プロセスとアウトプットを導きだす従来の手法をAIと呼ぶことに疑念が生じるものもあったが、実際に、あらゆるところにセンサーを置かねばアウトプットの実数値は計測できないだろう。このグリーン対応のシステムは中央に展示会場があり、複数のベンダーが自社の技術をみせていたが、どれも係数やカバレッジが違うだけで基本的な設計思想は同じである。

 私が感銘を受けたのは、PDF形式のドキュメントなどを文書作成ソフトのように自由に書き換えることができるなど、小粒だがあると便利なものが多数展示されていたことだ。現実には、こういうところから企業のデジタル化は進んでゆくのだろう。PDFの書き換えや編集はこれまでもできたが、何が違うのかと聞けば、実際は、オリジナルPDFはベースとして残っており、その上にもう1階層のレイヤーを貼っているのだという。聞けば「なんだ、その程度か」となりそうだが、実際のPDFを編集するときの難しさは経験した人でなければわからないだろうから、こうしたソリューションはとてもよい。これからは、契約書などの法務書類はPDFで、サインはiPadのようなデバイスでデジタルサインが主流になるだろう(もうすでになりつつあるが)と思うし、例えば教育機関で配布されるペーパーに書き込みをいれたり図表をいれたりすることもデバイスに関わらず容易になる。

 一方メタバースは、やはりゲームの拡張性にとどまり、オフィス需要やビジネス需要にまで展開しているものはなかった。

 このように、これからのコンピューティングは人類の非連続な脳思考へ近づき、コンピュータと人間のやりとりが、より自然なコミュニケーションを前提とすることになり、精度を高めながら無駄を省きリソースの全体最適をしながら環境との共生を実現化してゆく方向に向かっているということを感じられた展示会だった。

 ただ、一点苦言を呈していただくと、どれも想定内のものばかりで、目から鱗が落ちるほどの衝撃を受けた応用技術はみられなかった。やはりこれからは、これらの基礎技術の上に「感性」や「曖昧さ」という領域にコンピューティングが浸食し、企業の中から人員をどんどん減らしてゆくという傾向はもはやとめられないということは確信できた。私たちは、どれだけテクノロジーが進化しても揺るぎない倫理・提案・意思決定などを、より合理的に導く力を養わなければ国ごとのデジタルデバイドが拡大してゆき、国力に大きな差をつけることになるだろう。

 なお、余談ながら、こうした世の中の大きなトレンドに対して何か私ができないかと考え、教育事業を自ら立上げることにした。すでに2年前に12人の若者(20〜30代)を一年間、徹底してトレーニングし大きな成果をあげることができたので、今年の12月より完全にバーチャネルな空間で「スーパーロジカルシンキング」という講座(これまでのロジカルシンキングを遙かに超えた合理性を導く頭の使い方)をネット上ではじめようと思っている。ご興味のあるかたは、私のホームページ(下記参照)よりお問い合わせいただきたい。

 

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プロフィール

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

 

筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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