観光地のど真ん中! 京都・祇園の一等地で食べる、リーズナブルながら本格的な親子丼
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年11月9日 20時57分
「祇園」と聞くと、地元の人間にも何か特別な響きがある。伝統的な街並みは美しく、舞妓さん、芸妓さんが歩いている場面にも普通に遭遇する。観光客向けの土産物店だけでなく、高級クラブが多く、大人が通う場所とのイメージもある。今回は、そんな様々な顔がある祇園を歩き、親子丼を食べるというお話である。
伝統的な町並みの一角にある店
普段、私はビジネス街の四条烏丸を拠点に仕事をしているが、時々、歩くのが祇園である。同じ京都でも、鴨川を渡った途端、非日常の世界に突入する感じを味わえるのがよいのだ。
歌舞伎で有名な「南座」は、「八坂神社」「巽橋」などとともに祇園を代表するランドマーク。四条烏丸エリアからだと四条通を東へ進み、鴨川を越えると右手に見えてくる。
その起りは、江戸時代初期の慶長年間に遡る。現在の経営母体は映画、演劇の制作、興行や配給を手掛ける松竹である。
同社Webサイトによると、慶長8年(1603年)、「出雲阿国、京に至り歌舞伎踊を演ず」とある。慶長19〜20年(1614〜15年)には「四條河原を中心に櫓を構えた芝居小屋が並び始め、女歌舞伎や人形遣いの興行で賑わいを見せる。南座の原初形態か」と記されている。以来400年超、祇園の顔にふさわしい歴史があることがわかる。
南座から北北東260mの新橋通を中心としたエリア「祇園新橋伝統的建造物群保存地区」は、伝統的な街並みが特徴。少し歩くだけでも京都に来たことを実感できる。夜になるとさらに雰囲気がよく、一度、立ち寄ることをおすすめする。
周囲を歩くと、このエリアでしかお目にかかれない店もある。四条通花見小路の交差点を80mほど上(あが)り、つまり北に進んだ西側に小さな履き物店が営業している。下駄や草履といった和服向けの商品を扱うが、店頭にあるショーケースを覗くと、舞妓さんが履く、“厚底”の「おこぼ」が並んでいる。まさに祇園ならではの風景だ。
さて今回、食事をするのは前述した「祇園新橋伝統的建造物群保存地区」の一本南にある「とり新」という飲食店である。白川通に面し、やや古びた木造の外観は味わい深い。ここの親子丼を食べようと最初から決めていた。
同じ建物には、大和大路通と面する西側にも出入り口がある。実は、こちらの方が主で、店名は鶏の水だき・すき焼きを提供する「鳥新」。その姉妹店が、今から行こうとしている「とり新」との位置づけだ。
あちこち歩いたのでお腹が空いている。私は早速、暖簾をくぐった。
安さの秘密を料理人自ら情報発信
店内は小ぢんまりとしており、カウンター6席、そして4人掛けテーブルが2つあるだけである。知人と一緒だったため、テーブル席に座った。
この店、昼食時に提供している料理は親子丼のみと潔い。何より目を引くのは、価格が税込800円であること。少し前は750円だったが、物価高騰を受け、値上げした模様。それでも祇園の一等地にあるにもかかわらず、非常にリーズナブルな価格設定に好感が持てる。
私は厨房の方に向き、中腰で「2つお願いします」と伝えた。
店を切り盛りしているのは、カウンターに隣接する厨房に立つ凛々しい感じの男性料理人。表に「No photos」と書いてあったため、入る際に事情を説明、「写真撮影してもいいですか」と尋ねた。すると視線を手元に向けたままでコクリと小さく頷き、OKしてくれた。なんかうれしかったね。
さて7〜8分が経過、私の目の前に置かれたのがこれ。主役の親子丼、そしてお漬物と赤だし。いい感じである。
お茶で喉を潤し、さっそく親子丼をいただく。箸で適量を持ち上げ、口へ。うん、おいしい。続けてもう一口、やはりよいな。赤だしを少し含んで小休止、そして親子丼を再開した。
アクセントをつけるため、テーブルにあった山椒をかけた。七味も置かれていたが、やはりここは山椒でしょう。うまくて箸が加速、途中、漬物も挟みつつどんどん食べた。ふぅ、ごちそうさまでした。
なお安さの秘密だが、この料理人が書いたエッセイが公式Webサイトに掲載されている。「とり新」「丼と私」で検索すると1ページ目に出てくる。
「人件費が、かからんからですわ。鶏つぶして、ご飯炊いて、お茶沸かすまで、私一人でっさかいに」とある。またメニューを絞っている点も大きいと想像できる。
ほかにも「とり新」「名代」「親子丼」で検索すると出てくるページには、使っている鶏肉や卵、米は本店の「鳥新」で出しているのと同じとある。鶏は京都近郊で肥育されたもの、米は「福井・敦賀産の、少し粒が小さめ、炊き立てのコシヒカリ」などと書かれている。
京都弁の語り口もあり、楽しく読ませてもらった。難関の「京都検定1級」をお持ちとのことで、なかなかの勉強家と見られる。
やはりネットが浸透する時代、情報を発信するというのは重要である。いろいろ知った上で店に行くと、食事の楽しさも倍増する。これはどの店もお手本にすべきと思った。
お腹もいっぱいになり、満足した。よい店だったなと思い、私は店を後にした。
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