鳥貴族が”社名変更”で見据えるビジネスモデルのソフトな転換と世界進出とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年11月7日 20時59分
鳥貴族ホールディングス(以下、鳥貴族HD)の2024年7月期決算は、コロナ後の回復を示す数字となった。売上高は334億4900万円(前年同期比64.9%増)、営業利益は14億1700万円の黒字。ともに想定を上回る結果での増収増益となった。経常利益は時短要請協力金の反動で前期比27.4%減の14億2900万円だった。2024年7月期は通期で売上高399億6400万円、営業利益18億6100万円を想定。コロナ前の水準に戻し、コロナ禍による失速からの脱却へ加速する。
回復基調の前に転がる障害
鳥貴族HDの業績について、このまま上昇曲線をキープすることは堅そうだが、視線の先にはいくつかの障害が転がる。大きいのは原材料費の高騰だ。円安やエネルギー資源の価格上昇も大きな負担となる。これまで経営努力で価格を抑えてきた同社だが、もはややれることはかなり限定的な状況といえる。
そもそも快調に拡大を続けてきた鳥貴族HDの業績にブレーキをかけたのは、経営問題というよりもコロナといういわば”災厄”が原因。だからこそ、同社はその間も経営努力でマイナスを最小限に抑えてきた。だが、急速なインフレにより、いよいよ格安でウマい居酒屋として急成長したビジネスモデルの転換も視野に入れざる得ない状況だ。
実際、同社はこの2年で20円の値上げを敢行。コスト上昇分を吸収している。顧客の側も不満の声を上げるというより、仕方ないというムードだが、そもそも居酒屋を利用する客が減少傾向にある。これまで同社の拡大の原動力となっていた新規顧客を引き寄せる材料が徐々に乏しくなりつつある。
大手居酒屋チェーンの「やきとり大吉」(ダイキチシステム)と融合し、苦境の居酒屋業態の最大手として、業界全体の復調をけん引することに期待もかかるが、同社はいままさに大きなターニングポイントを迎えている。
社名変更の狙い
そんな中で同社は10月に社名変更を発表。24年5月から「エターナルホスピタリティグループ」として、決意も新たに、復調と拡大を推進する。屋号は引き継がれるため、「鳥貴族」の店名は不変だが、社名から「鳥」が消えるのは、その先に新しい景色を描いているからに他ならない。
確実なのは、海外進出の本格化だ。本来ならもう少し早い段階で計画していたことだが、コロナが明け、国内の業績回復も見えてきた。環境は大きく変わりつつあるが、ようやく本腰を入れる状況が整った。すでに4月に100%子会社を米国に設立しており、慎重に調査を進めながら、世界へ打って出る。
一方で、大倉社長の肝いりの「トリキバーガ―」が低迷。11月には渋谷店を閉店する。わずか1年8か月での撤退だ。それでも国内外1000店舗を謳った新事業。勢いを緩めるつもりはない。10月に3店舗目として出店した京都伏見店はモールのイメージに合わせ、和風仕様でイメージを一新。同店は「TORIKI BURGERブランドの世界への発信拠点」と銘打たれており、観光客の多い古都でインバウンド客をターゲットに、世界進出もにらみ、トリキバーガ―の海外での需要を見極める算段だ。
同社のアイデンティティといえる「鳥」を社名からなくせば、例えば店名で業態を表現するなど、横展開がスムーズになる。同社は「グローバルチキンフードカンパニー」を目指しているため、単純に脱「鳥」とはならないだろうが、経営の選択肢が広がり、プラス要素も大きいだろう。
ビジネスモデル転換も
10月には期間限定で初の181円均一(税込)の総菜店舗「トリキの焼鳥惣菜」を百貨店内に出店。新規客の開拓につながる新たなチャレンジも積極的に取り入れている。過去にはコンビニとコラボし、『鳥貴族監修 肉厚チップス 貴族焼たれ味』を発売したこともあるが、コロナを経て、新たなタッチポイントの創出に、”店舗外”への進出も今後増える可能性はありそうだ。
居酒屋業態の利用客の減少、高齢化による人口の減少、原材料高など、とりわけ国内市場に目を向ければ苦しい材料が多い。だからこそ、値上げは最小限に、品質にはこだわり続ける。格安でおいしい居酒屋から、適正な価格でそれ以上の飲食が楽しめる居酒屋へ。
そうやって国内では選ばれる居酒屋として、サービス力も磨きながら付加価値を高め確固たる地位を維持する。その一方で、世界へ目を向け、居酒屋の魅力を海外でも浸透させるーー。”永遠なるおもてなし”というネーミングは、そのまま持続可能であることに通じるだけに、迎えた曲がり角を新たなネーミングでどうカーブを切るのか、この数年、同社の動向から目が離せそうにない。
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