初の専門店も!「無印良品」がアパレル改革に成功した理由とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年11月22日 20時55分
アパレル強化を打ち出し、この夏近年で最高の売上をたたき出した「無印良品」の衣料品事業。その成功に合わせるようには2023年10月、良品計画(東京都/堂前宣夫社長)は「MUJI新宿」をリニューアルし、衣服に特化した初めての店舗をオープンした。無印良品で実を結んだ衣料品戦略とはいかなるもので、衣料品に特化した「無印良品 新宿靖国通り」のオープンにはどんな狙いがあるのか? 執行役員の山本直樹氏に話を聞いた。
商品の充実で売上の落ち込みを克服
2022年秋冬、無印良品の衣料品を抜本的につくり直し、「永く使えるオーセンティックな衣服」を提供していくことを宣言した良品計画。それからおよそ1年、2023年10月に初の衣服特化店舗が登場した。どのような事業戦略のもと、新しい試みに挑むのか。
衣服雑貨部と中華圏を除く海外事業を管掌する執行役員の山本直樹氏は、2023年夏の業績を「とくに良かった」と振り返る。「風を通す。涼感がある。濡れてもすぐに乾く。そういった夏向けの素材を使った商品のラインナップがぐっと増えて、強くアピールできるようになった。特に夏の後半に売上をぐっと引き上げて、昨年までと比べて大きな差が出た」
前年比だけでなく数年のスパンで見ても、最高の成果となった。しかし実は無印良品の衣服カテゴリーは「夏は苦手だった」そうだ。毎年3月から4月の新生活が始まる時期からゴールデンウィークにかけては好調だが、7月、8月になると売上が落ち込んでいた。それを商品の充実によって克服できたことは大きい。
具体的にはリネン、ヘンプといった夏素材に加えて、最も軽い天然繊維のひとつで、綿の約8分の1という軽さのカポックを使用したアウターを充実させた。地球の環境負荷低減が求められる中でニュース性を打ち出せた手応えも感じたという。
「単品単位で商品が考えられており、トータルコーディネートが意識されていなかったこと」にも課題感を抱いており、基本に立ち返って、安定的に普通のシャツ、ジャケット、Tシャツ、デニムを揃え、それらを毎年ブラッシュアップしていくことで「定番を完成させよう」という方針を掲げた。
衣服の売上割合は国内40%、海外50%
無印良品ブランドのナチュラルなイメージはそのままに、肌への刺激が少ない天然素材を使うなど、素材背景がしっかりしていて、地球環境に優しいことは大前提で、化学繊維を積極的に採用することは、これからも考えていないという。無印良品の強みである天然素材のナチュラル感を「かたまりで見せる」と山本氏は話し、ウィメンズ、メンズ、キッズも連動して、素材の良さを大きく打ち出し、さらに強みを伸ばしていきたい意向を示す。
定番アイテムを完成させ、素材の良さで売り出していく。そこで「ベーシックなアイテムがしっかり売れる体制づくりが必要だと考えている」と山本氏。店舗は2023年8月末時点で無印良品が国内約562店舗、海外ではMUJIとして約626店舗を出店中で、衣服のカテゴリーは国内以上に海外で好調だ。国内の店舗で衣服が売上に占める割合は約40%、海外は50%近い。良品計画の海外事業は衣服がけん引しているといえる。そこで戦略として意識しているのが「グローバルで通用するベーシックを究めること」(山本氏)。デザインを尖らせる施策ではなく、素材の良さはそのままに、たとえばネクタイを締められるシャツ、スマートカジュアルなジャケットなど定番商品を国内の店舗でも提案していく予定だ。
東南アジアでは気候や住む人のライフスタイルに合わせた品揃えを充実させるなど、きめ細かい工夫が奏功した。欧米の店舗ではバック・トゥ・スクールやホリデーなどシーズンごとのモチベーションを刺激する表現をVMD担当がつくり上げ、店内でのプレゼンテーションのレベルが上がったことが成功要因だと山本氏は分析する。当然、そのノウハウは日本の店舗にも共有され、取り入れられて、商品の魅力を伝える表現力が上ってきている手応えを感じているという。
「定番」「天然素材」「スタイリング」が3つの軸
素材の良さを最大限に引き出す商品開発にもより力を入れ、たとえば秋冬アイテムでも山本氏は「ウールはメリノウール一択ではなく、ヤクウールやハイランドウールといった、これまで採用してこなかった天然素材を自社内の開発チームが世界中から探し、地域の産業の活性化を図りながら商品化できないかと取り組んでいる」と言う。ダウンやスポーツラインのアイテムでポリエステルやナイロンなどを使用する場合も「再生可能で、回収後も地球環境に負荷をかけない素材の使用率を100%にしていく」という目標を掲げ、できるだけ早い段階での達成を目指している。
また、単品ごとの商品開発ではなく、スタイリングを意識して、トータルコーディネートが成立する品ぞろえを最初から計画して作っていく取り組みも進めていくという。定番の完成。天然素材の使用。スタイリングを意識した商品開発。この3つを軸にしていくことで「これから、生まれ変わった印象を持っていただけるくらい、ガラッと変わるのではないかと思っている」と山本氏は話す。
トレンドを意識はするものの、トレンドは追わない。ベーシックにこだわり、シンプルで、地球に優しく、デザインが良い。そういった商品の展開こそが無印良品らしさ。「私たちの目的は変わらず、生活のインフラになること」と山本氏。衣服に特化した店舗として初めてオープンした「無印良品 新宿靖国通り」は、2階、1階、MB階、B1階の4フロアで、B1階の「Café&Meal MUJI」を除いて商品はすべて衣類。年齢、性別、国籍を問わず服選びを楽しめる。
ネットストア限定の商品や全国の店舗に先駆けて先行販売されるアイテムも取り扱い、在庫のあるほぼすべての商品を購入できるネットストアに次ぐ衣服の品ぞろえを誇る。60体以上のマネキンがあり、VMD担当が暮らしのシーンに合わせたコーディネートを提案してくれる、まさに無印良品の最新の衣服がわかる空間だ。
良品計画では、店舗が出店する地域のコミュニティーセンターになることを目指し、「無印良品 新宿靖国通り」は「無印良品 新宿通り」とともに「無印良品 新宿」として、多様性に富んだエリアに根付いた展開をしていく。グローバルフラッグシップ店「無印良品 銀座」ともひと味違う顧客体験を味わえる店舗であり、その新しい試みが注目される。
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