やりがちな「スキル採用」で会社がめちゃくちゃになる理由と正しい採用戦略とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年11月20日 20時58分
今回のテーマは採用戦略である。優秀な人材の取り合いとなり、採用難の時代ではあるが、今ほど明確な「採用戦略」が重要なときはない。採用戦略なくして企業はもはや成長できない。どのように採用戦略を考え、どういう人材を採用していくべきか、具体的な要諦をまとめた。
「私の会社は独特なので…」は
採用戦略がない企業の言い訳
中途採用市場が活況だ。コンサルタントのようなプロフェッショナル職種は、プロ野球選手と同様に年俸制で、一般サラリーマンがもらえないような報酬をもらう代わりに、簡単にクビになることもある。私が経験した極端なケースをいうと、まだマネージャだったころプロジェクトが始まる前に「上司とのプロジェクトの心構え面談」を行ったが、半年後には、「上司」と「部下」が入れ替わり、私は出世し、その人の「上司」となって、
しかし、こうしたケースは希としても、アパレル企業や繊維商社のような一般事業会社では一度役職が付くと昇格(プロモート)することはあっても、降格(デモート)することはあり得ない。だから、上司は部下を呼び捨てにするか、あるいは「河合くん」という具合に「上から目線言葉」の「くん」をつけるのである。これに対して、プロの世界は一年目の新人から社長まで「さん」づけが当たり前だ。逆に役職名で「部長」というふうに呼ぶのはありえない。人材の移り変わりが激しいがゆえ、逆に失礼にあたることもあるからだ。
今回、私が「採用戦略」をテーマに論考を書こうと考えたのは、日本の事業会社では、新卒一括採用が主たる方法で、昨今中途採用が増えているとはいえ、成功しているという話は、ファーストリテイリングのような企業以外、ほとんどないからだ。
うまくいかない理由は、多くの企業が大企業病にかかってしまっているからだ。柔軟性やイノベーションが「昔のやりかた」「昔のしきたり」によって阻害され、それに気付かず時代の方が早く先に進んでしまっているのだ。したがって、まずは企業戦略としてどのように採用を行い、人材を教育するかについて、そのポイントをしっかり理解する必要がある。
「いやいや、私の会社は独特で、中途採用を今まで何人もいれたがうまくいったためしがない」という声が聞こえてきそうだ。
実は、「私の会社は独特だ」と言っている企業に共通することとして、しっかりした採用戦略を持っていないことが挙げられる。独特なのではなく、戦略がないから採用がうまくいかない言い訳にしているだけだ。
一方、逆の例もある。私が知っているある会社では10年以上前、売上の天井を破れずにいた。そこで中途採用を増やし、新卒採用と人数を逆転させたのだが、そのときから、再び成長軌道にのり、年率10%以上の成長を遂げている。
これは一体どういうことなのだろうか。本日は、こうした人材に関するインサイトをご提供したい。
「スキル買い」が失敗する理由
採用で失敗する最も典型的なパターンは「スキル買い」である。これは、うちの会社は「デジタルが苦手だ、ECを強化したい、だからIT企業から人を採用しよう。できればECの経験がある人を選ぼう」という考え方だ。
この極めて単純な発想の採用手法のどこがおかしいのかお分かりだろうか。仕事はチームでやるものだ。その人ひとりでやるものではない。だから、そのデジタルのプロ、ECのプロが独断的に組織を振り回し、「俺が昔いた会社はこうだった」「私が前にいた会社ではこれが当たり前だった」を繰り返し、チームのスキルのなさ、仕組みのなさをバカにする。そして、組織から孤立し、ときに組織を破壊して去って行くということが起こるのである。
スキル買いの決定的な弱点は、コミュニケーション力や忍耐力、また、人に対して教育をしてゆこうというメンタリング力である。えてして、スキル買いした人材は、まわりからの期待が大きいだけにコユニケーションを乱雑にすすめ、また、期待が大きいがゆえにいきなり高い役職で入社をするものだから、ハラスメントまがいの行動を繰り返す。
だが、「そんな悠長なことを言っている場合ではない。ECをさっさと立ち上げなければならない」という場合はどうすべきか。コンサルティングファームでは、こうした問題を幾度も経験したため、「チーム採用」といって、入社後すぐに稼働できる「チーム移籍」を増やしている。「チーム移籍」であれば、お互いに知らないこともないし、既存の組織文化とことなっても、治外法権区域においておけばよい。ただし、チーム採用で注意をしなければならないのは、チームの中に入社要件を満たさない人材が紛れ込んでいるケースである。ここを注意していれば「チーム採用」は「スキル買い」と共存する。
こんな企業は要注意 「上司の時間の取り合い」がある
日本企業は、何も知らない新卒を一括採用し、自社の色に良い意味でも悪い意味でも染めてゆく。したがって、自分の会社がおかしなルールで動いていても、それを「おかしい」と認めない。
例えば、こんなことがあった。単に、お客さまとのアポイントをとるだけの話である。その会社は、複雑な組織体系で、縦軸に事業部制を横軸に機能別組織を同時に採用していた。いわゆる「マトリクス組織」だ。一見、先進的に見えるこの組織の最大の弱点は、現場にとって「縦の上司」と「横の上司」がいるということである。これに、さらにエリア別に組織わかれているような大企業であると、「西日本の上司」や「東日本の上司」などもいて、全員が集まらないと会議が開けない。みな、Outlookのようなデジタルツールを使っていて、上司の時間の取り合いが始まる。5分の隙もないほど会議がびっちりはいっているような会社は要注意だ。
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そのような会社にいた時、私に「倉庫が止まりそうだ。なんとかしてほしい」という依頼がきた。私は、すぐにでも出かけて診断をしようと思ったのだが、その会社のルールで「エリアの上司」「セクターの上司」「テーマの上司」の都合をあわせ状況説明をしなければならなかった。だが、全員の予定を合わせようとすると、はなんと1ヶ月後でないと会議が開けないのだ。
上司が全員揃っていないと、後で「そんな話は聞いていない」となって仕事が円滑に進まなくなる。それだけではない。会議の出席者があまりにも多いものだから、最初の会議では、20人以上の人間がでてきて話すため、一時間では終わらないし、何も決まらないまま時だけが流れる。また、みな分刻みで予定が入っているから、あと15分あれば「ネクストステップ」を決めることができるのに、時間切れとなり、では2回目のミーティングを開こうと思うと、さらに1ヶ月後になってしまう。
こうして、たった2度の状況説明をするだけに2ヶ月を要し、気付いたときにはそのクライアント候補は「動きがおそくて待ってられない」と言い残し、仕事は破談になってしまった。日本の巨大企業「あるある」だ。
実は組織というのは小さければ小さいほど良い。「Small is beautiful」である。さらに、このようなマトリクス組織では責任の所在が不明瞭になり、問題が起きた場合「戦犯」が見えにくくなる。だから、そういう巨大企業は、クライアントも巨大企業。スピードが昔から同期化されているのでずっと同じ仕事が毎年おちてくる。
「100日プラン」を新規採用者に作らせる
先に話したように、人材を強化して競争優位性を高めようと考えている企業は、「誰を採用するか」でなく、「採用した人材は、どうすれば自然に組織に馴染むのか」を考え、設計すべきだ。例えば、最初の3ヶ月は「100日プラン」といって、「馴染み」の期間をサンクコスト(避けられないコスト増要因)と考え、あえて仕事らしい仕事を与えず、組織の文化、やり方を馴染ませる。「100日プラン」は、採用された本人に書かせるのがよい。MBO (企業の評価精度で、自分自身で目標を設定させる方法)と同じ考えだ。私が知っているある流通企業は、店頭でのマニュアルを入社した新人全員に自分で書かせ、会社からトップダウンで「これをやれ」という具合に強いることはしない。
また、できればトップが頻繁に会って、採用した人材がみたり感じたりしている「違和感」を聞く姿勢も大事だ。トップは忙しいのだ、と文句を言う人もいるが、トップが耳を傾ければ文句はでなくなる。ある世界企業ではトップの仕事の65%は人事、労務と規定している。強い企業=強い人材なのだ。また、採用される方も、絶対に「昔話」をしないことだ。こうして、お互いに結婚前の同棲期間をあえてつくることで、お互いの距離を縮めてゆくわけだ。
公認会計士資格者が重宝される理由
次に、企業側の視点で採用人材要件を考えてみよう。なにより重要なのは「地頭の良さ」と「素直さ」「柔軟性」である。日本企業の場合、ファーストリテイリングなどを除いて、会社の仕組みやシステムの上でオペレーションをやっているだけ、というケースが多い。新たに業務を変えていったり、馴染んでいったりしながら組織に溶け込んでゆくことが大事なので、スキル以上に「頭が良くて柔軟な人」を選ぶ。「頭の良さ」は、論理力やコミュニケーション力で見る。論理力とコミュニケーション力が高い人材は戦略思考が高い。
また、人は、大空高い場所からものごとをみるバーズアイ(鳥の目)と、地面を這うようにディテールを見ることができるアンツアイ(アリの目)の複眼力が求められるが、多くの人はどちらかに偏っていることが多く、全社のバーズアイを持つ人はものごとを大所高所で単純化し、「こんなものは、こうしてああしてポンだ」と適当なことをいう。また、アンツアイしかもっていない人は、些末なコトばかりいって「木を見て森を見ず」の状態になっている。複眼力とは、時にディテールをさらりとこなし、時に気付かないような視点を大きな世界観から見る両刀遣いだ。これができなければ、人の上には立てない。
私はこれを「下位互換性の法則」と呼んでいる。「下位互換性」というのは、下の人の仕事をやってみろ、といわれたら代わりに十分こなすことができ、経営目線で大きく会社のビジョンや戦略を語れといわれればそうすることができる能力だ。人間というのは、自分ができること以上の能力を上司がもっていないと、その上司を信頼できず、また、ついていけない。だから、スキル買いより複眼力を重要視して採用することで、チームプレイが可能となる。
柔軟性は、「困難な仕事をやりきった経験」(失敗していても良い。むしろ、失敗していた方が良い)を評価する。私がもっとも評価するのは、公認会計士の資格だった。会計士は、数字で会社を語る技をもっているため話が論理的で非常にスッキリとものごとをまとめる力をもっている。加えて会計士は、会計や組織、ガバナンスに優れている可能性が高い。「可能性」というのは、中には柔軟性がない人もいて、組織を振り回す人、また、自分は財務は得意だが事業は事業部がすべきだ、という縦割り組織的発想で一歩前に出ようとしないというような人もいるからだ。そういうリスクがあることは誰でもそうなので、「スキル買い」だけではダメだという話を思い出そう。
最後に、私が採用をしていたときに行っていた「秘技」を披露したい。独特な技なので真似をしないでもらいたい気持ちが半分だが、面接に来た応募者にお茶などをだした、秘書グループやオフィスマネージャの人員からその応募者の第一印象を聞くのだ。そうした人員の嗅覚は恐ろしく高い。給湯室で井戸端会議を聞けば、驚くほど会社の人事や「できる人」の話に詳しい。私は、オフィスの掃除をしている方に応募者の印象を聞くこともあった。これら面接者や偉そうな人以外の人達にどれだけ丁寧に接することができるのかがとても大事だからだ。こんなところに、人間性がでてくるのである。最後はあくまでも「参考まで」ということで、お願いしたい。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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