「イオンシネマ」がコロナ前の水準まで売上を回復させた意外な戦略とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年11月28日 20時59分
コロナ禍で観客動員数が大きく落ち込み、ここ数年は厳しい局面が続いてきた映画館業界。そうした危機を乗り越え、映画館「イオンシネマ」を全国95カ所で運営するイオンエンターテイメント(東京都/藤原信幸社長)は2023年10月現在、月間売上をコロナ前の19年度の水準まで回復させている。人口減少や若者の映画離れ、動画配信サービスの台頭など強い逆風が吹くなか、同社はどのような成長戦略を描いているのか。イオンエンターテイメントの経営戦略本部 経営戦略部 部長兼、新規事業開発グループ グループマネージャーの久保野純也氏に話を聞いた。
コロナ禍は「ドライブインシアター」が奏功
映画館業界はかつて、1950年代後半より衰退がはじまり、93年には映画館数、96年には観客動員数がそれぞれ戦後最低となった。これとほぼ同時期(93年)に、イオンシネマの前身となるワーナー・マイカルシネマズが「シネマコンプレックス」(1つの映画館に5スクリーン以上を持つ大型映画館)を新たに展開、これを普及させるかたちで各地に開館していった。以降、映画業界ではヒット作が次々に誕生し、映画館数・観客動員数ともにゆるやかな回復基調が続いている。
近年では、コロナによるパンデミックが映画館業界に大きな影響を与えた。映画館運営各社は早い段階から感染対策を講じたが、行動規制などの影響は大きく、業界全体が売上減に見舞われた。そうしたなかイオンシネマでは、乗車したまま駐車場に設置したスクリーンで鑑賞できる「ドライブインシアター」を実施し、映画館への休業要請や新作映画の公開延期などの事態に対応した。
久保野氏は「コロナ禍以前に移動上映会を実施した経験がドライブインシアターの取り組みに生き、コロナ禍を耐え忍ぶことができた。現在は人流回復の影響もあり、売上はコロナ禍以前の2019年と同水準まで回復している」と語る。19年が「天気の子」や「アナと雪の女王2」、実写版「アラジン」などのヒット作に恵まれていたことを考えると、現在は好調と言えるだろう。
地方の課題を解決すべく小型映画館を新展開
国内の映画館市場は現在、東宝(東京都/松岡宏泰社長)の子会社であるTOHOシネマズ(同)が運営する「TOHOシネマズ」とイオンシネマの二強体制となっている。来場者数では、都市部を中心に展開してきたTOHOシネマズに軍配が上がるが、イオンシネマは「日本全国のお客さまに映画を楽しんでもらいたい」という考えから地方での展開を重視し、現在は国内最多の映画館数を誇る。
イオンシネマでは各映画館の支配人が上映作品のラインアップやスケジュールを設定しており、作品の舞台として地元の風景が登場する「ご当地映画」を提供するなど、来場者層にあわせた柔軟な対応が可能になっている点が特徴だ。
加えてイオンシネマは、価格面でも独自路線を貫く。多くの映画館が19年および22年に物価や人件費の高騰などを理由に値上げに踏み切る中、イオンシネマは税込1800円(一般料金)を維持してきた。久保野氏は「他社の一般料金は税込2000円。わずか200円の差とはいえ、消費者心理としては1000円台と2000円台では大きな違いとなる。地元のお客さまにイオンシネマをホームシアターのような感覚で気軽に映画を楽しんでいただきたい思いからこの価格に設定した」と語る。
その戦略のもと、直近では新たな取り組みも行っている。イオンエンターテイメントは23年7月、同社初の新フォーマット「コンパクト型シネマコンプレックス」となる「イオンシネマとなみ」(富山県砺波市)をオープンした。同施設は「イオンモールとなみ」の1階部分を改築し、新フォーマットを展開したかたちだ。
映画館は天井の高さなど特殊な構造設計を必要とするため、既存の建物を利用することが難しい。しかし、改築により既存建物の構造に合わせ、立体音響設備の「Dolby Atmos」やレーザースクリーンを採用したスクリーンを5つ、計414席を設けた。ほかに電動リクライニングシートや、寝ながら鑑賞できるコンフォートシートも導入した。
「地元の住民からは『街の価値向上につながった』との声をいただいた。商業の活性化だけではなく、人口流出という地方が抱える課題の解決に寄与していきたい。この実績を生かして他地域への展開も模索している」(久保野氏)
リアルで味わうコンテンツの価値を高める
映画作品は近年、邦画が洋画を上回る人気で、最近の傾向としてはアニメ作品のシェアが拡大しているという。久保野氏は「かつてアニメ作品は『オタク』『サブカルチャー』といった印象が強かったが、近年のヒット作品の増加やインターネット配信サービスでの配信作品の増加によって、もはやメインカルチャーとして認識されている」と久保野氏は見ている。
イオンエンターテイメントが今後重視するのは、リアルな場における体験と価値の提供である。競合となるインターネット配信のサブスクリプション型サービスと差別化を図る必要がある中、映画館というリアルでの体験機会を増やしていく考えだ。イオンシネマは以前から高解像度のレーザープロジェクター「IMAX」や、客席にアトラクション機能を搭載する「4DX」などのハード面の強化に取り組んでおり、今後も顧客体験の向上をめざす。
加えて、映画作品にとどまらない新たなコンテンツの提供にも挑む。たとえば23年4月には舞台作品を全国の映画館で生中継し、10日間・15公演で計10万人を動員した。このほかライブビューイング、コンサート、スポーツ中継などを提供するコンテンツの開発に注力する。
コロナ禍が収束に向かう今、花火大会や音楽イベントなどリアルのイベントが賑わいを見せている。久保野氏は「映画というコンテンツを中心に、リアルな場の価値を最大化できる取り組みを進めていく」と話す。
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