「ディズニー化」進む? ネットフリックスが2025年にリアル店舗を出店するねらい
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年12月13日 20時57分
2023年7~9月期において、全世界の契約者数増加が市場予想の600万人を大幅に上回る876万人に達するなど好調が続く動画ストリーミング大手の米ネットフリックス(Netflix)。自社オリジナル番組の認知を高め、さらに視聴者とのタッチポイントを増やすべく、2025年に直販店舗「ネットフリックス・ハウス」を米国内2か所にオープンし、ゆくゆくは世界中に展開する。その背景には、ストリーミング業界内のサブスクの奪い合いだけでなく、特に若年層でYouTubeやTikTokなどユーザー生成コンテンツ(UGC)およびゲームとの競争が激化していることがある。
番組別の商品・食事を
もっとファンの身近に
ネットフリックスの快走が止まらない。各国における広告付きプランの導入や、アカウント所有者と同じ世帯に住んでいないと思われるユーザーを締め出すためのパスワード共有禁止が奏功し、2023年7~9月期における1株当たり利益はアナリスト予想の3.49ドルを上回る3.73ドルとなった。
業績の伸びをけん引したのは、人気漫画の実写版ドラマ『One Piece(ワンピース)』などのオリジナルコンテンツだ。契約者の多くは、グローバルな展開を念頭に巨額の製作費を投じて作られる魅力的かつネットフリックスでしか視聴できない番組に引き付けられている。
そうしたオリジナルコンテンツと視聴者のつながりをさらに深め、さらにはネットフリックスのブランド力を高める目的で企画されたのが、直営ショップの「ネットフリックス・ハウス」である。
ブルームバーグによると、最初の2店は米国内の2都市に開設される予定で、その後出店を加速させてニューヨーク、メキシコシティや東京など戦略的な国内外ハブに展開する計画だという。
同社のコンシューマープロダクト担当副社長であるジョッシュ・サイモン氏は、「ネットフリックス・ハウスはオリジナルコンテンツにちなんだグッズやアパレルを中心とした小売をはじめ、レストランやライブイベントを提供するものになる」と明らかにした。
オリジナルコンテンツのファンは、ネットフリックス・ハウスでしか入手できない『ストレンジャー・シングス 未知の世界』や韓国発ドラマ『イカゲーム』のグッズ、Tシャツなどを購入し、番組のテーマにちなんだメニューの食事を楽しみ、ショーから飛び出してきたキャラクターと直接交わることで、ネットフリックスが演出する非日常の世界へいざなわれるのだ。
注目されるのは、ネットフリックス・ハウスに付属するレストランだ。同社はすでに映画の都ロサンゼルスにおいて、番組のテーマに合わせてセレブシェフが考案したレシピを提供するポップアップ食堂の「ネットフリックス・バイツ」を期間限定で出店して好評を博しており、そうした試みを常設化していくとしている。
さらにネットフリックスは2022年10月に同じくロサンゼルスで、ストリーミング作品にちなんだグッズを販売する約920㎡の大型ポップアップストアをオープンした。『イカゲーム』に登場する大型「ヨンヒ人形」や『ブリジャートン家』の関連グッズを販売し、多数の来訪者を集めたという。加えて、「イカゲーム・トライアル」と称した障害物コースを設置し、来店者がドラマの世界観を実体験できるようにして人気となった。
サイモン副社長は、「ファンは、われわれの映画やテレビショーの世界観に浸ることを好むため、ネットフリックス・ハウスによってより強い絆(more tangible connection)を提供し、次のレベルの体験をさせてあげたい」と語っている。
その面においてネットフリックス・ハウスは、これら期間限定のポップアップショップの常設化であり、さらに「夢」や「マジック」を売るディズニー(Disney)が展開する「ディズニーストア」の成功を模倣しているというのが、米メディアの一致した認識だ。ネットフリックス・ハウスは、ファンにとって巡礼しなければならない「聖地」となってゆくだろう。
激化するサブスク戦争
コンテンツ強化の必要性
こうしたネットフリックスのリアル店舗出店は、デジタルストリーミングで隔てられたファンと制作者を物理的な商品で近づける意味において、同社を「ディズニー化」させるものと言っていい。
しかし、米公共ラジオNPRでテレビ評論を行うエリック・デガンズ氏は、「ネットフリックスはディズニーと競争しようとしているようだが、それにかかる莫大な費用を考えれば、採算が合わないだろう」と否定的に見る。一方で、米投資サイト「モトリー・フール」の上席メディアアナリストを務めるリック・ムナリズ氏のように、「ディズニーとNBCユニバーサル(NBC Universal)にテーマパーク運営ができるなら、ネットフリックスにも可能性がある」との見方もある。
いずれにせよ、競争は厳しいものになる。加えて、コンサルティング大手のデロイトが2023年4月にまとめた約2000人の米消費者に対する調査によれば、1981年以降に出生したミレニアム世代および2000年前後に出生した世代と、それよりも上の世代のエンタメの楽しみ方を比較した場合に、若年層でゲームとユーザー生成コンテンツ(UGC)が顕著に多く選好されていることが判明している。
ネットフリックスは自社の人気映画やテレビ番組を基にしたゲームのアプリをリリースするなど対応を怠っていないが、動画ストリーミングのコンテンツや魅力をさらに高めてゆくことが求められていると言えよう。
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