判定コストが激減!青森発、コメの銘柄を10秒で判定するAI搭載アプリとは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年2月1日 20時59分
あらゆる産業でDX化が進むが、コメの流通においては、いまだ人手に頼らざるを得ない分野がある。コメの銘柄判定もその1つ。そんな中、東北地方でコメの卸売業を営むKAWACHO RICE(カワチョウライス 青森県/川村靜功社長)がAIでコメの銘柄を判定するアプリを開発し、特許を取得した。果たしてどのようなアプリなのか。取締役の川村航人氏に話を聞いた。
銘柄を間違えて流通させることはできない
![米銘柄目視検査](https://diamond-rm.imgix.net/wp-content/uploads/2024/01/ricetag_1.png?auto=format%2Ccompress&ixlib=php-3.3.0&s=7dae151b563e5581bb51bb8af302614f)
日本人の主食であるコメ。青森県三沢市にあるKAWACHO RICEでは、生産から消費までの米流通を総合的にコーディネートし、公正な農産物検査を実施したうえで、銘柄米を全国各地に届けている。1932年設立の青果業務に携わる川長商店と、1967年設立の雑穀業務に携わる二葉商会が合併して1983年に誕生した川長の米穀部門から独立分社化、長年にわたって検査、保管、流通をワンストップで手掛けてきた豊富な実績がある。
![ペットボトルライス](https://diamond-rm.imgix.net/wp-content/uploads/2024/01/4f2e69ba9f9b84863881abffa3784ee2.png?auto=format%2Ccompress&fit=crop&h=300&ixlib=php-3.3.0&w=300&s=3582e55d00bc60f083b16c941a8a8de9)
主に青森・秋田県内の生産者から委託された銘柄米の卸販売を手掛けているKAWACHO RICEは、コメ作りを継承するために「稼げる農業」を前提として生産者に対するさまざまなサポートを行っているほか、時代の流れを読み取って消費者のニーズ応える新商品の開発や販売活動にも積極的に取り組んでいる。たとえばグループ会社が手掛ける「PeboRa(ペボラ)」は、無洗米をボトリングして売り出したペットボトルライスで、直営ショップやECで販売している。首都圏の百貨店にポップアップストアを開設して話題となったこともあるヒット商品だ。
川村氏によると、農作物検査法に基づいて行われるコメの検査の中でも、成分等検査によって1~3等の等級を決める品位検査では機械化がある程度進んでおり、精米機などの大手メーカーでは品質判定機器も取り扱い、その数値を参考に検査員が等級を付けているという。その一方、品種や銘柄は検査員の目視検査もしくはDNA鑑定でしか正確に判定できないのが現状だ。検査員には銘柄を間違えて流通させることはできないという大きなプレッシャーがかかり、DNA鑑定には数万円~数十万円のコストがかかる。その課題に向き合って開発されたのが、コメの銘柄を判定するAI搭載のアプリ「Rice Tag(ライス タグ)」だ。
AIによる銘柄判定を実現して特許を取得
![「Rice Tag」アプリ判定画面](https://diamond-rm.imgix.net/wp-content/uploads/2024/01/ricetag_3.jpeg?auto=format%2Ccompress&ixlib=php-3.3.0&s=5d5513a7639e3bb17963566fc9adb75f)
KAWACHO RICE自体も登録検査機関であり、8人の検査員が在籍している。取締役の川村航人氏もその1人で、銘柄米を取り扱ううえで検査の負担を軽くしたいという思いを以前から抱いていたそうだ。取引先からの誘いで参加したイベントでAIに触れる機会があり、そこで「AIを使った銘柄判定ができないか」という話になったことが開発のきっかけという。しかし思った以上に開発の難易度は高く、一緒に作る予定だった会社が撤退してしまったそうだ。そこで相談したのが、同じ三沢市に本社を置くヘプタゴン。クラウド導入を主にDXサービスを提供、東北エリアで初めてAWS(Amazon Web Services)の活用をサポートするAPN(AWS Partner Network)アドバンストコンサルティングパートナーに認定されている。すぐに「できると思います」という返答があり、青森県の補助金や地元銀行のチャレンジプログラムなどを活用して資金を調達し、2019年7月に「Rice Tagプロジェクト」を立ち上げた。
「Rice Tag」はバックエンドシステムにAWSを採用し、ML(Machine Learning=機械学習)の開発・運用環境はAmazon SageMakerで構築した。1回あたり1000~1500枚の銘柄米の画像を使用して機械学習のモデルをつくり、10サイクルのモデル学習を短期間で繰り返すことで認識精度を高めていったという。銘柄米を撮影した画像には1枚ごとに輪郭画像を作成し、銘柄の特徴をもとに米粒の形やサイズも加味した推論処理を実行していった。そうやってAIの開発と実証実験を進め、2020年12年には銘柄判定を実現。さらにブラッシュアップして、2023年3月22日に「米の銘柄判定方法及び銘柄判定プログラム」として特許登録した。現在は1品種だけでも5000枚以上の画像をAIが覚えている状態だそうだ。
川村氏は「自分たちが作り上げたものが、1つの技術としてきちんと認められるか。そこに興味があった」と話す。「Rice Tag」をインストールしたスマートフォンで撮影キットのトレーに載せた玄米約50粒を撮影すると、AIが形状や色などに特徴のある米粒を選び出し、数十秒ほどで銘柄を判定する。検査員が目視して判定を下すまでの時間と、AIが判定してスマホ画面に結果を表示するまでのリロード時間はほぼ変わらないそうだ。コメの銘柄は農作物検査員の国家資格を持つ検査員の目視で行うことが法律で定められているため、すべてをAIに委ねることはできないが、検査員の負担を軽減できるメリットは大きいだろう。
青森から出荷される銘柄米の価値を高めたい
![KAWACHO RICE取締役](https://diamond-rm.imgix.net/wp-content/uploads/2024/01/ricetag_5.jpeg?auto=format%2Ccompress&fit=crop&h=200&ixlib=php-3.3.0&w=300&s=eef31b66ee019b086b03fc3fc2efd405)
現時点で「Rice Tag」が判定できるのは、青森県産の「青天の霹靂(へきれき)」「つがるロマン」など4銘柄、秋田県産の「あきたこまち」など4銘柄の計8銘柄。テストで検査員と同等以上の正解率を達成している。川村氏は「まずは県内の検査機関に展開して、青森から出荷される銘柄米はしっかり検査された、品質が保証されているコメだと、価値を高めるアピールができれば」と言う。あわせて「こういった新しい技術を、地方からでも生み出せることを知ってほしい」とも。
![ricetag撮影キット](https://diamond-rm.imgix.net/wp-content/uploads/2024/01/ricetag_4.jpeg?auto=format%2Ccompress&fit=crop&h=300&ixlib=php-3.3.0&w=225&s=bf1a7703c500c6d426c6969ec7953f08)
品位検査の品質判定機器は導入に数百万円の費用がかかり、設置するための場所も確保しなければならない。しかし、この「Rice Tag」で銘柄を判定するために必要なのは、スマートフォンへのアプリのインストールと、米粒を載せる黒いトレーの撮影キットだけ。川村氏は、「事業化すれば、月額2000~3000円で使っていただけるのではないか」とする。サブスクリプション型での展開が見込めそうだ。
農林水産省が公表している資料によると、全国にある登録検査機関は2023年3月末現在で1739機関、検査員は1万9509人いる。しかし、農業に携わる人の高齢化と人手不足が進む懸念は、農作物検査においても変わらない。そこで登場した、コメの銘柄を判定し、検査員の負担を軽減できるAI搭載アプリ「Rice Tag」。青森で生まれた発明は、これから、どのような広がりを見せていくだろうか。
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