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ZOZOに勝つ!日本のアパレルが「シーイン」になる唯一の手法とは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年1月21日 20時59分

Robert Way/istock

盤石の強さを誇るファーストリテイリング、ファッションECを完全に抑え込むZOZO、そしてシーインなど圧倒的低価格で日本市場を攻める“アジア外資”。これら企業の前で、ジリジリと負け戦に入っているのが、いまの多くの日本のアパレル企業だ。この日本のアパレル企業に対し、逆転必勝の戦略を今回はお届けしたい。具体的に本稿では、株式会社ZOZOを想定競合先とし、彼らの脅威とその裏側を記したうえで、逆転戦略を明示する。

アクティブ会員1000万人越えの
ZOZO
の脅威から逃れられるか?

ZOZO ロゴ
(時事通信社)

 すでに日本市場の12%程度を占めているファーストリテイリング(アパレル市場規模を8兆円、ユニクロのシェアを約1兆円と想定)を想定競合先としなかったのには理由がある。最大の理由は、ユニクロ拡大は一般アパレル企業の「負け戦」とは直接的な関係はないということだ。ユニクロが戦っているアパレル市場は、他のアパレルが戦っているアパレル市場と全く同じで、ユニクロが勝っていても、他の競合アパレルがよいものを売れば、他の産業、例えばコスメ産業やアミューズメント産業から市場を奪い、アパレルビジネスの売上は上がる。しかし、ZOZOは違う。説明しよう。

 ZOZOの顧客は、全体の会員数が1141万人、アクティブ会員数が1019万人(いずれも23年3月期末時点)と日本人の10人に1人はZOZOお買い物をしている顧客なのだ。これは、一時期、ZOZOSUITSなど奇抜なツールの開発に加え、前社長の有名女優との交際、宇宙旅行など「前澤劇場」に翻弄されメディアもZOZO一色になったこととも無関係ではないが、それら以上により本質的な要因は、「日本のアパレルがZOZOに自らの顧客を差し出している構造」にある。「プラットフォーム」という言葉が流行だした、まだプラットフォーマー黎明期ともいえる時期から私は、「ZOZOに出店したら、あなたの顧客のクレジットカードや購買履歴はあなたではなく、ZOZOに残ります。これからの時代はデータの量と質が勝敗を決するため、絶対にあなたの優良顧客情報を渡してはいけません」と何度も繰り返し言及してきた。

 しかし、残念だが、私の助言は日本企業に届かなかった。例えば、その当時支援していた企業は、私にサプライチェーンを頼み、マーケティングを有名な戦略系コンサルに頼んだ。呆れたのは、その戦略系コンサルの連中は、「ZOZOの顧客とうちの顧客は違う」と、理解不能なロジックを振りかざし、ZOZOをはじめとする外部出店を繰り返し、顧客の60%以上がデッド(登録だけして離脱してしまった顧客)となったのだ。結果、せっかく苦心して成し遂げた黒字化も2年で大赤字に逆戻りしてしまった。

 確かに、リアル店舗の売上向上は「出店数 x 店舗あたり売上」である。しかし、それは、店舗が持つ商圏エリアが、物理的に限界があるからだ。簡単にいえば、北海道の大丸でお買い物をする人は、九州の大丸までいかない、東北の百貨店でもいかないだろうということである。しかし、ウエブは違う。ワンクリックで我々はニューヨークのサーバから、シンガポールのサーバに移る。「物理距離」がないのだ。距離には「時間距離」「物理距離」「精神距離」の3つがある。時間距離というのは、AからBへ移る時間を表し、精神距離というのは、その店舗と自分の好みが合うか合わないかを表す。この「3つの距離」が遠いのである。

いまからZOZOに勝つデータベースを作ることは不可能

 また、そのブランドの服しか買わないという顧客の割合である「服の顧客率」は、10代から40代まであまねく20%もない。ほとんどの人がある程度の幅をもって、複数のブランドをホッピングしている。「うちの顧客とZOZOの客は違う」などという人たちはどういう調査をしているのか。

 いずれにせよ、ユニクロ快進撃、外資SPAの躍進、Z世代の中国・韓国アパレルの抱え込みに、外的要因としてSDGsによる「買い控え」が加わり、確実にアパレルマーケットはシュリンクしている。今、調子が良いのは過去例をみないほどの円安がつづき、「観光立国」をうたった岸田政権のインバウンド誘致とコロナの反動、いわゆるリベンジ消費のおかげだろう。大事なことは、PDCAというのは、負けているときだけにやるのでなく勝ったときこそ正しい投資を行い、「買った理由」を分析することが大事なのだが、日本企業は概して負けたときに慌てて、PDCAだと会議や承認を増やす。

 こうして、今年の猛暑が再び襲ってくる夏あたり、日本のアパレルは在庫の読み違いによる大ダメージを受け、中国・韓国などアジア・アパレルの日本への本格参入が始まるというのが私の「読み」だ。この「デジタル x AI時代」には、SPAは負けるモデルなのである。デジタル x AIの時代は「無在庫マッチングモデル」(シーインのビジネスモデル)が勝利のモデルなのだ。

 さて、こうして売上が下がった状況で無理に売上を取ろうとするとどんなことが起こるか。私が再三「循環経済下では、売上・利益の大きさは企業の強さを表すわけではない」といっているにも関わらず、下調べも準備もしていない状況の中で、唯一絶対的に売上が上がるのは「ZOZOTOWNへの出店」ということになる。そして、日本人の10人に1人がアクティブ会員だという事実にもかかわらず、御用コンサルに「顧客が違う」など、意味不明なロジックをつくらせ、自分の顧客を差し出す(ZOZOTOWNへ出店する)わけだ。

 私は通販企業で取締役やコンサルを6年やっているから、一旦自社サーバに顧客情報を入れたら、通販企業は全精力を集中し、その顧客を絶対に逃さない。アップセル、クロスセルで売上を上げるなど、あの手、この手でLTV (顧客生涯価値)を長期化させてゆく。いまだに、日本のアパレルの事業KPIは、商品ベース(商品回転率、商品粗利、交差比率など)で顧客ベース(CPA/LTVなど)ではない。ボケッと商品ベースのKPIを追いかけている間に、顧客ベースの管理会計を導入している競合にしてやられるのである。

 それでは、我々はZOZOを無視できるのかという疑問にたどり着くが、残念ながら、時既に遅しである。よほど差別化できる戦略を実践できなければ、売上面で大きなダメージを受けることになる。なにぜ、日本人の10人に1人だ。よく考えていただきたい。ZOZOは在庫リスクも持っていない。在庫リスクはテナント側が持つ。また、AIをつかったクロスセルや、よりコスパのよい類似商品へのリプレイスもZOZOがイニシアティブを持っている一方、値下げやポイントはテナント側の負担になる。ZOZOにとってよいことばかりなのである。このように、「優良顧客」をしっかり抱え込んでいる企業は、売上がある臨界点を超えたら勝ちサイクルに入ってゆき、誰も止められなくなる。テナント側はほとんど使えないマーケティングデータが見えるだけで、ZOZO店舗内での自由度もほとんどない。

 それならば、このZOZOモデルを他のアパレルがやればよいではないかと素人はいうだろう。しかし、日本人に10人に1人というアクティブユーザを抱えるZOZOに勝つデータベースを今からつくるのは不可能だ。

 では、どうすればよいのか? そこで出てくるのが「シーイン・モデル」だ

中身も知らずに、Dholicの無在庫経営を語る呑気な日本人

 私が中国のシーイン、韓国のDholicについて本連載で何度も論考を書いている理由は明快だ。ZOZOとは全く異なる「勝ちパターン」である「無在庫マッチングモデル」を作り上げたからだ。在庫リスクも価格変動リスクもなく、手元資金も不要。キャッシュコンバージョンサイクルはマイナスという資金繰りで、このモデルは盤石だ。しかし、テナント側にしてみれば「蟻地獄」のようなもので、一度足を踏み入れたらもう出られない。売上を大きく下げることができないからだ。結局、テナント側からするとこれは、「蟻地獄」から命からがら這い出てきても、勝つための戦略も何もないために起きる。

 例えば、私は中国のシーインの「無在庫マッチングモデル」を逆にして、日本からやればよいと云っていたが、そんなことはすでにDholicが韓国東大門市場からのD2Cでやっている。ネットで調べていたとき「Dholicの無在庫経営!」などと理由も戦略解説もない呑気な分析をしていた寄稿があったが、なぜ、彼らだけがそういうことができるのか、また、どうすればよいのかという最も大事なところが抜けている。これこそ、冒頭のPDCAができていない証拠だ。今、日本市場に繊維製品を輸入するには10%前後の税金がかかるが、Dholicは、シーインと同じ「クーリエ便」を活用している。それにより、「個配」(個別配送)で、無税で越境ECというかたちで運ばれる。これこそ、本当のD2Cなのである。

 したがって、在庫リスクをもたないのは、持たなくてもよい理由があり、安いのは安いなりの理由があるのである。アパレルの上代を下げるには、損益分岐点を下げるのでなく、「値付けを工夫し、プロパー消化率を上げることだ」ということは、先週、先々週に数式を書いて説明したとおりだ。

シーインモデル導入のために必要な3つの公式とは

Robert Way/istock
Robert Way/istock

 シーインモデルを日本企業がやるためには、以下の公式を覚えておく必要がある。

  1. なにより優良顧客基盤を持つこと(Dholicはいまから5年後の優良顧客をもっている)
  2. 売れない前提で上代を決めるのでなく、売れる価格に下げプロパー販売を基本とする
  3. 海外に出荷するときは、個配で、クーリエ便で送る(国によって異なるが、多くのケースにおいて一人分の荷物は無税)

 理屈は、以上の3つだ。ここにソフトを載せるわけだが、韓国は「Kポップ」をのせ「Kファッション」をつくってくるはずだ。我々は「Jファッション」のソフトをビジネスモデルに載せる。このコンテンツは、まさにブランドの顔となる。今、日本の10代、20代の女子達の80%が「韓国ファッション」と「韓国コスメ」を参考にしているというデータは、先週の論考で見せたとおりだ。これから5年の投資を間違ってはいけない。

 競合は誰になるのか、誰に売って、彼女たち、彼ら達の服に払うお金はいくらで、どういう服を好むのか。今からしっかりとプロジェクト・チームを結成して戦う準備をしてもらいたい。勝っているときこそ手綱を締め、骨太の戦略をつくる時である。本稿に関する討議には喜んで参加するし、お手伝いもしたい。ぜひご検討をお願いしたい。

 

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プロフィール

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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