トライアル×九州大学病院が立ち上げた「ライフケアテックコンソーシアム」とは何か?
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年2月11日 20時59分
1月26日、トライアルグループは「ライフケアテックコンソーシアム」の設立を発表しました。福岡県にある九州大学病院との共同プロジェクトで、購買データと医療データを掛け合わせた研究を行っていきます。今回は、なぜトライアルが医療に携わるのか、小売と医療がどう結びつくのか、そしてどんな成果が期待できるのかをお伝えします。
日本では類を見ない新しい研究体制
「小売」と「医療」という組み合わせを、不思議に思う方も多いかもしれません。実際、今回われわれが九州大学病院と設立した「ライフケアテックコンソーシアム」は、日本初の研究体制となります。
実は、九州大学病院との連携は2021年にスタートしていました。トライアルで購入された商品データと、購入者の性・年代データ(個人を特定し得ないデータ)を医学的視点から分析し、属性ごとの生活習慣の推測や、健康上のリスク測定などを実施。病気の超早期発見や健康寿命延伸といった新たな価値創造を最終的なゴールに設定し、取り組みを継続してきました。
同病院の母体である九州大学とは、それより早い18年頃から、私が非常勤講師を勤めさせていただいているほか、購買データの利活用について連携していました。また、福岡県宮若市でのリテールDXの拠点づくりや同地でのトリエンナーレ(美術展覧会)の企画など、地域活性化につながる取り組みも共同で行ってきました。
一方でちょうどそのころ(18年)、トライアルは「Skip Cart®(スキップカート)」などのIoT機器を店舗に導入しはじめています。そこで得られるデータは、お客さまの利便性向上を目的としたショッパーマーケティングやカテゴリーマネジメントにおいて活用してきました。これまでは流通産業での活用が主でしたが、今回初めて、医療DX分野での本格的な研究を九州大学様とのこれまでの連携の延長線上で開始することになったのです。
今回設立したコンソーシアムでは、「購買データと医療データの活用により健康維持、未病の新たな知見を得る」という目的の達成を掲げています。
国内の平均寿命が男女ともに80歳を超える中※1、日常生活を問題なく過ごせる身体状態を指す「健康寿命」の考え方に近年注目が集まっており、罹患した病気を治すことと同じくらい、「病気にかからないため」の予防医療も重要視されはじめました。
トライアルは「世界の誰もが豊かさを享受できる社会をつくる」というパーパスを掲げていますが、それは小売に限った話ではありません。われわれのデータをきっかけにヘルスケア分野の研究が進み、より多くの方が豊かな生活を送れる状態を実現したいと考えています。
※1…厚生労働省2022年のデータより
「ワンヘルス」という考え方
医療DXを進めていくうえで注目したいトレンドに、「ワンヘルス」という言葉があります。これは、ヒトと動物、それを取り巻く環境(生態系)は、相互につながっていると包括的に捉え、人と動物の健康と環境の保全を担う関係者が緊密な協力関係を構築し、分野横断的な課題の解決のために活動していこうという考え方です※2。
※2…厚生労働省HP 広報誌「厚生労働」より
コロナウイルスをはじめ、人と動物双方に感染する「人獣共通感染症」はWHO(世界保健機関)で確認されているものだけでも200種類以上あります。これらは、人口増加、森林開発や農地化などの土地利用の変化、これらに伴う生態系の劣化や気候変動等によって人と動物との関係性が変わったために、元来野生動物が持っていた病原体が、さまざまなプロセスを経て人にも感染するようになったものと考えられています。
こうした「人獣共通感染症」が、さらに人から人に感染すると、ほとんどの人がまだ免疫を持たないため、時に大規模な流行(パンデミック)となって、人類に甚大な危害を及ぼしてきました。
このような歴史は、私たちに、人と動物の健康と環境の健全性は、生態系の中で相互に密接につながり、強く影響し合う一つのもの「ワンヘルス」であると教えてくれます。私たちは、これらの健全な状態を一体的に守らなければならない使命があると考えています。
そのために欠かせないのがエコシステム・オープンイノベーションで医療DXを進めていくことです。その第一歩となるのが今回のコンソーシアムとなります。
購買データで「予防医学」の推進を促す
コンソーシアムの大きな研究テーマは、病気のもとになる因子の解明です。トライアルから提供するのは「e3smart」という自社開発のデータベース基盤と、店舗の商品購入履歴・購入者の性や年代といったデータです。これらは国の定める特定業者により九州大学病院が持つカルテなどの医療データと掛け合わせて、個人を特定しないデータを作成したうえで研究を進めます。
購買データを読み解いていくと、顧客の生活習慣により購入商品の傾向が異なります。それをもとに健康上のリスク測定を行い、「こういった傾向がある人は〇〇の病気の発生リスクが出てくる」「この商品を毎日買う人々はリスクが低い」といった基礎研究により病気の元になる因子の解明につながり、九州大学における「病気になってからの治療」から「予防医学への転換」に貢献できます。
なお、この取り組みは特定の食材や商品を否定するものではまったくないことをお伝えしておきます。コンソーシアムにはアサヒグループジャパン様や日本ハム様、東洋水産様などをはじめ設立時点で20社の企業に参画いただいており、ともに予防医療を促進するパートナーとして取り組んでいく予定です。賛同企業には今回の研究で得られたデータを提供し、健康に貢献する商品開発に役立てていただきます。
いくら有効なデータや研究結果が得られても、結果的に消費者の生活習慣が変わらなければ意味がありません。さまざまな業種の企業が横串で動くことで、初めて成果を最大化できると考えています。
2026年にデータ基盤完成をめざす
まずは今年中にトライアルと九州大学病院が持つデータを突合し、基礎研究の準備を行います。生活習慣病と購買データの因果関係をある程度整理したうえで、来年以降は参画企業や卸業者も巻き込み、具体的にどのような商品やサービスの開発ができるかということを議論していく予定です。
2026年にはデータ基盤を整え、より本格的な研究や実証実験を行える状態になることが当面の目標です。
医療と日常生活は密接につながるものでありながら、その関係性を図る術はなかなかありません。生活スタイルによる病気への因果関係で解明されていないことは数えきれないほどあり、今回の取り組みで予想だにしない結果が出てくるであろうことをわれわれ自身期待しているとともに、そこから得られたデータを小売事業にまた生かす、という好循環をつくっていけることに期待しています。
そして、購買データから予防医療を促進させるという試みが、トライアルだけでなく世の中のあらゆる新しい可能性へのチャレンジにつながればと思っています。
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