街中華で聞いた、ナフコの意外な差別化戦略エピソード
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年2月9日 22時0分
前回同様、放浪したのは金沢エリア。石川県松任市のホームセンター(HC)で買い物した後、近くの街中華へ立ち寄る。店内を観察していると珍しいメニューを発見、事情を聞くと店主は意外な開発エピソードを明かした。中華の世界も競争が激しいが、経営者としての姿勢に感銘を受けたというお話だ。(取材日:2023年12月16日)
HCとの相性がよい金沢
金沢は「ものづくりのまち」と言われる。江戸時代、加賀藩主の前田家は文化を重んじ、優れた職人を京都から呼び寄せるなど独自の施策に力を入れた。そんな歴史的土壌もあり、今も個性ある工芸品、各種製品、農林産物を生み出し続けている。
象徴は、JR金沢駅前に2005年3月に建てられた「鼓門(つづみもん)」。ここに来るたび「伝統と創造のまち金沢」というフレーズを思い出す。
「ものづくり」と相性がよいのはやはりHCである。そこで足を運んだのは、金沢駅から約10分の松任駅近くの「ナフコ松任店」。10年7月オープンで長らく地域に親しまれてきた店舗だ。
店内には、DIY関連や日用品、家具など生活に必要な商品が並ぶ。私は比較的コンパクトな売場を何度も回遊、じっくりと品揃えを吟味し、気になるアイテムをカゴに入れた。
1つ目は、「ホットサンドメーカー」(税込1490円)。ナフコのプライベートブランド商品だ。家庭でホットサンドをつくって楽しむ人が多いことは知っており、以前から欲しかったのだ。トースターのような電気式もあるが、やはりまずはシンプルな直火式がよいと思った。
新しい道具を導入すると生活は変化する。私はHCが好きな理由はここにある。
次は「和歌山生まれの手袋たわし」(税込405円)。最初、普通の軍手に見えた。しかしメーカーの本社所在地は和歌山県「海南市」。さらに商品には「手袋職人が考えた逸品」とのキャッチコピーが記されている。もう買うしかないと思った。
海南市は古くから良質のシュロが栽培され、タワシやほうきといった家庭用品の一大産地。しかし近年、安価な海外製品に押された結果、かつての勢いを失っている。厳しい状況にあり、メーカー各社は、持てるノウハウを活用して巻き返しを図ろうと努力している。このような話を取材で聞いた経験があり、関心を持った。商品の特徴については後に詳しく説明する。
HCは安い商品で集客することも大事だが、やはり小売業発展のため、優秀な日本製品を応援してもらいたいとの思いがある。売場では価値訴求するPOPを添えるなど、売る努力、工夫もしてほしいと願うばかりだ。
ふと目にとまったメニュー
続いて向かったのは、JR松任駅の反対側にある「中華の丸八」。スマホで検索、評判がよさそうな街中華だったので行こうと決めていた。
暖簾をくぐると、まだ時間が早いためか、お客は私一人だった。店内はカウンターのみ。店主と、その妻と思われる2人で切り盛りしているようだ。席に着いた私はメニューに目を通し、ワンタン麺、ギョーザ、ビールを注文した。
料理が来るまで時間があるので、さっき買った「和歌山生まれの手袋たわし」をお見せしたい。私の心をつかんだのは商品パッケージの裏面にあった「こんなところにオススメ」という使用例。「シンクを洗う」「自転車のお手入れ」とともに紹介されていた、「お墓を洗う」というシーンだ。
私の家では定期的にお墓参りするが、実は墓石の汚れが以前から気になっていた。もちろん磨けば大体はきれいになる。しかし文字の部分だけは洗いようがない。黒いままで、解決策を探っていたものの、緊急度は低いので放置していた。そこへHCで見つけたのが和歌山の手袋である。特殊繊維を使っており、指を突っ込めば「文字の溝まで手洗いできる」という。これだ!と思った。やはり悩みを解決してくれる商品は欲しい。
さて、そうこうしている間に、ビールとギョーザが到着、続いてワンタン麺が来た。1日中、歩いたので、もうくたくたである。しかしビール、ギョーザで疲れは吹き飛んだ。さらにワンタン麺もとてもおいしく、満足した。
お腹いっぱいで呆然としていたところ、厨房の上部に掲げられているメニューが目にとまった。「牛乳ラーメン」(700円)──。意外な組み合わせに驚く。注文する人はいるのだろうか。そもそも、なぜこれを作ろうと思ったのか。数々の疑問が頭をよぎる。
お会計の時、思い切って店主に質問してみた。すると次のような興味深い話を教えてくれた。
創業は昭和51年。牛乳ラーメンは約30年前から出している。開発動機は、ラーメンも進化する必要があると思ったから。周辺にラーメン店が多く、競争は激しい。だから他店にはない料理を提供しなければ生き残れない。
最初、まったく売れなかったが、ある時、テレビ番組のロケで芸能人が来て、食べてくれた。それが宣伝になり、おかげさまで看板メニューのひとつに育った──。
これには唸った。どの業界も環境は熾烈、いつの時代も差別化への手は緩めてはいけないと感じた。
意外な場所で聞いた、意外なエピソード。感銘を胸に、私は小さな街中華を後にした次第である。なお帰る時、店は満席になっていたことをつけ加えておく。
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