ロカボは1日の血糖値が安定する朝食から始めるのがベスト
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年2月20日 1時5分
健康志向を背景に緩やかな糖質制限を行う「ロカボ」の認知は年々、広がっているが、ロカボを実践するのは難しいと考えている人が多い。そこでロカボの普及に取り組む一般社団法人 食・楽・健康協会では、誰でも無理なく日常生活にロカボを取り入れてもらうために、「朝ロカボ」を提案。朝食の糖質量を見直すことで、1日を通して恩恵を受けられることがわかっている。
ロカボの基本的な考え方は、おいしく楽しく適正糖質
体を動かすための大切なエネルギー源の役割を果たしている糖質だが、摂りすぎると肥満や認知症、ガンのリスクを高め、疲労や不眠などの体調不良にもつながることがわかってきた。糖質は血糖値を上げる原因となっているため、適正な糖質摂取を心がけることで血糖値上昇を抑えることができる。極端な糖質制限ではなく、おいしく楽しく適正糖質を摂ることを推奨しているのが、北里研究所病院 副院長・糖尿病センター長の山田悟氏だ。
「ロカボとは、糖質量を1食20~40gに抑えたものを3食と、これとは別に1日10g以下のデザートを楽しむ、1日70~130gに糖質量を抑えた食事法です。糖質以外のカロリーや脂質、たんぱく質などに制限はないので、糖質の量だけ気にしていれば、おなかいっぱい食べてもいいのです」(山田氏)
こうしたロカボの考え方を広く普及させようと、山田氏は2013年に一般社団法人 食・楽・健康協会(以下、食・楽・健康協会)を設立。ロカボの考え方に賛同する企業はロカボパートナーとして同協会に加盟し、糖質をコントロールできるロカボ商品を次々と開発している。さまざまなカテゴリーでロカボ商品が開発されるなか、消費者がそれらを認識して購入できるように16年にロカボマークが生まれた。マークの付いた商品を選ぶことで、1食あたりの糖質量を簡単に計算することができる。
朝食抜きは昼食と夕食で、血糖値が上がりやすくなる傾向
ロカボの認知が広がり、糖質制限した方が健康のためにいいとわかっていても続けられるのか不安だと考える人は多い。そこで山田氏は「糖質の摂り方を見直すなら、朝食から始めるのがベスト」だと話す。どんな健康法もさまざまな社会環境のなか、毎食それを厳守することは難しい。だが、自宅で食べる機会の多い朝食だけ糖質制限食にすることはそれほど難しくない。米国の臨床栄養学雑誌に掲載された研究結果によると、糖質制限食を朝食メニューにした群と、脂質制限食を朝食メニューにした群とでは、糖質制限食を朝食とした群の方が、血糖値が改善され、1日のエネルギー摂取量が抑えられたという。
「糖質は20~40g以下に抑え、さらにたんぱく質と脂質を十分に摂る。すると血糖値は上がりにくく、食欲が安定するので、昼食以降の食べすぎも抑えられるわけです」(山田氏)
また、【グラフ】にあるように、朝食を抜くと昼食と夕食で血糖値が上がりやすくなるデータもある。ダイエットのために、夕食で低糖質を実践する人も見受けられるが、ロカボで重要なのは朝食といえる。新生活が始まる春には小売店で「朝食フェア」を行っているが、「朝ロカボ」のメニュー提案を行うことが、小売店にとっては買い上げ点数アップになり、生活者にとっても健康維持につながりそうだ。
【グラフ】 朝食あり/なしの1日の血糖値の変化
低糖質で必要な栄養素が摂れる、ロカボプラスマークが続々
ロカボマークに続いて、21年には新基準としてロカボプラスマークも誕生した。ロカボプラスマークとは、従来のロカボマークで規定された糖質量の条件に加え、たんぱく質や食物繊維の含有量など、5つの条件のうち1つ以上を果たした商品のみに付与される。そのため、ロカボプラスマークの商品を選べば、糖質を抑えながら、不足しがちなたんぱく質や脂質、食物繊維も摂ることができる。
この新基準に認定された初の商品が、マツキヨココカラ&カンパニーのオリジナルヘルスケアブランド「matsukiyo LAB」。持続可能な低糖質ライフをサポートする「サステナブルロカボライン」として21年5月にチョコレートやビスケットなどの菓子類からスタートし、22年秋には主食カテゴリーのオートミールを発売。23年秋には糖質28.5gのパックごはんを発売した。ごはんの糖質を抑えることで、副菜で糖質を摂ることができ、より豊かな食事メニューを楽しむことが可能となる。
ドラッグストアチェーンのウエルシア薬局は、プライベートブランド「からだWelcia・くらしWelcia」から、お魚ソーセージ「うまみがギュッ!食感プリッと!お魚ソーセージ」を23年10月に発売。糖質は13.2gで、たんぱく質は19.6gと、低糖質で手軽にたんぱく質が摂れる商品となっている。
そのほかにもロカボプラス認証商品は広がっており、成城石井では、22年4月よりオンラインショップ限定で冷凍弁当「成城石井やまだ式ロカボBento」を発売。主菜・主食・副菜2品をワンプレートディッシュのお弁当にしたもので、味も量も満足感のある仕上がりを追求した。山田氏が1食あたりの糖質量とたんぱく質量を、味は同社のセントラルキッチンのシェフが監修している。冷凍状態で宅配されるため、ストックしておけるので、忙しい時の食事として最適だ。
外食チェーンにおいても糖質制限の食事が広がっている。牛丼チェーン店の「すき家」では、22年10月に外食業界初となるロカボプラス認証を受けた「お食事サラダ」の販売を開始した。ワンプレートで満足感を得られる商品で、レタスやブロッコリーなど6種類の野菜に、十六穀米や自家製ベーコンをトッピング。メーンの食材は牛肉とチキンの2種類から選べる。いずれも糖質を抑えながらたんぱく質も摂取できる商品だ。
一方、ゼンショーホールディングスは、京都大学大学院農学研究科と共同で「外食低糖質メニューおよび中食低糖質メニューが食後血糖値に及ぼす影響」に関する研究を行った。その結果、「すき家」で販売している低糖質メニュー「牛丼ライト」を摂取した際、今回の試験で使用した中食低糖質弁当や中食通常弁当に比べて食後血糖値の上昇が抑えられたことを確認した。「牛丼ライト」は、ごはんの代わりにゆずぽん酢をかけた豆腐とサラダを使ったヘルシーな牛丼で、糖質を気にする人から好評となっている。
さらに牛丼チェーンの松屋では、23年9月から定番定食からライスを抜いたものを「ロカボライフ応援メニュー」として販売を開始した。糖質制限をおいしく楽しく続けていくために、外食や中食などでもこうしたロカボ商品やロカボプラス商品を取り入れていくことが重要となる。
低糖質を実践することで、アスリートのパフォーマンスが向上
食・楽・健康協会では、ロカボをさらに普及させていくために、新たな切り口の取り組みを行っている。その1つが、アスリートのパフォーマンス向上のための食後血糖値の啓発活動だ。
「さまざまな疾病の根底にあるのは食後高血糖です。血糖値の乱高下は細胞膜レベルで体を不安定にさせます。食後高血糖を予防すれば、集中力が途切れることなく、パフォーマンスを向上させられます」(山田氏)
23年シーズンに糖質の摂り方を見直したのが、福岡ソフトバンクホークスの左腕、和田毅投手だ。22年シーズンまで登板前日に炭水化物を多く摂る「カーボローディング」を実践していたが、ここ数年は登板日の朝に目覚めると、体がかなり重く感じることが続いたことをきっかけに、山田氏から栄養の摂り方のアドバイスを受けてロカボ生活を実践。23年シーズンはカーボローディングを一切やめ、炭水化物の摂取量を抑えた結果、登板日の体のだるさはなくなり、投球イニング数が伸び、1年間ケガなく過ごすことができたそうだ。
「若い頃は食後血糖値がそこまで上がる人は少ないが、年齢を重ねると血糖値はさらに上がりやすくなります。40代くらいになると、少なくとも2人に1人は血糖異常が出ると考えられています」(山田氏)
アスリートを通して糖質制限の大切さを伝えて、「すべての人が健康で幸せな生活が送れること」を達成していきたいと山田氏は考えている。
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