教えて本多利範さん!「商品の値上げは、価値をいかに付加するかが重要なポイント」
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年2月21日 0時11分
景気の不透明感が続く中、値上げが止まらない。一方、コロナ禍を通じ、人々の価値観が大きく変化、企業にとっては難しい時代である。これに対し、本多コンサルティング(東京都)の本多利範氏は「業種、業態を問わず、生活者との信頼関係を守りつつ、価値を提供することが重要だ」と説く。
本稿は新連載「教えて本多利範さん!」の第1回です。
現在は「一人十色」の時代
バブル経済の崩壊以降、賃金が上がっていないと言われる。ハンバーガーの価格を見てもわかるように、物価はアメリカと比較し3分の1の水準だ。そうした中、昨年から各種商品の値上げが相次ぐ。われわれ日本人が今目にしているのは、この30年間、誰も経験してこなかった状況だ。
大局的には、インフレが進み、賃金が上がることで経済がうまく回るのなら悪いことではない。世界経済に目を向けると不安定な部分も多く、必ずしも楽観視できない。私自身は、本当に好循環が起こるかどうかはやや疑問だと考えている。
とはいえさまざまな商品の値段が上がるのを見て、人々の間には「物流費、人件費などのコストが高騰しているのでやむをえない」と、受け入れる意識が広がってきているのも事実だ。生活者が理解したうえでの値上げであれば、日本経済にとっては好ましいとの見方もできる。
あらためて消費を取り巻く環境に目を向けると、ここ数年で人々の価値観は大きく変化した。これまで常識とされたことが通用しなくなったことも多い。働き方も、以前なら毎日、会社に出勤し、残業することが当たり前だった。しかし現在は自宅でも働けるという風潮が浸透している。
きっかけはコロナ禍である。ライフスタイルが変わったほか、さらに少子高齢化といった要因も複雑に重なり合っている。
ニーズも多様化している。歴史を遡れば、メーカーが主導の売り手社会ではいわば「十人一色」だった。しかし買い手が強くなると生活者の好みに応じて「十人十色」になり、現在は「一人十色」の時代が来ていると実感する。個人の中でも、多様なニーズがあるわけだ。
モノの買い方も以前とは違ってきている。買物をする場所も店舗のほか、ネット通販もある。さらに好みが多様化したことで、必ずしも価格だけが買物の基準ではなくなっている。価値があると感じたものに対しては、普段の生活を切り詰め、高いモノを買うケースは決して珍しくない。
つまり消費には価値観、楽しさ、時間といった要素も大きな影響を与えているわけだ。
「ステルス値上げ」は厳禁
本当に欲しいと思えば人は買物をする。ただし値上げが続けば、家計には大きな負荷がかかるのは避けられない。生活者は、いかに節約し値上げ分を吸収するかが、買物を決断するあたってのポイントになる。
最近、面白いと思ったのはラーメンの食べ方だ。肉や野菜を加え、ラーメン店で出されるように自分でアレンジして袋麺を楽しむ人が多いそうだ。値上げの中でも、各人が工夫しているのだろう。
こんな状況の中、価格を変えずに容量を減らす「ステルス値上げ」の手法を使うのは厳禁だ。すぐに生活者から見抜かれ、見放されるきっかけになる。小商圏の時代にあり、お客が離れることは致命的である。やはりお客との信頼関係を守りながら、求められる価値を商品に付加して値上げを乗り切ることが大切なのだ。
うまく価値を付加しながら、値上げしたケースで思いつくのは、「セブン-イレブン」の入れ立てコーヒーだ。2022年春、値上げに踏み切る際、価値を提供することで、お客の満足度を高めることに成功した。
具体的には、コーヒーマシンを入れ替え、濃度を調節できるようにした。同じコーヒーでも、朝は濃いものが飲みたい人もいる。しかし夜は濃いと眠れなくなるため、少し薄めがいい。値上げ後、売上が伸びているとのことで、生活者にも受け入れられたのだと思う。
同じカテゴリーでも「松竹梅」のような品揃えを工夫するのも一案だ。私は、これを「三階建てマーケティング」と呼んでいる。お買い得商品、標準的な商品のほか、こだわり商品も揃えると、多様なニーズに応えることができ、結果として売上を伸ばすことができる。
いずれにせよ、いかに付加価値を高めるかが、生活者から支持を得るための重要な施策になる。
本多利範さんの書籍「お客さまの喜びと働く喜びを両立する商売の基本」
本多 利範 著
定価:1650円(本体1500円+税10%)
発行年月:2022年03月
ページ数:276
ISBN:9784478090787
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